A.はじめに
クレペリンは、1889年に精神病を早発性痴呆と躁うつ病に分類したが、ブロイラーは、早発性の痴呆について、思考、感情、体験などの分裂という心的機能の障害に注目し、1911年にschizoniaという病名に訂正をした。これを日本では、1935年頃、精神分裂病と訳した。
しかし、精神分裂病という病名は、一般の社会において偏見が強く、心や人格が分裂し最後には人格崩壊まで進む恐ろしい病気として認知されていた側面があった。そのため、病名の変更を強く希望する声があった。平成14年1月に、日本精神神経学会は「統合失調症」という分裂病に変わる新しい病名を提唱し、平成14年8月には、正式名称として提唱されている。
分裂病は、その症状からも、症候群であること。また、なんらかの原因で、自己が失調した状態であり、誰もが罹りうる病気であり回復が可能であることを強調している。このことは、表現が柔らかくなったほかにも、症状などに即した適切な病名となっている。

しかしながら、今回はレポートの課題に沿って、精神分裂病という名称を使用する。

B. 精神分裂病の診断基準
精神分裂病は、精神症状を主とする身体の病気と考えられる理由として、
また、多数の研究者が、その症状などを整理して診断をしようと追求をしているが、確固たるものは同定されておらず、正確な説明はほとんど不可能である。また、気分障害よりも、個人差が遙かに大きい。以下、代表的な診断基準について論述する。

ICD-10の診断基準
ICD-10は、現在もっとも広範に使用されている診断基準である。同様にDSM-4も有力な診断基準であるが、今回は、ICD-10の記述にとどめる。


ICD-10の基準によって精神分裂病と診断するには、次の3条件が必要である。
期間に関してDSM-4と違うが、共通して持続性があること、他の身体的異常などが見られないとされた場合に分裂病と診断される。また、該当する項目にある程度合致していることが診断基準とされ、このような診断基準が確立されていなかった時代に比べて、精神分裂病の診断はせまくなっているといえる。

C. 治療と援助
いわゆる精神障害者は、実際にはほとんど皆、精神分裂病の慢性患者である。その社会復帰とは、同じく分裂病者が社会でよりよい生活ができるようになることである。
以下、4つの治療形態について論述するが、それぞれが密接に関連しあい、色々な組み合わせの中から、患者本人の最も望ましい治療計画などを構築することが必要である。そのためには、医療、保健、福祉が連携し、チームワークを組み総合的にサポートされることが必要である。

1.入院治療と療養と在宅ケアの準備
a.入院治療
分裂病の急性期および再発時の治療は、敏速かつ積極的に行う必要がある。激しい不安、不眠、自作帰途などには、十分な向精神薬とともに、電気けいれん療法も、家族の了承を得て、必要な最小回数行っても良いとされる。急性期の諸症状がおさまった後は、妄想や幻覚などの再発の防止と残遺症状としての生活障害の援助が問題になる。作業療法士の活動、生活技能訓練(SST)を利用し、服薬、日常生活上の様々な動作や訓練を行う。在宅の復帰などの条件が整うまで、病院内で生活訓練を受けながら療養することが必要となる。

b. 在宅・ディケア・訪問・就労(地域精神医療)

1.
患者にとって、経済的にもゆとりがあり、愛情と理解のある家庭に復帰するのが望ましいが、家族の高齢化や患者の症状や生活能力などから困難な場合は、援護寮、福祉ホーム、グループホームなどの活用が必要とされる。
また、居住先にはソーシャルワーカー(PSWなど)だけではなく、医師や看護婦などが、患者の同意を得た上で、繰り返し往診することが望まれる。
2.
家族に病気の理解を深めるためのセミナーなどに医療・福祉関係者は参加を促し、家族の態度が理解あるものにし、お互いにストレスや葛藤を抱え込むことがないように配慮する必要がある。
3.
患者のディケア、ナイトケアの利用は、参加は、友人などを作る契機となる。また、社会生活の技術を身につけることが出来るとされる。他には、家族の会などで運営している小規模作業所などがある。ディケアや小規模作業所に通うことによって、患者同士が癒しあることが出来るとされる。
4.
就労については職親制度がある。しかしながら、就労について、精神障害者に対する社会的な偏見が強く、また、病状が作業に適応できないことが多く、就労に結びつくケースが難しいとされる。今後のいっそうの努力が必要である。

c. 薬物療法
これまで開発されている抗精神薬は、急性期の激しい興奮や幻覚妄想状態に有効であり、さらに急性期を通過した後にも服薬を続けることによって、その状態を維持し再発を予防する力があると考えられていて長期服薬を行うこと多い。また、薬物療法の発達は、多くの患者の外来治療を気楽に行うことが出来るようになり、入院を経験しない精神分裂病の患者群も多く見られるようになってきている。このことは、地域精神医療の実践とも大きな関係があるとされる。

薬物に共通に見られる薬理作用は、
精神分裂病の薬物療法で最も大切なのは、患者が納得して長期間服薬を続けることである。特に服薬を一日3回毎日続けることはかなり苦痛なことであり、習慣化することは難しいとされる。また、副作用を抑え、患者が楽であると実感するような処方を心がけることが必要である。

d. 疾病ハンディキャップと社会的ハンディキャップの心理の理解
中度や重度の慢性経過に苦しむ患者群は、多くの葛藤的な喪失体験をしている。このことは、入院、地域性新医療のリハビリ施設であれ、常に患者が直面せざるを得ない課題である。カウンセリングや精神療法などを活用して、または、そうした心の働きを理解して援助にあたる必要がある。

D. おわりに
精神分裂病の診断基準と治療法を中心に述べてきたが、分裂病というものは、いったいどのような病気であるのかというのは、国際的な基準のみならず、見解が別れているのが現状であることが分かる。このことは、分裂病がいかに定義することが難しい病気であるかを示している。また、治療に関しても、完治することが稀であるといわれ、寛解という表現があることから、直ることが困難であることが伺える。しかしながら、抗精神薬の発達、診断基準の確立は、今後、分裂病と診断されるケースが狭まり、より適切な治療が行えるのではないかと思われる。また、社会的な偏見との闘いも続いており、身体障害者などと同じように制度的にも今後充実していくことが必要である。

参考文献
指定図書の他、「こころの科学90−分裂病治療の現在」(日本評論社,2000.3.1)など

ホームインデックス