2011.3
低所得者の住まいをどう確保するか

住宅の市場化政策とセーフティーネット(平山洋介)
ネットカフェ難民,ホームレス,家賃を滞納する世帯が増えておりその追い出しがある.企業の寮に住んでいる労働者が失職し,仕事と住む場所を同時に失うなど,住まいの不安定化が進んでいる.その背景には新自由主義的市場の推進がある.
ネオリベのイデオロギーでは住宅セーフティーネットに最小限の役割しか与えない.当初,住宅政策は,公営,公団,公庫住宅の三本柱があった.公営は低所得者向けに,住宅公団は大都市の中間層に分譲住宅を,公庫は中間層の持ち家取得に低利融資を供給した.しかし,新自由主義の政策転換は1990年代に始まり,公庫は2007年に廃止.公団の後継組織である都市再生機構は住宅建築の事業を大幅に減らした.公営住宅の役割も一層狭まった.簡単に言って,新自由主義の影響が増し,公的賃貸セクターに対する援助を減らした.多くの国でも同様であったが,北欧などは住宅ストックが多くあり低所得者の受け皿は日本に比べて多くあった.
日本では労働による自立が最も重要なものとし,離職者には一時的に住む場所を提供した.労働が出来ない人には従来の住宅セーフティネットを適用させた.しかし離職者が容易に安定した賃金と住宅を確保できるとは限らず,やはり不安定化していると言わざるを得ない.また住宅政策は地方分権と移行し,公営住宅による財政負担は市町村に覆い被さることになり,低所得者に貸し与えても家賃収入は減少するだけで生産性が見込まれない.よって公営住宅の増大へのインセンティブは限りなく低いと言わざるを得ない.結論から言って,住宅政策を市場と地方に委ねることは,とても粗雑である.住まいが市場化し,自治体の裁量が増えれば,低所得者の住宅条件に関する地域間の差は拡大せざるを得ない.

支援を必要とする低所得高齢者の住まいの現状と課題(松本暢子)
世帯員のいる高齢者は84%が持ち家であるが,借家住まいの半数がひとり暮らしである.また低所得者向けの公営住宅の応募倍率は平均8.6倍と高く,入居待ちは69万人である.高齢者への入居優遇措置がとられているが,現状は厳しい.最近は高齢者の住宅政策は充実しているが,低所得の高齢者の場合は限られた範囲の選択とならざるを得ない.
低所得者が入りやすい,養護老人ホームと軽費老人ホームの定員は約30万人に過ぎず,要介護状態の世帯は17万世帯とも言われ,まだまだ十分とも言えない.ちなみに有料老人ホームは10年間で10倍の伸びであったことに比べるとケアハウスなどは緞帳で在ると言える.有料老人ホームの数量規制,療養病床の再編の受け皿,特養と有料老人ホーム以外の選択肢として,サービス付き高齢者賃貸住宅,いわゆるサ高住が急増.しかし,施設入所や在宅ケアでの費用よりも高いため,低所得者には行き渡っていない.家賃補助などの住居費用の負担対策が必須である.空き家を利用した住居サービスや家賃助成制度と居住支援の仕組みなどなどが有機的につながっていかないことには低所得者の高齢者は守れない.

居所の無い生活困窮者の自立を支える住まいの現状(阪東美智子)
ホームレスの自立の支援などに関する特別措置法制定以来,ホームレスの数は減少したが,マンガ喫茶やインターネットカフェ,保護施設や無料低額宿泊所などを利用する,安定した住まいを持たない人々の存在も多数確認されてきた.また,その多くが施設から安定した居所に移行するのでは無く,路上との往還を繰り返している.ホームレス地域生活移行支援事業では,借り上げ住宅を二年間低家賃で貸し付け,その間に地域生活への移行に向けて就労や生活面の支援を行うものがあったが,2年で終了.以後,生活保護法の適用によって居所を確保する以外具体的な物は無い.
また,2008年以降は解雇や雇い止めによる離職者への住宅支援策に重点が置かれたが,かなり制約もあり十分な物では無かった.内容は割愛するが,就労による自立が前提であるが,貸し付けが6ヶ月であること,前金や敷金は社協のつなぎ融資を受けられるが返さないといけないがもともとお金が無い人には無理ゲー.また住宅探しが自分任せで窓口もたらい回しとかなり無責任だった.
そうした路上生活者などの居所が不安定な人に対して起用していたのが,NPOや民間団体による借り上げ住宅や無料低額宿泊所などであった.また敷金や保証人の確保もNPOや民間団体に寄るところが多かった.しかし,NPOや民間団体も一歩間違えば貧困ビジネスにも変容しうる.例えば,無料低額宿泊所は,実際無料では無く生活保護の住宅扶助の上限が設定されていることが多い.無届けが多く行政の管理が行き届かない.そのため狭い空間で不必要なサービスを提供して搾取することも多く考えられる.また本人の主体性よりも提供者側の判断で行われている場合も考えられる.しかし,無料低額宿泊所などを否定すると多数の路上生活者を生み出すため,より適切なサービスや料金の提供への監視や指導を徹底するしか無い.現状としては,居住確保の支援に片寄り,居住継続のための支援が欠落している.

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