阿部公房

『砂の女』が有名なこの作者は、私生活でもややおもしろい生き方をした人でした。
私のイメージでは、一貫して、人として日常に生きることの不安定さを描いていた人でした。
日常というなにげのない生活の営みを一歩外に出ると、底なし沼の世界が開けていて、そこにはまった人は、いわゆる、現実には救いが得ることができないという。また、日常に生きている人も逸脱してしまった人もそれでも、同じ世界で生きている。そのシュールなクロスポイントで世界そのものもが曖昧になる・・・。
逸脱してしまった男(女)を覗いているのか、覗かれているのか、それとも逸脱しているのか・・・そうした、非現実的な描写に私は引き込まれました。

『赤い繭』が教科書に載っていたことがありました。
また、一応、新潮社から全集が刊行されています。

個人的には、『カンガルー・ノート』をお勧めします。誰にといわれても困りますが、まぁ、シュールさではこれがダントツだと思っています。
カイワレ大根がすねに生えた男がストレッチャーに乗って、旅をするというものです。作者が病院にいたときに書いたものらしく、最後のおちもなかなか凄いものがあります。妄想が、現実が玄妙に混ざって、最後には冷徹な事実が待ている。といったところでしょうか。
習作的な作品も多いのですが、ある程度完成されたものとして、『方舟さくら丸』、『箱男』、『壁』、『燃え尽きた地図』などがあります。特に、『箱男』は、人の匿名性を克明に描いて、徹底するが故に迫害されるというおもしろい視点で書かれています。

また、『こころの声を聴く』河合隼雄対話集の中で阿部公房が、『カンガルー・ノート』について言及をしています。
なお、上記の作品はすべて(新潮文庫)です 。
本格的なファンタジーを読みたい人にお勧めですね。

*関連ホームページ
阿部公房の世界〜作品紹介など

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