2019.2
特集:児童虐待を起こさせない社会へ
座談会 なぜ児童虐待が起こるのか
- 虐待死は年々減少しているが,60〜70件ある.その一方,相談窓口での受付は急激に増加している.
- 虐待の連鎖については,虐待を受けていた期間とか強度による.立ち直れるだけのレベルから深刻なレベルまで多様である.
- 保育士などは日頃から子どもの観察をして,親とか子どもから状況を聞き出すスキルが必要である.
- 2018年に児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策を発表している.相談内容の半分は夫婦げんかによる軽微なケースが多く,児相としては軽微なケースによって重篤なケースが圧迫されている.
- 泣き声や怒鳴り声などで通報されても,通報した人の想像している内容と異なることがあり,虐待と決めつけずにファーストコンタクトをとっている.最近は高校生が通報して,一時保護されることがある.
- 泣き声による通報のプレッシャーや児相の自宅訪問などは非常にイメージが悪いので関係構築が難しい.相談所という看板だけではなく,ひとりの人間としていかに汗をかいたかによって,個人の信頼を得ることによって連携が生まれる.
- 虐待が起こる要因として,現代社会が忙しい,孤立状態になる,寛容ではないなどであると思う.
- 虐待を受けても比較的回復が早い子どもは,学校の先生や児童心理士などの大人に自分の事情や気持ちを打ち明け,受け止めてもらう体験をしている.子どもの心を救うには,相談に乗り,話を聞いて上げる環境作りが大切.
- 虐待の連鎖について,良い家族のイメージを持てなかった子どもは,自分が家族を持つことに非常に不安を感じる.あるいは,速く家族を持ちたいと,早々に結婚するケースもある.連鎖とは無関係に生じる虐待はたくさんあるし,虐待を受けて育った子どもが虐待とは無縁な普通の親になっている方がむしろ多数派である.
- 虐待は地域で守るものである.行政は法律の範囲でしか動けないので,民間や個人の出番である.
児童虐待防止対策の強化について
- 児童相談所の支援を受けている家庭が転居した際の引き継ぎについて,情報の共有の徹底を図るための書類などのフォーマットの統一など
- 虐待通告受理後,原則48時間以内に児童相談所や関係機関において,直接子どもの様子を確認するなど安全確認を実施する.
- 児童相談所と警察の情報共有の強化として,外傷やネグレクト,性的虐待がある場合は警察と必ず情報を共有する.
- リスクアセスメントシートの積極的な活用
- 乳幼児健康診断や不登校,未就園など関係機関が安全を確認できていない子どもの情報については市町村が緊急的に把握し,目視するなどの確認をする.
- 要するに,切れ目のない体制づくりと,早期発見早期介入が図れるようにする.
貧困家庭の親とその子どもを支える(新保幸男)
- 経済的に貧困であることと児童虐待をしてしまうことは直接結びつけるべきではないけれど,貧困の連鎖の中で起こりうるリスクの一つではある.自ら危険を感じて助けを求める力を獲得しにくい状況になる.
- 貧困において,1)不安定な出産前後,2)不安定な養育環境,3)不安定な家庭と就労,貧困・DV・児童虐待は同心円状にある.
- 貧困の第一類型:あるときまで子の親が安定的な収入を維持していたが何らかの理由で収入が途絶え,子どもも貧困状態になる.そうした子どもは,先の同支援で言うとことの3)の状態ではあるが,1)と2)は安定していた場合が多く,自分で助けを求める力はあると見なす.
- 貧困の第2類型:生まれたときから貧困状態で,それ以外の状態を知らないで育つ.先の同心円状の2)からであり,自分で助けを求める力はそもそも欠如している.
- 児童虐待を防ぐには,1)の段階から安定した環境にあることである.先の虐待防止対策での「支援を必要とする妊婦への支援の強化」とか「乳幼児健康診断未受診者への対応の促進」とか,「窓口などの周知・啓発の推進など」は自ら危険を感じてか助けを求める力を獲得しにくい状況にある貧困の第2類型に該当する親子に有効である.
児童相談所の体制・専門性の強化について-弁護士の立場から(岩佐嘉彦)
- 児童相談所の相談件数は増加の一途であり,その上,調整などが難しいため専門職,ソーシャルワーカーの専門性は重要である.しかし,短期間で転勤してしまうとか専門職として採用されていない自治体なども散見される.よって大学などの養成機関での一定期間の学習と資格取得などが必要であると思う.
- 厚労省では研修を受けることで質の担保を図ろうとしているが…短期間で異動してしまえば元も子もない.専門性を持っていないからこそ,自信を持って仕事に当たれないともいえる.
- 一人あたり,ケース担当が平均30件強であり,欧米のSWや日本の家裁調査官と比較してもあまりに多すぎる.地域特性もあるが,10件程度にするべきで,であれば今の人員の3倍にする必要がある.
- 2016年の児童福祉法改正により,児童相談所の弁護士を配置することとされた.常勤,非常勤,委託を受けるなど多様な形がある.虐待案件について,親権停止など家裁の許可に際して弁護士に動いてもらう.刑事手続きと家事事件で求められる事実の捉え方や程度などを弁護士がサポートする.あるいは警察との連携で児童相談所(福祉側)として弁護士が連携を図るなど.
- 弁護士が児童相談所に深く関わる中で「法に守られている」という安心感からSWにしっかり専念できる方向に進めば良いが,逆に福祉的・支援的な視点が弱まることがないように留意が必要である.弁護士による支援に限らないが,中核となる児童福祉司の専門性の強化がないまま,他の関係機関でそれをカバーしようとすると,ますます児童福祉司の専門性を弱体化させる結果となりかねない.
- 児童相談所が適正に業務を行えるよう監視を強めるような施策は,一見,専門性を強化しているように見えるが,優秀な人材がそのような「監視を受けているような」職場には行きたくないとなれば,人材を得ることができず,結局,児童相談所の機能は低下する恐れがある.