はじめに
クレペリンは、1889年に精神病を早発性痴呆と躁鬱病に分類したが、ブロイラーは、早発性の痴呆について、思考、感情、体験などの分裂という心的機能の障害に注目し、1911年にschizoniaという病名に訂正をした。これを日本では、精神分裂病と訳した。
しかし、精神分裂病という病名は、一般の社会において、また、歴史的に偏見が強く、心や人格が分裂する恐ろしい病気として認知されていた側面があった。そのため、当事者や家族などから病名の変更を強く希望する声があった。平成14年8月に、精神医学学会は「統合失調症」という分裂病に変わる新しい病名を提唱する。現在も精神科医の間でも見解が別れているが、大きく3つの別れている。一つは、精神分裂病は、一つの病気で病型が大きく異なる。二つ目として、それはおそらく二つ以上の病気で、今仮に同じ診断名で呼んでいる。三つ目に、それは様々な病因の共通表現型で病気よりも症候群として見なす方が適切である。このような意見の総和として、分裂病は、その症状からも、症候群であること。また、なんらかの原因で、意志などや自己が失調した状態であり回復が可能であることを強調している。このことは、表現が柔らかくなったほかにも、症状などに即した適切な病名となっている。

また、一般に精神分裂病は、主に内因による病気とされ、気分障害と同じく、環境要因など、多数のより大きな影響を受ける。すなわち誰ででも程度の違いはあれ、多少ともそのような素因を持っている。高血圧やガンなどのように「普通の身体の病気」であるとされる。

症状

精神症状を主とする身体の病気と考えられる。その理由として
1. 後述する三主要症状を中心とする精神症状は、心理的にとうてい了承できないものであり、背後に何らかの身体的変化の存在が推定されること。また、その症状が多彩で、合併、慢性化の経過を取りやすいことから、その身体的変化は気分障害より広い範囲に及ぶものとされる。
2. 脳内の神経伝達物質の一つ、ドパミンの後シナプス膜の受容体を遮断して、その神経伝達を抑制する薬物が、分裂病の妄想・幻覚・興奮にきわめて有効である。
3. ドパミンの作用を高めるヒロポンの連続使用が、分裂病によく似た妄想・幻覚を引き起こす。
4. 心理面での研究では、家族内人間関係を巡って、二重拘束性などの分裂病の病因になるような学説があるが、実際の因果性や治療的意義が認められるものではない。

また、多数の研究者が、その症状などを整理して診断をしようと追求をしているが、確固たるものは同定されておらず、正確な説明はほとんど不可能である。また、気分障害よりも、個人差が遙かに大きい。

1. 妄想・幻覚
特徴として、世の中の出来事が全て自分にどこか関連しているという関係妄想的意識と考えるとわかりやすいとされる。妄想の種類としては、被害妄想、誇大妄想などがあり、幻覚では、幻聴、幻視などがある。これらの妄想・幻覚に対して、病者は最初のうちは半信半疑であるが、明瞭な実感を伴うようになると、周囲からの指摘・説得によって判断を変えることが出来ない病識欠如の状態になる。その結果、妄想・幻覚に基づいて行動するか、多くの場合は、人に注目をされることをきらい、閉じこもる生活を送るようになる。

2. 感情と意欲の障害
上記の妄想・幻覚は、恐ろしい体験で、分裂病はその対応に心を奪われ、日常の出来事や人付き合いには無関心になりがちになる。
それだけではなく、およそ世間のことに無関心になり、喜怒哀楽の感情が乏しく、何事にも積極的に取り組もうとせず、毎日ボンヤリ送り迎えて、呆然と年月を過ごす。鬱病者と分裂病の違いは、鬱病者は、その症状に苦しみ、克服できない自分を責める傾向にあるが、分裂病者は、この精神的状況の中に没入して生活そのものが無関心・感情鈍麻(平板化)・無感動、無為と呼ばれる状態に陥っているような印象が持たれる。
しかし、病者自身は、上記の妄想・幻覚と関係づけながら、あるいは後述する思考障害のため思い悩みながら、周りの人々の態度、言動などを意外なほどよく見ている。

