2011.9
社会保障制度改革のゆくえ

インタビュー 社会保障と税の一体改革の方向性と社会への影響

社会保障とこれからの社会の全体ビジョン(広井良典)
日本の社会保障の規模はアメリカに次いで最も小さい.これまで会社や家族が隠れ社会保障として機能していたが,それが流動化して機能しなくなってきている.また社会保障の割合は,年金が多く,介護,保育,失業などの福祉関連予算が少ない.ただし,年金に関しては,女性の平均は4万円で,日本の65歳以上の女性の貧困率が2割,単身者では約半数が女性の貧困となっている.高所得者ほど高い年金を受け取っており,所得再分配がまったく働いていない.また,消費税に関しては,使い道がしっかりとしていればむしろ中所得以下の人に大きな恩恵があるので一概に反対とするのは間違いである.逆進性よりもむしろ再分配のコンセンサスを取り付ける必要がある.

社会保障と税の一体改革と共通番号制度(北川正恭)
マイナンバー制度を推奨した人の記事.実施しなければ遅くても2015年頃には日本は社会保障・税をはじめとして多くのことが立ちゆかなくなるとの視点で解説している.
実際にはマイナンバー制度がどのくらい浸透しているのか,利便性があるのかは2017年現在あまり実感できないし,税金の無駄遣いではなかったのかという疑問の方が強い.住基ネットの失敗から何も学んでいないのではないか.北川氏も話すように,民間活用まで視野に入れているようだが,活用されている跡が見えない.

諸外国における社会保障・税の共通番号制度(森信茂樹)
諸外国でもドイツやオーストラリアでは納税番号に限定,スウェーデンなどは電子政府に一環として活用している国がある.税や社会保障だけではなく,兵役などの最新情報まで網羅するのか.共通番号を付与することで社会保障の給付ができるようになるのか.幅広い活用のメリットは,人口統計や兵役や税務の分野で行政が活用できることにある.また出生届を出すと登録され,自動的に児童手当が振り込まれるなどの電子政府としての利便性がある.不正防止と税務効率のために導入されている国もある.

共通番号制度と個人情報保護(樋口範雄)
マイナンバー制度を導入したいきさつとして,1.より公平・公正な社会,2.社会保障がきめ細やかかつ的確に行われている社会,3.行政に過誤やむだのない社会,4.国民にとって利便性の高い社会,5.国民の権利を守り,国民が事故情報をコントロールできる社会であると.それは翻って,今の社会が「そうではない」ことの裏返しとも言える.
障害者として給付申請をするときに,あちこちの部署を回らなくてはいけなかったが,マイナンバー制度を導入することでカルテから申請書類まで情報を集約させることが可能になるはずである.
ワーキンググループでは,情報の集約や税徴収の効率化などを目指していたが,どうも政治的に骨抜きになってしまったようで,かなり中途半端な形になっている様子.情報の管理や流出問題などばかりに焦点が行きすぎて後退した印象である.

社会保障改革と税制(権丈善一)
民主党時代の社会保障に関する抜本改革案や税制改革が結局は棚上げになる.財政は国家運営の根幹の問題である.そして社会保障論は要は税源調達問題である.増税をしなくても財政は大丈夫.社会保障は充実できるという甘い言葉で国民を騙す手法は,選挙には強いがその後確実に国家運営を行き詰まらせる.この一文に尽きる.その上で,この当時の試算でも2020年程度には23%の消費税のアップが必須である.それでも増税しつつ,社会保障は抑制せざるを得ないというか名無し医未来はそう遠くないところまで来ている.

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