2018.7
地域の中の生活困窮者支援
生活困窮者自立支援制度の見直しについて(本後健)
- 2015年に施行された生活困窮者自立支援法も4年が経過した.その後,審議を重ねて2018年に一部改正したものが提出された.その概要について述べられている.
- 改正のポイントとして,生活困窮者の定義,就労の状況,心身の状況,地域社会との関係性その他の事情により,現に経済的に困窮し,最低限度の生活を維持することができなくなる恐れのあるものとした.理念規定では,地域社会からの孤立,定義規定でも地域社会との関係性を明記し,社会的孤立への配慮を明確にしている.
- 自立相談支援事業等の利用勧奨の努力義務と「支援会議」の設置を行った.各部署で困窮であることを知るきっかけがあるが,それを窓口へ誘導すること.本人が相談を拒否したとしても要観察ケースとして支援会議を開き,各部署として情報を共有する.
- 自立相談支援事業,就労準備支援事業,家計改善支援事業の一体的実施.あくまでも就労準備と家計改善は努力義務であるが,必須である自立相談と一体的に行うことを「促進」する.
- 都道府県による研修,事業実施体制の支援などを市に行える支援事業の創設,福祉事務所を設置していない町村による相談の実施を図っている.
- 子どもの学習支援事業の強化を図っている.学習支援の他,生活習慣や育成環境の改善に関する助言,進路相談などを含めている.
- 居住支援の強化,一時生活支援事業の拡充.
- 生活保護法などの改正も行われており,生活保護世帯の子どもが大学に行けるようにする,進学準備給付金を給付すること.無料低額宿泊所への規制強化,児童扶養手当の支払い回数を3回から6回にするなど.
(インタビュー)生活困窮者支援から広がる街づくり
- 三重県の鳥羽というどちらかと言えば地方の取り組みについて市長からインタビューでいろいろと聞いている.街づくりの一環として,生活困窮者自立支援制度を就労支援などで活用しているとのこと.
- 各部署,観光も企画財政も,福祉も連携して一体的にサービスを提供する.「とばびと活躍プロジェクト」:URLについて説明している.もともと鳥羽は観光が盛んであったが,慢性的な人材不足で,従業員寮を用意して市外の人に働いてもらっていたが,高齢で働けなくなって,住居を失う人が顕著になった.そこで生活困窮者自立支援法を使って何とかしようと他の部署と連携して解決することが求められた.
- 業務を細分化して,多様な人たちが関わることで,そこから派生して地域が活性化されてきた.福祉と観光の連携による市民就労促進事業を行っている.これは生活困窮者自立支援制度の補助金を使い,事業は観光課を中心に行っている.福祉に関しては窓口を健康福祉課にすると敷居が高いので,観光課や農水省が窓口になっていた方が人が来やすい.
レポートでは,救護施設の取り組みについて書かれていた.無料低額宿泊所との比較で,多角的に行えている救護施設をもっとこの生活困窮者の制度に乗っけていくことをうたっている.
生活困窮者の自立・尊厳の確保と地域づくり(岡部卓)
- 現代社会は,共同体のつながりが希薄になってきたとか,格差社会で貧困問題があるとか,その一方でLGBTのような多様な性への許容などがある.また社会的孤立や経済的困窮,制度のはざまなどがキーワードとなっている.また問題は,多様化,複雑化しており,老老介護,多重債務,ニート,自殺,孤立や孤独死など潜在化もしている.
- 生活困窮者自立支援制度の実施状況について,任意である就労準備,家計相談,一時生活支援が39%〜26%,子どもの学習支援は47%,新規相談が45万,継続支援が12万,就労などで増収だった人は,6万人となっている.
- 法の改正の状況は,冒頭▲の改正についてを参照.
- この制度は,本来生活保護で受け止めるべき人々を生活保護にスムーズにつなぐことをシステムで確立し,他方で,これまで十分に行われてこなかった低所得者対策の充実を目指している.それは経済的困窮だけでなく,社会的孤立や制度の谷間で困難を抱える人,世帯の掘り起こし,制度・施策などの公的資源や民間活動を行っている地域の社会資源につなげるとともに,住民,非営利,営利団体など,地域に暮らす,活動する構成員を巻き込み,地域共生社会の実現を図る制度,政策,ソーシャルワーク実践となることを指向している.