2016.5
権利擁護と福祉サービス

人権の理論と権利擁護(秋元美世)
最初に自由権が発生した.市民社会では自立した強い個人が前提とされ,そうした個人が自らの幸福を制約を受けることなく追求できることが重要と考えられた.しかし現実の実態と乖離(かいり)していく.こうした幸福の追求が不平等とか貧富の格差を拡大させた.そうした中,個人の生存権や経済的給付を国によって保障する社会権が登場した.そしてさらに福祉概念が出てきて権利擁護が登場した.しかし,権利擁護は,例えば詐欺的商法の被害に遭いやすいという弱さは,言い換えれば一般の人が享受できる保護的利益を享受できていない状態である.しかし,保護的利益は従来の枠組みからは事実上の利益とされ,権利や法的利益に問題として取り上げる必要のない事柄とされてきた.つまり,保護的利益を得られない状態を擁護する…権利擁護をどう可視化するかが課題になっている.詐欺商法は刑事罰や不法行為責任に基づく民事的な責任追及の可能性があり抑止力が働いている.しかし,騙されやすい立場の人にはそうした抑止力が働かない…間接的な保護利益が機能していないことになっている.つまり,普通なら騙されないし,騙されても法的な手段として訴えることができない人たちがいるということ.そこに権利擁護の意味があると言える.
権利の非実現とは,権利が侵害されているわけではないが,そのものの利益や権利が実現されていない状況のこと.地域移行をしたくてもそれに制度が想定していないなどで実現されてないなど.これも権利擁護の固有の特徴の一つである.そしてその上で,不特定多数の者の権利と特定された個人の権利の関係から,合理的配慮は個人の側から申し立てることができる枠組みが用意されている.その訴えを元に特定の業者や行政が動かざるを得ない状況になり得る仕組みがある.不特定多数の権利は一般的なものであるが,こうした特定のものの権利が尊重される仕組みを見いだしていくことが大切である.

なぜ権利擁護が社会福祉法に規定されたのか(河幹夫)
社会保障の二つの給付体系,現金給付とサービス給付の概説.
現金給付は60兆,サービス給付は40兆円となっている.社会福祉基礎構造改革は措置から契約へ,福祉サービスの利用制度化である.それにともなって権利擁護のシステムが総合的に整備されることになった.第三者,苦情解決,情報開示などである.ヒューマンサービスとして,サービス給付は利用者の大切な受給権であるが,それ以上にサービス提供者の専門性と人格権にも配慮する必要がある.

権利擁護をめぐる現状と課題(平田厚)
先の論文にあるように,厳密な意味での権利擁護についての定義はない.基本的には判断能力が不十分な人に対して権利侵害を受けないよう予防する,あるいはその人の権利を実現するように支援するといった意味で使われている.社会福祉基礎構造改革によってこの権利擁護が注目されるようになった.制度的には,成年後見制度と日常生活自立支援事業である.ニーズは高いが受け皿が十分ではない.かといって乱造すれば不祥事などが起きかねない.その上,専門職であっても不祥事が絶えないため,制度全体が危機的状況にある.
措置から契約になり,主体性や尊厳保障などの観念がだいぶ浸透してきた.しかし,それから時間が経ち,権利意識がまひしたり疲労が蓄積し立ていることがうかがわせる事態も生じている.例えば,施設内虐待や人格無視の不適切な対応が出ている.また介護事故も多く出されている.また地域や家族での介護事故や殺人,孤立化や不寛容な事態が進行している.または家族に責任を押しつけてきたのではないか.社会的連帯の思想にはまったくそぐわない事態が進行している.介護事故でも介護に関わろうとしなかった家族が,事故が起きた途端,訴訟に基づいて損害賠償を請求することがある.権利擁護の根本理念が本人の自己決定権の尊重による人格尊重であるならば,本人とのコミュニケーション関係が壊れてしまえば権利擁護という概念自体が成り立たないことになってしまう.今後は説明を尽くすという態度で社会や家族と向き合っていく必要がある.

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