2010.9
子どもの命と育ちをまもる

解説:児童虐待防止法制定後の虐待の状況
2008年の虐待相談件数は約4万件とうなぎ登りであるが,これは子どもの虐待への認識が深まり,虐待が目に見える形で外に出てきていること.またこれまで見過ごされてきたようなことも明らかになったことが要因として挙げられる.また,2000年に成立した児童虐待防止法により,通告義務が課せられたことも大きい.2004年の改正では,同居人が放置するネグレクトも虐待の定義に含まれるようになる.また子どもの前で家庭内暴力を振るうことも虐待と規定する.2008年の改正では,児童相談所の機能強化や保護者が拒否した場合は,最終的には裁判所の許可を得て,強制的に住居に立ち入る臨検・捜索が出来るようになる.ただ活用が進んでおらず緊急時の対応としては煩雑であるなどの課題がある.また問題解決に向けて親と対立を避けたいと考えている事情もあるとみられる.
児童虐待防止法制定後,このように認知が進み,市町村の関係機関のネットワークも格段に進歩し,親に対する強制的な介入の枠組みが出来た,しかしまだまだ人手不足感は強いし,また社会資源も十分とは言えない.また連携のまずさから子どもが死に至るような事案もチラホラとある.児童虐待防止法が早期発見や親子の分離を行うために改正を重ねてきたが,それだけでは何も解決しない.子どもと親をどうフォローアップしていくかが問われている.

提言:子どもの人権を守るために
虐待事例においては,親子分離がゴールではなく,子どもが安心して家族に戻るー家族再統合にあるが,児童相談所や児童養護施設ではその取り組みは低調で10%に満たない.措置解除では,親の強い引き取り要求に屈したケースが2割.なぜ再統合の取り組みが進まないのかは,人手不足やそもそも法体制としての根拠が薄いことにある.
また2004年には児童福祉法改正により「要保護児童対策地域協議会」ができているが設置率は86%を超えているものの形骸化しているところもある.この協議会には代表者会議,個別ケース検討会議,実務者会議の三層構造となっているがしっかりと取り組んでいる自治体は少ない.要因として,やはり事務の膨大さや日程調整の困難などが挙げられている.また児童福祉司などの専門職の配置も少ない.
児童相談所の児童福祉司の担当ケースは約100件を超え,諸外国のそれが20件程度であると比較すれば激務である.また諸外国の相談員は国家資格であるが,日本のは任用資格でありまた異動サイクルが短く,組織における専門性の蓄積が困難である.また虐待を受けた子どもの心理的アセスメントなど児童心理司の重要性が増しているにもかかわらず人員体制のあり方について児童福祉司ほど議論されることがない.
養護施設の人員などは戦後大きく変わっていない.その一方で,子どもを取り巻く環境や子ども自身の問題の深刻さは深まる一方で,まさに野戦病院とやゆされるほどの混乱が生じている.ようは,制度は改正ごとに緻密になっていく.このことはむろん歓迎すべきことである.しかしこれらの制度を実践する現場の人材が疲弊したり専門性が発揮できないようでは,どんな良い制度も絵に描いた餅になってしまう.福祉人材に焦点を当てた議論の輪が広がっていくことを切に願う.
2017/9/24

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