2015.8
困りごとをともに考える地域づくり(生活困窮者の自立と支援)
メッセージ 生活困窮者自立支援制度はなぜ創設されたか
- 生活困窮者自立支援法が平成27年4月に施行された.予算としては1千億円.国にはすでに1千兆円の借金があり,社会保障費も毎年1兆円も増えている中での新たな制度への予算配分.また生活保護の不正受給や受給者の怠惰へのバッシングなど逆風が吹いていた.
- それでも社会の状況として企業,地域,家族の力が弱まって,個人はただひとりで生活困窮へのリスクに向き合わなくなっており,制度のはざまにあって困難事例として取り扱われ,にっちもさっちもいかないような状況に置かれている人がいる.
- この制度最も大きなポイントは,自治体の相談事業に国の負担規定を置いたことである.よって,ただ法律を適切に執行するという考えではなく,個の法律を活用して現場で実現したいことを実現して欲しい.
- 目標としては,困窮者の支援,それを通じた地域作りであり,新しいネットワークを作ることでもある.また連携する先も多様に存在しており,さまざまな関係者が新しい関係性を作っていく.足りないものがあれば,関係者で話し合って積極的に創造していくべきである.
- その他,就労支援に取り組むこと.地域作りから社会を変えていくこと.
インタビュー 困りごとをともに考える地域作りのために
- 生活困窮者自立支援法は,新しい制度に置き換えるのではなく,旧来の制度をリソースとしながら生活困窮の新しい局面に合致していく触媒のような位置づけにある.
- 相対的貧困率は先進国でもかなり高い水準にあり,6人に一人,女性の現役や単身者では3人に一人が貧困とされる.また,旧来の貧困感ではなく,現代の貧困は孤立や困窮を指し,社会的に排除され復活する見込みのない状況にあるとされる.
- 生活困窮者自立支援法はさまざまな制度を横断的に扱うので,とりあえず困ったことがあれば相談に行けば良いというワンストップの役割を担っている.
- 施行後,地域によっては非常に積極的に行っているところもあるが,まだまだである.
- 雇用に関しても,共生型の雇用とかダイバーシティの雇用とかを実現していくことがのぞましい.また,農業や介護などの分野では人手不足であり,そうした所にあっせんするとかいろいろと屋利用はある.福祉は働けない人のもの,雇用は福祉を必要としていない人のものという感覚があったが,地域では福祉的支援があれば就労可能な人が増大していく.
- 相談窓口ができた後,その後の就労などの出口がないと意味は無いと思うが,最初から出口があるわけではなく,相談に応じてどうするかを協議する中で作っていけば良い.
- 家計相談などの任意事業の実施率は低いが,これらは既存制度でカバーできるならばどんどんと行い,できないならば新たな任意事業を活用して育てて欲しい.特に就労準備事業に注目している.ただ,この事業はなかなか厄介なものであるが,乗り越えれば格段に地域力が高まる.雇用関係を訓練の場として位置づけ実際の企業へ訓練を委託する形で事業費を活用している例もある.
- 現場では子どもや高齢者の個別の分野でのケアを進める上で生活困窮が道を阻んでいることが多い.まずはこの困窮問題を縦割りではない形で解決することが大事ではないか.地域によってのモチベーションが違うと一方では解決できるが,違うところではより深刻になると行ったことがおきかねない.
- 現在多くの自治体では,介護,子ども,子育て,困窮者支援などの制度ごとにいろいろな協議体がどんどん増殖するという,いわばネットワーク乱立症候群とも言える状況にある.何かと言えば,ナットワークづくりが叫ばれるが,まずは乱立症候群を是正して,ネットワークを束ね構築していくことが必要だと思う.
- 住民主体なのだから住民に決めてもらおうと安易に考えるのでは無く,何が問題で,どう考えたら良いのかなどの気づきを与えることが大事であり,お互い様と言い合える関係性を困窮者と地域住民の間で醸成することが大事ではないか.
- 考えるべきは,子ども,高齢者,障害者などの分野で関わっている人が多いが,それらの中には少なからず生活困窮の要素が含まれている.困っている人たちの居場所,働く場所をたくさん作り出し,地域を紡ぎ直す…生活困窮者自立支援法は生活困窮についてあえて定義づけを行っていない.そこが肝心なところである.
