2011.10
ケアする人のケア

インタビュー:鎌田實
 言うまでもなく、ストレスは良い場合も悪い場合もあり、一概に悪いとは言えない。ストレスが社会を変えることも自分自身の目標の実現にもなる。また自分のストレスを一杯抱えていても、それを横に置いて他者に暖かい心を持つことも出来る。ストレスをどう捉えるかによる。
 昔からケアする人をケアすることの重要性はあったが、介護保険制度が出来てからそれが一層認知されるようになってきた。また東大震災での作業スタッフ、看護師、医師、教員などなどの疲労感は相当なものであり、そうした人へのケアは非常に大切である。

三宅貴夫「介護家族への支援」
 自身の妻が重度の意識障害や認知症になったことを紹介し、家族がいかに大変な状況に置かれているかを描いている。その上で、認知症の人の介護家族の心理と行動では、
  1. 気づきの遅れ〜自分の親が認知症になるはずではない、間違った知識で物忘れとか老化現象と認知症を理解していること。
  2. 期待〜診断が間違っているのではないかとか、治るではないかと思うこと。あるいは過剰に思うこと。
  3. 悲哀〜尊敬する自分の親が失禁をしたり、家族の顔も分からなくなること。
  4. 不安〜自分が倒れたらどうしようとか、もっとひどくなったらどうしようと思うこと。
  5. 怒り〜認知症の人を困らせる人として家族の被害意識も強くなり、怒りの気持ちが沸くこと。
  6. 自責と後悔〜認知症が進行したのは介護の仕方が悪いからだと自らを責める。
  7. 喜び〜表情が和らいだ、会話が出来るようになったといった介護することの喜びを抱く家族もいる。
 支援方法として、公的支援と私的支援、そして医療支援を挙げている。介護保険・所得保障、認知症の人と家族の会の活動に参加するなど。医療では、早期診断、治る認知症の治療、進行予防などがある。

北浦正之「介護労働の現状と課題」
 介護人材の就業実態についての論述。常に求人募集がかかるなど逼迫していること。その理由としての低賃金・重労働・批正期雇用の割合の多さ(労働環境の流動性)などである。この論文で上げられている定着率向上の提案として、
  1. 業務上の負担を軽減し、労働環境を改善する方向
  2. 人材育成などを通じて従事者の働きがいを高める方向のバランスを取ることにあるとする。
 特に1の業務上の負担の軽減は重要で、女性が多い職場であることから、仕事と育児の両立の支援をはじめ、ワークライフバランスへの配慮が重要な課題となる。また職場内研修の活発化も必要である。研修を行える土壌って大切だと思う。

才村純「厳しさを増す児童相談所児童福祉司の職場環境」
 虐待死が報道されるたびに児童相談所は社会的批判を受けている。しかし、ここ最近努力のかいもあって、児童相談所が介入して救えなかった子供の件数が50%から10%にまで改善されてきている。しかし、その背景には、増大カツ困難する事案に振り回されて児童福祉司は疲労困憊している。その業務内容がいかに増えたかのタイムスタディ調査の紹介。あるいは担当件数の国際比較、親による妨害・加害事案件数の推移などである。
 十分な休養、スーパービジョンやQJTあるいは配置転換で最前線と後方支援の入替など提案されている。

堀場純矢「児童養護施設職員の労働環境の改善に向けて」
 虐待案件で入所してくる子供達が多く、いわゆる手のかかる子供の対応に追われる職員はストレスフルだということ。年間労働時間が過労死認定ラインの3000時間を超えていることなど問題視している。対策として、1999年にILO事務局長のゾアビアが提唱してディーセント・ワークの概念の紹介。この概念は、権利が保障され、十分な収入を得、適切な社会的保護のある生産的な仕事〜人間らしい、働きがいのある労働とされる。
 簡単に言って、先に述べられているような労働負担の軽減が有効であり、それにむけた施設の取り組みが必要となる。また労働組合の結成は労使間にとってもメリットがあること。そして、労働組合も、措置費などの縛りがあり、過度の要求が出来ないこと、制度の改善は労使協働の課題であること、職場の要求が一本化され、職員集団がまとまりやすいことなどのメリットを挙げている。また、施設の自助努力だけでは解決することは困難なことから、施設関係者による組織的ソーシャルアクションも不可欠と論じている。

楠凡之「発達障害児の保護者の抱える困難さへの理解と支援」
インタビューに例を挙げながら、自閉症の子供を持つ親の苦労について述べている。その苦労は、
  1. 愛着関係を築くことの困難さ
  2. しつけの困難さ
  3. 発達特性に対する対応の困難さ
  4. 周囲の理解が得られにくいが挙げられている。
 それに対しての支援のあり方として、
  1. 保護者から見た時に事態の見え方、感じ方への共感的な理解
  2. 保護者の心身のストレスの軽減に向けての支援
  3. 保護者が子育ての見通しと希望を持てるように援助することを挙げている。

 このほか、礎を築いた人として田村千鶴子を取り上げていた。彼女の取り組みは、非常に過酷だったが、最後は日韓の壁とか偏見を超えた愛であったことを知り、ちょっと感動した。
(2012.1.3)

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