3. 思考障害
昔からいわれる連合弛緩と呼ばれた現象であり、ふつう考えは、ある物事が生ずる多くの連想から、もっとも適切なものを選び、次に再び適切なものを選んで、順序よく進められていくが、分裂病者では、その働きがゆるんで、多くの連想のうち、多田表面的なつながりで次々と選ばれるので、聞く方には話しての考えが分からなくなる。「考えが急に止まって先に進まない」(思考途絶)「抜き取られる」(思考奪取)や支離滅裂、新しい言葉を作る言語新作などが症状として現れる。

4. その他の諸症状
分裂描写が示す精神的な苦痛や異常な言動は、上記の3主要症状のみならず、それらの発展、混合に加えて、緊張病と呼ばれる諸症状や気分障害の躁・うつ症状の合併を含めて、きわめて複雑な様相を呈する。
発展、混合によって、自閉や不安があり、自殺や自傷を引き起こすケースもある。
緊張病では、呼びかけても反応しない(昏迷)、拒絶、硬直、蝋屈症、常同などがある。

精神分裂病の国際診断基準

ICD-10の診断基準として
1.考想化声、考想吹入、考想伝播
2.支配される、影響される、あるいは抵抗できないと言う妄想で、身体や四肢の運動や特定の思考、行動、あるいは感覚に明らかに関連づけられているもの、及び妄想知覚。
3.患者の行動に絶えず注釈を加えたり、仲間たちの間で患者のことを話題にしたりする幻声、あるいは身体のある部分から発せられるというほかのタイプの幻声
4.宗教的あるいは政治的な身分、超人的な力や能力といった、文化的に不適切で全く不可能なほかのタイプの持続的な妄想。
5.どのような種類であれ、持続的な幻覚が、明らかな感情的内容を欠いた浮動性の妄想か部分的な妄想、あるいは持続的な支配観念を伴ったり、あるいは数週間か数ヶ月間毎日継続的に生じているとき。
6.思考の流れに途絶や挿入があり、その結果まとまりのない、あるいは関連性を欠いた話し方をしたり言語新作が見られたりするもの。
7.興奮、常同姿勢あるいは蝋屈症、拒絶、かん黙、および昏迷などの緊張病性行動
8.著しい無気力、会話の貧困、および情動的反応の鈍麻あるいは不適切さのような、普通は社会的ひきこもりや社会的能力の低下をもたらす「陰性症状」。これらは抑うつや向精神薬の投与によるものではないことが明らかでなければならない。
9.関心喪失、目的欠如、無為、自分のことだけに没頭した態度、および社会的引きこもりとして明らかになる、個人的行動のいくつかの局面の全般的な質に見られる、著名で一貫した態度。

ICD-10の基準によって精神分裂病と診断するには、次の3条件が必要である。すなわち、まず、症状に関して上記の1〜4までの少なくとも一つ(もし不確実なら2つ以上)、あるいは5〜9までのうち二つ以上が見られること、次に期間に関して、それらの症状が1ヶ月以上の間、ほとんどいつも明らかに存在すること、最後に明らかな脳疾患や薬物中毒などの身体的異常が見られないことである。

米国のDSM-4
は、基準がより簡単だが、身体疾患の除外のほか、
A.1妄想
2幻覚
3解体した会話
4ひどく解体または緊張病性の行動
5陰性症状、すなわち感覚の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如のうち、二つ以上の項目が1ヶ月以上がほとんどいつも存在すること
B.社会的または職業的能力の低下
C.障害の持続的な兆候が6ヶ月間存在すること。ただし前駆症状や残遺症状またはAの症状の弱められた形を含む。

期間に関して、双方の基準は違うが、持続性があること、他の身体的異常などが見られないとされた場合に分裂病と診断される。また、該当する項目にある程度合致していることが診断基準とされ、このような診断基準が確立されていなかった時代に比べて、精神分裂病の診断はせまくなっているといえる。
しかし、これらの診断基準はごく常識的な経験を整理したものである。多角的に、繰り返し、十分に診察を行い、明らかに分裂病であると認められる場合でも、まず分裂病の“疑い"として治療を始めるのが通例である。

病型

1. 妄想型分裂病
現在多い病型となっている。感情・意欲・思考の障害がほとんどないか、軽度にとどまり、緊張病症状は普通見られない。
2. 破瓜型分裂病
感情・意欲・思考の障害が中心である。疎通性が乏しいという特有の印象が持たれる。
3. 緊張型分裂病

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