2013.8
少子化と子育て支援
対談 少子化問題の全体像
- 日本の合計特殊出生率が2.1を割って40年…90年代は1.57ショック…こんなに低出生率が続くとは当時誰も思っていなかった.
- 子どもを育てるために正社員の仕事を諦めないといけないなど,機会損失の問題がある.
- 非正規雇用の拡大により,結婚しても十分な生活ができない人が広がっている.
- 高度成長期の性別分業制度(専業主婦モデル)のモデルがまだどこかにあって,それが少子化対策の足を引っ張っている.いまは共稼ぎモデルにシフトしているのに…
- 女性が活躍すれば少子化が進行するのでは無く,そうしたモデルにあって仕事と子育てが両立する社会づくりをするべきである.
- 正社員の女性は現在育児休業法などにまもられているが,やはり非正規雇用の女性は仕事が続かない.続いてもキャリアアップは見込めない.全体でみると昔から就業継続率は変わっていない.
- 働き方にしてもフレックス制とか残業無しの勤務を認めるなどいろいろと対策は取られている.
- 待機児童は潜在需要も含めると100万人程度,取り組みしだいではゼロにすることが可能.横浜の例を挙げて,トップの意気込みがあればできるとのこと.
- 要するに男女問わず残業を減らし,有給休暇の取得率を上げることは結果として子育てに対してかなり助かるということ.ワークライフバランスを本気で取り組むこと.
都市における待機児童問題と保育の質(普光院 亜紀)
- 2004年に公立保育所運営費の一般財源化は,市町村における保育予算の確保を難しくし,待機児童対策にネガティブな影響を与えた.さらに,都市部でもやがて少子化が進むという見通しが自治体の姿勢を消極的にさせた.
- ライフモデルが,性別分業モデルから共稼ぎモデルに変化したが,自治体は後手に回った.
- 自治体では待機児童ゼロといった発表もあるが,実態は全然違い,主婦たちが自ら運動を起こして調べると,国が発表した待機児童の2倍以上となっている.また定員オーバーして詰め込まれた児童も対象外となっているため,真の待機児童数との乖離(かいり)は大きくなる一方である.
- さらに詰め込まれた児童により十分な空間が確保されないことによるさまざまな問題点も指摘されている.
- 2015年児童福祉法改正では,市町村が要保護児童を保育所などで保育するように勧奨し,最終的には措置すべきことを規定している.児童虐待の予防として,困難に陥った家庭を支える役割も保育所には求められている.
- 課題としては,園庭の無い保育所などハード面で問題があるところがある,保育人材も無資格者の登用を検討しているが,まずは保育士の資格を持つものへの待遇面の改善が必要.経営者の子どもへの無理解や営利追求により保育者の大量離職の問題がある.経営者には人材を大切にする気持ちが大切.財源の確保が大事など.
少子化とワークライフバランス
- 安倍総理が2013年に3年間の育児休業を経済界に要請したとのこと.現実的では無いとか,3歳児神話復活かとか,女性だけキャリアを諦めるのかと非難が多かった.
- 育児休業の制度は改正を重ねているが,第一子の出産前後で就業を継続する女性は4分の1程度で推移していて一連の施策が思うように成果を上げていない.
- 子育てを必要としていない女性からすれば,手厚い助成制度は,逆に職場の不和となりかねない.制度の利用可能期間が延びると制度利用者が増える一方で,制度を利用しない従業員の日頃のハードワークに制度利用者の担当していた業務分担が付加されることになりかねない.その逆に,短時間利用者が残業が発生するフルタイムに戻ることにちゅうちょする.
- 必要なのは子育てをしている従業員がことさら働き方を変えなくても子育てと両立できることである.
- ワークライフバランスとは,子育てをしている従業員のみならず,あらゆるステージにおいても適用しうる考え方で,仕事とプライベートのバランスを取ることである.社会活動,自己啓発,介護,趣味の活動を含めている.
- ワークライフバランス支援は,目的では無く人材活用の手段として位置づけられている.
若者の雇用の非正規化と結婚(永瀬伸子)
- 非正規雇用は晩婚化とか離婚,シングルマザーの貧困を引き起こしている.
- 1988年までは男女とも34歳以下の雇用の9割が正規雇用であったが,2008年になると34歳以下の高卒の未婚者は5割が非正規雇用,高卒男性も3割,大卒でも2割が非正規雇用で拡大している.障害の技能蓄積や人的資本形成を停滞させ,さらに家族形成を難しくさせる.
- 非正規雇用の気楽さを選び,正規雇用の残業の多さとか厳しい働き方を忌避する人もいる.それは正規雇用の働き方を見直さないと行けない面もある.
- アメリカではキャリアアップの道筋はあるが,資格を取っても日本では活かせるところが無い.
- 非正規雇用の女性は早婚ではなく,むしろ正規雇用の女性のほうが結婚が早かった.
- 結婚するかしないかは個人の自由であると言うことはあたりまえであるが,家族を持ちにくい社会的状況に置かれている今日的な社会的課題を彼らの自主的な選択に置き換えているため問題が見えにくくなっている.
- 育児休業の制度も非正規雇用では適用されていないため,出産で仕事を失うリスクは常につきまとっているのである.
子育て世代への経済的支援の有効性(駒村康平)
児童手当はスウェーデンでは少子化対策に効果があったが,日本ではあまり効果が無いとする研究結果がある.日本の子どもの貧困率は先進諸国でも上位であり,再配分前後でもほとんど貧困率が改善しないという問題を抱えている.
日本では1997年では年収が300万円台が多かったが,2007年には200万円台に,30代も100万ほど年収が減少している.
以下,児童手当法の詳しいいきさつとなるが,世界的には所得制限無しでの児童手当が支給されているし,かなり前から行われていたが,日本の場合,所得制限にするかどうかとか児童手当拠出金の形態が財政的にも安定性を欠いていることなどなど,あまり児童手当に対しての認識が薄かった.また年功序列型,正規雇用,男性モデルの慣習がいまだに強く,現在広がっている非正規雇用や不安定な賃金構造に対して,児童手当がいわゆる社会的賃金としての重要な役割になっているという認識を持つ必要がある.その上で,現行水準が子育てコストをどの程度カバーできているのか検証する必要がある.
いわゆる貧困層が広がっているという認識を持つ必要がある.