2020.7
困難に直面する女性への支援
困難な問題を抱える女性の状況と支援(掘千鶴子)
- 2019年厚労省から『困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会(中間まとめ)』が公表される.民間支援団体が多く入ることにより,公的な仕組みにつながりにくい若年女性の状況が可視化され,支援が待ったなしの状況になっていることが明らかになった.また女性支援の行き詰まりが浮き彫りになった.特に婦人保護事業の法的根拠である売春防止法の理念の枠組みでは限界を迎えているという共通理解が得られた.
- 婦人保護事業から見える女性の困難は,暴力被害,性虐待,性的搾取,人身売買,予期しない妊娠・出産,生活困窮,借金,居住先なし,疾病・障害から生じる困難,社会的孤立などまさに多様で複合的である.さらに年齢も10歳から70歳まで多岐にわたり,ライフコースのさまざまな局面での支援が必要な状況に直面している.
- 女性が生活困難に陥りやすいのは,
- 妊娠,出産育児などのライフイベントの影響
- 非正規雇用が多く,相対的に低収入.不安定雇用であるという女性の就業構造
- 女性に対する暴力,性被害,売春など
- 社会の固定的性別役割分業意識がある→ジェンダー格差.
- 多様な困難を抱えた女性たちは社会福祉の法制度の狭間におかれやすい.例えば,18歳を超えた女性の性被害などを対象とする社会福祉法制度はない.しかも婦人保護事業は売春防止法が根拠であり,例えDV被害で保護されても,目的は要保護女子の保護更生となってしまう.そのため自立支援の理念的に法的に欠如している.その上,婦人保護は任意事業で,全国で47施設,8県が未設置となっている.
- 婦人保護事業は他の社会福祉制度と違って,人員配置や国の基本方針などにも盛り込まれず,政策的俎上(そじょう)にのらず,60年以上見直されてこなかった.
- 公的支援は後進的であるが,民間ではDVシェルターや中長期的なサポートまで切れ目のない支援を独自に展開している.アウトリーチやSNS相談,ネットパトロールなど.支援の先駆性,柔軟性,地域性,専門性を発揮している民間団体がある.ただし,DV防止法にも民間団体は明記されておらず財政的な措置がない.
- 中間報告から
- 対象女性を要保護女子ではなく,人権の擁護と男女平等の実現を図ることの重要性を鑑み,さまざまな困難な問題に直面する女性として捉えなおす.
- 保護更生ではない視点での支援の確立.
- 相談から保護,自立支援までの専門的な支援を包括的に提供すること.
- 中間まとめはあくまでも基本的な考え方であり,具体的な制度設計や支援内容などは今後の課題となっている.
インタビュー:女性の抱える困難とこれからの支援
- 婦人保護施設は1980年代は地域との交流もあまりなく,山のような内職を日々ひっそりとこなしていた.その頃は売春の問題もあったが,ほとんどが知的障害もあった.字も読めない人が売春で生き抜いてきたことに驚くと同時に,そこに書かれた貧困の生活史があった.
- 現在も知的や精神障害を持って生きづらさを抱えている人が暴力によって自尊感情や自己肯定感を持つことが難しくなっている.あるいは愛着障害があったり…売春問題は社会の問題だが,だらしのない女性だ,貧しくても自分で何とかできたはずだと個人の問題にすり替えられている.
- 今回の検討委員会は,DV防止法制定されて暴力が法律で裁かれるようになり,いわゆるJKビジネスなど若者の問題が社会問題化しているなかでやっと立ち上がった.そして売春防止法の改正,特に保護更生の廃止の方向性が出たこと.そして,女性自立支援法という法律の制定に向けてがんばっている.
- 婦人保護事業の運営面の見直し方針についてでは,いまだに文言に収容保護とか社会環境の浄化,要保護女子などといった差別的な言葉が残っている.女性の主体性や人権尊重への片鱗もない.また施設への直接入所も困難であり,課題も多い.
- 施設内では関係の継続とか生活感を持った工夫をしてもらうなどで,自尊心や人とつながることを意識した取り組みをしている.人によって侵害されたものは,人によって回復することを確信している.
- 児童養護施設でも性被害を受けた子どもが増えてきている,婦人保護施設のこれまでの実績を元に連携できればと思っている.DVと児童虐待は表裏一体の人権侵害であり,社会問題である.
- 女性を取り巻く環境は変わっていない.貧困をベースに,暴力によって抑圧されてきている.そして暴力を振るう男性も社会の中で未熟である場合があり,社会問題でもある.