2010.11
ソーシャルワーク教育再考

白澤政和「ソーシャルワーカーとしての社会福祉士の養成教育に求めるもの」
 2007年に社会福祉士・介護福祉士の一部改正が成立した後にどのように変わってきたかについての内容。1987年にこの法律ができたときの養成機関は47校であったが、現在は271校になっている。量拡大から質拡大への変換で、カリキュラムの総時間数を1050から1200時間にする。就労支援や成年後見、更生保護などの社会福祉士の職域に関する科目の追加、実習時間延長や指導方法の変換などなどが図られた。継続的な見直しを図っていくことが必要であるが、ソーシャルワーカーへの社会の側面からのニーズ増大がその背景にある。例えば、福祉事務所などの行政領域では地域包括への社会福祉士の配置が義務づけられ、それに伴い福祉事務所や病院への新規は一が進みつつある。保健医療領域でも社会福祉士が雇用されやすい環境になりつつある。社会福祉士に対する退院調整加算がついた(後期高齢者、新生児特定集中治療室、慢性期病棟)。その他介護支援連携指導料、癌患者リハビリ、栄養サポートチーム加算などである。教育部門ではスクールソーシャルワーク事業、司法では刑務所内の処遇や出所後の地域生活定着支援センターの設置。労働でも2009年より住居・生活支援アドバイザーとして要件の一つとなっている。
 職域は拡大されたが、中身はあまり議論されず、配置されている社会福祉士のほとんどが非正規雇用で賃金が安いという問題がある。また正規雇用された社会福祉士についても他の全産業職種に比べて低い内容となっている。教育機関としては、
  1. 実践能力の向上→プランニングや説明責任能力の向上が社会承認に欠かせないスキルである。
  2. スペシフィックな領域での基礎能力→特に施設にいる社会福祉士はケアマネやサー責がいることから相談業務に携わっていないことが多い。施設ソーシャルワークを明確にして養成することが必要。
  3. 実習教育の充実→実習指導者研修への参加を管理者が理解を示すこと。また実習時間が国際標準からしても少ない事への問題提起。
  4. キャリアパス教育との連続→認定社会福祉士などキャリアアップに仕組みの構築
 学校側としては賃金が低いことによる社会福祉士になりたいという若者が少ないことはもっとも悩ましいの課題であろう。

 実習を受け入れる施設側としては、後継の若者に福祉の魅力を伝えることが人材確保につながるが、なかなかキツイ職種(身体障害など)に実習をしたがらない。そのためキツイ職種に就く人材が減少している負のスパイラルがあることがレポートで上げられていた。

鼎談
 国際的なソーシャルワーク教育について話されている。ロシアでもソーシャルワーカー養成のためのマスターコースがあるが定員割れを常に起こしている。低賃金で社会的承認が無く、日本に近い状況である。スエーデンは労働政策とリンクしており、ソーシャルワーカーが働ける環境にある(安定的な職業として認知されている)。
 職能団体と大学、そして社会福祉士が働いている現場との連携をより密接にしていく必要がある。
 実践力については、やはり経験のウェートが高いものの、きちんとした知識と技術のベースを持っていないと意味がない。その意味でもスーパービジョンの確保が必要である。
 障害者福祉、高齢者福祉と縦割りになっており、また施設中心であったためそれぞれが独立してきた。しかし地域となれば、高齢者も障害者も貧困も包括的に存在している。それらを解決するには横断的な視点やネットワーク作りが欠かせない。ソーシャルワーカーはそうしたネットワークを作る必要がある。
 今回のカリキュラム改正でソーシャルワークの歴史が無くなった。歴史を学ぶと共に国際比較も重要な知識である。

石河久美子「アメリカのソーシャルワーカー養成」
 アメリカのソーシャルワーカー養成がどのように行われているか。特に実習教育について書いている内容。
 アメリカでは文科省認定と言ったものはなく、社会福祉士という国家資格もない。州ごとに試験に合格してソーシャルワーカーとしての免許証を取得する。アメリカでは学士レベルでは昇進することが難しく、修士をめざすことが多い。また日本の修士は学究色が強くなるがアメリカの修士レベルはより専門分化された実践中心の教育である。アメリカの博士レベルは大学教員、調査研究者、福祉政策アナリストをめざす内容となる。
 日本の実習時間は180時間だが、アメリカの学士では400時間、修士では900時間となっている。また内容も演習もかなり実践的で専門的なんだってさ。提言として、
  1. 日本でも通年実習を通じて利用者との関係形成と深化、そして主体的関わりを重視する必要があるのではないか→一年と通じて、教育と実践の検証ができるから。
  2. スーパービジョンの充実→ソーシャルワーカーのアイデンティティを持つ者が、そのアイデンティティを継承する者を育てていくシステムになっていかねばソーシャルワーカー養成の質向上は図られない。

橋本正明「社会福祉士資格の近未来像」
 専門社会福祉士論議について書かれた内容。専門社会福祉士の目的は、地域福祉の推進者という立ち位置を目標にしている。あんまり興味がないので端折るが、更新制度であること、二段階であること。最初は現場のリーダー、次に地域の連携、活動リーダーとなっている。2012年に実施される予定であるとのこと。
 こうした動き→専門性→養成機関へどうぞってなるんだろうね。

山崎美貴子「ソーシャルワーク専門資格と今後のソーシャルワーク教育の展望」
 ソーシャルワークは英米で誕生して100年あまりの歴史を持ち、固有の価値、知識、実践方法を時代のニーズと関わらせて発展してきた歴史的経過がある。翻って、社会福祉士はせいぜい20年であり同じものではないと。
 ソーシャルワークはもっと広い意味で、社会の文脈を読み解き、生活困窮の複合的で困難な状況を解決するために思考し実践する人材こそがソーシャルワーカーである。その意味で、社会福祉士の国家試験科目を設置し、それで事足りるとするなど社会福祉教育が矮小化するとすれば残念なことである。つまり、国家資格である社会福祉士養成を超えた教科内容を持つことが必要であり、そのためには社会科学や人文科学など幅広いカリキュラム編成できる教育体制をきちんと整備することである。
 簡単に言って、人間理解への幅広い知識と洞察ができる科目、他の関連職種との連携などを視野に入れた、他領域の知識と目配せが求められる。それは社会福祉士養成という枠を超えるものを幅広く学ぶと言うことである。やはり山崎先生は常に一貫しているな。
2011.10.18

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