クリストファー・クロス クリストファー・クロス(Christpher Cross)
今になって、クリストファー・クロスって誰と思う人が多いかも知れないけれど、80年代のAORの有名なアーティストです。AORを代表するアーティストとして、ボビー・コールドウェル、マイケル・マクドナルドが挙げられますが、要するにおしゃれなポップスといった感じです。詩情的というかロマンチックというか、シティ派というか、繊細な歌声とか今になってみれば、ノスタルジーすら漂う穏やかなカテゴリーです。
本格的な私の青春は90年代中頃ですが、よく音楽を聴いて、ラジオの最新音楽とかもチェックしたり、オリジナルテープを作ったりしたのは、80年代から90年代初頭でした。その頃にかかっていたのは、ヘビーメタル(デフレパード、ハロウィーン、パンドラ)ロック(ホワイト・スネイク、ボンジョビ、キッス)ポップス、ブラコン、パンク、ラップ(ヒップホップはまだない)テクノ、ハウス、ファンクなどに混じって、AORなどが清風のように大きな存在としてありました。今になって思うと、
グランジやオルタナとかコアメタルとかなくて、しかもあまりクロスオーバーすることなく音楽のジャンルがはっきり別れていました。
多感な中学生や高校生であった私は、ファンクを聞きながら心を落ち着けたいとき、または自意識過剰に浸りたいときにはAORの繊細な音楽の世界にため息をついていたように思います。(恥ずかしいナァ、でも、そんなもんです)
そのようなときに、クリストファー・クロスはもってこいのアーティストでした。その繊細で落ち着いた音楽の中に、慕情とか街並みとか都会(田舎の反動かしら)とか、恋心とかそういうのがロマンティックに詰まっているからです。
なかでも一番好きだったのは、もうクリストファー・クロスが落ち目になってしまった時に出したアルバム「back of my mind」の中での「any old time」です。ほとんど歌詞を暗記するほど聞き込みました。内容は、永遠の異性の友達の存在がいることの幸せを歌っています。「誰もが一度や二度は人生をともにする友人に出会うもの」「すてきな愛はいつまでも続くものじゃない、自分の不運を信じたくないけれど、君が友達で本当によかったよ」「新しい友人を作りなさい、旧友はそのままに、銀と金に値する友人を作りなさい」などなど私の多感なころの青春と現在も続く数少ない、けれどもかけがえのない異性の友人が残っている一つのメルクマールとなった歌でした。
また、クリストファー・クロスの生き様も音楽シーンの衰退とともに或いは、個人的なバイオリズムで大きく変わっていきました。ファーストアルバムでは爆発的に華々しく登場し、セカンドでもそこそこ成功し、モデルの嫁さんをもらいました。しかし、サードであまりパッとしないうちに、AORシーンも下火になり、離婚をしてしまいます。4作目「back of my mind」では本当に惨めなほどに売れなくて、落日の限りです。しかし、その中にあって、もがきながらもスタイルをきちっと守ろうとするところに共感が持てます。で、4作目でワーナーとの契約が切れて、シーンも落ち目で継続できないままに、別の会社にて移籍し、そこから徐々に自分のスタンスを立て直していきます(見つめ直す?)。4作目はそれなりに味があるのですが、5作目からバンド中心に出発しました。それまでは、結構大がかりな音づくり、電子音やオーケストラっぽいのもありましたが、演奏を全面に出したユニット感が強く感じれられるようにになります。このころから、何かしら、決意というか、はい上がろうとする強い意志が感じられました。豊かで力強い歌声が、演奏の中から聞こえてくるようになります。ヒットを飛ばしていたような軽快感はなくなったけど、確かなしっかりと前を見据えています。しかも、AORの叙情はそのままに喜び、街の明かり、淋しさ、恋などを自然と歌っています。

特に、お薦めのアルバムは、前期はファーストアルバムはすごいヒットを飛ばしましたが、敢えて、モデルの奥さんをもらってノリノリの時期のセカンド「another page」です。AORが絶頂期にあった時期であって、マイケルマクドナルト、アートガーファンクル、ドンヘンリー、サックスにトムスコット、ギターにスティーブルカサーとすごい布陣です。
後期は、やはりワーナーから移籍した後の2作目「window」でしょうか。特に、その中にある「Wishing Well」なんかは全く新しい音楽の試みだったんじゃないかナァと思うほどにスリリングです。(あくまでも聞き込んできた場合のみ)その他にも、色々とあるんだけど、前期(1〜4)はベスト版が出ているので、敢えて、後期では、「rendezvous」の中の「in the blink of an eye」の中の、彼女が瞼を閉じる一瞬の間に真実があるといった文句や「walking in Avalon」の中の「When she smiles」の静かな歌い出しから、徐々に高まる恋心を歌った展開とかなかなか良いです。

村下孝蔵もそうだけど、デビューから紆余曲折を描いてずっとやり続けているアーティストを追いかけていく内に、流行だけではないその人自身の目的や音楽性の変化を辿ることが出来て幸せなことです。出来れば、引退をせずに後期と挙げたアルバムもいつの間にか中期、初期の部類に入り込めるくらい作り続けてほしいものです。
2003.4.25

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