2014.2
社会保障制度改革のゆくえ
インタビュー 社会保障制度改革国民会議報告書が描く改革のゆくえ
- 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律(プログラム法案)が審議されている.その内容について論じられている.
- 簡単に言って,社会保障が国債を圧迫して莫大な借金を生み出している.しかし,その一方で社会保障のおかげで,国民の寿命が延びて豊かな長寿社会を作ってきたのも確か.だから,社会保障を持続可能な物にするためには,歳入の確保(消費税や高所得者からの徴収)と給付を効率化(メリハリをつける)することが大事.
- 急性期の医療ばかりではなく,在宅医療などを推し進める地域包括ケアシステムが大事である.
- 国民健康保険は元々自営業者の人を想定していたが,現状は定年退職後に加入した高齢者や非正規雇用の若者が多い.給付水準が高い上,負担能力が高くないので,他の制度と比べ財政面で脆弱になっている.そのため,国民健康保険の保険者を市町村から都道府県に移行するように提言し,財源の強化を図っている.
- 年金に関しては,マクロ経済スライド制度に移行した.ただ,インフレになってマクロ経済スライドが毎年発動されるようになると,年金の実質価値が相当下がることになること.また非正規雇用の拡大により厚生年金を受け取れない人が相当増えていることである.
- プログラム法案は一つの方向性であり,パッケージある.個別的な案件についてはそれぞれの利害などもあり修正もあり得る.
社会保障制度改革と子ども・子育て支援新制度(柏女霊峰)
- これまで社会保障とは,年金,医療,介護であったが,本来全世代に行われることであり,今回のプログラム法案では,子ども・子育てについての施策が明記されたことは画期的である.
- 制度は,待機児童解消,幼保一体化,幼児期の教育の振興,全世代対応型社会保障の実現である.できる限り一元化された財源として年金と行く別会計子ども・子育て支援勘定,支援交付金を用意し,支援事業支援計画の基づいて各種の給付を行う.
- 新,幼保連携型認定こども園の新設などいろいろと制度化されている.このあたりのことはさっぱり分からない…柏女先生は,この新設にこそ地域共生の可能性を見ているようであった.
医療・介護サービス提供体制と医療保険制度の改革(田中耕太郎)
- 自己負担の割合が増えて,給付を下げるなど社会保障の持続可能性を追求した今回のプログラム法案について.
- 日本の病床数は他の国に比べてダントツで多い割に,医者や看護師の数は他の国と同じくらい.つまり,一人あたりの医師が受け持つ患者の数が多いこと.そして人手不足であるが故に,平均在院日数が極端に長くなっている.そのため,地域医療にシフトしていくこと.地域包括ケアシステムへとシフトすること.都道府県の役割を強化して,保険者の市町村から都道府県の移行を強く提言している.
- 医療の機能分化と連携を阻むのが,医療のほとんどが民間医療機関であり,国の政策をにらみながらも利益の追及を行っており,国策をそのまま実現するには難しい状況にある.また自己負担についても公平性の観点から,単に高所得者からは高徴収,低所得者が免除されるというには果たして納得されるのか…やむを得ないにしても説明の仕方が必要であろう.
制度の持続可能性を強調する介護保険制度の改革(大森彌)
- 介護保険でも,持続可能性を高めるために,サービスの効率化と重点化に努める必要があるとのことで,地域包括ケアシステムの推進がうたわれている.予防給付の見直しとか利用者負担のみなおし,補足給付に当たっては,資産を勘案するというものであった.
- そもそも予防給付は介護保険法第2条に明記され,取り組むべきこととしてあったが,予防給付を廃止し,一挙に地域支援事業へ移行することを考えていたようである.結局,2017年に要支援1と2の訪問介護と通所介護については市町村業務に移し,他は予防給付に残すことになっている.
- 収入がある人から自己負担率を引き上げるのは,そもそも介護保険が普遍性,応益主義から選別主義,応能負担への変更を意味し,制度の持続可能性を高めるためと言うことでは根拠づけられない.
社会保障制度改革国民会議報告書における年金の評価と課題(駒村康平)
- マクロ経済スライド制度についての批判を中心に論じられているが,ピンとこない.
「一体改革」と生活困窮者支援(宮本太郎)
- 別号で詳しく述べられる生活困窮者自立支援法について簡単に論じている.この一体改革のスタートは,構造改革路線やリーマンショックの中で格差や貧困が広がり,そこに国民の関心が集まったこと.そのため全世代対応型社会保障を目指されたこと.非正規雇用の拡大により社会保障が十分に受けられない人の増大など,社会保障そのものの信頼も揺らいでいた.生活困窮者への対策はその意味で,一体改革の隠された主題であったと言える.