2011.12
特集:東日本大震災と福祉(今,何を学び,何を変えるか)

インタビュー:震災後も変わらない日本の課題(広井良典)
震災後半年経った頃にインタビューしたもの.震災という問題が他の問題から独立して存在するのでは無く,日本社会が抱える構造的な課題は震災の前後で変わってはいない.むしろ先鋭化したと観るべき.例えば,自殺者が年間三万人を超える状態.コミュニティの希薄化が問題になっている.また被災地がそうであるように,高齢化とともに人口の減少が進んでいると言うこと.
日本は他の先進諸国に比べて社会的孤立度が非常に高い社会である.内と外ではまったく違い,内には強く,外には冷淡で無関心であるという性質があり,家族や集団を越えたつながりは希薄になり,その枠を越えると助けてくれないとい社会になってしまっている.また内にも同調圧力が非常にかかり監視し合って身動きがとれない息苦しい社会となっている.震災時はその内と外の壁を取り払って活動していた人たちがいて,非常に評価できる.
内と外の壁を取り払うこととして,一つに福祉,環境,町作りといった分野でのNPOやソーシャルビジネスといった動きを含めた新しいコミュニティ作りに向けた活動.一つに日常的な人と人との挨拶,コミュニケーションという身近なレベルを含めた人とのかかわり方や公道を徐々に変えていくこと.そして,福祉思想が根付くこと.これは,同調性に流されやすいのは,裏を返せば集団や空気を越えた原理,拠り所が無いと言うことになる.この思想を持つことが大事である.震災によって,NPOの活動はすでに始まっていた部分があり,二つ目は震災をきっかけに被災地以外でも変わってきた部分がある.しかし,最後の思想については実現が難しい.
仮設住宅では買い物難民が問題になっているが,これは従来の高齢者問題でもある.また施設自体が僻地にあるなど,福祉の問題であると同時に町作りや都市の構造そのものの問題がある.また震災を契機に,いかに都市部が地方がもたらす食料に依存していたかが明らかになっている.これまで福祉関係者は町や都市の構造は所与のものとした上で,個々のケアを充実させていくという発想だったが,これからは町そのもののあり方を福祉的にしていくという視点が必要になる.それは街のもつハード面だけでは無く,ソフト面,コミュニティやその地方での特色などを勘案し,いかにその中で福祉のコミュニティを作っていくかを構想することである.
GDPではなく,GAH(国民総幸福量)の増大をめざす…福祉とは生活の質を維持.向上させるための社会サービスであり,さらにいえば,元々の意味は幸福である.

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