2010.10
どうする?介護保険制度

インタビュー
 2010年3月に「地域包括ケア研究会報告書」が提出されたことを受けての特集となっている。2025年の高齢者介護を支えるために、ケア付きコミュニティの構築が必要とのこと。その内容について書かれている。
 日本の介護の仕組みは国際的に評価されていること。報告書は、認知症ケア、リハビリ、訪問看護ステーションの不足を提起している。その全体像について書かれている。介護保険だけを論じず、2025年に一番高齢者が多くなることから、その社会システムについて論じた。
 安心感不足故の施設入所ではなく、住み慣れた地域の在宅で暮らせるようにすること。そう言う状態をケア付きコミュニティという。人口一万人程度の日常生活圏域(中学学区程度、どこにいても急性期病院医療をのぞく、医療、介護、生活支援、福祉などが適切に、おおむね30分以内に提供される体制。
 24時間365日の介護体制の構築は、計画的な巡回と緊急通報システム、そして小規模多機能の三つをセットにして、地域の安心感を確保すること。
 こうした広範囲で多様なサービスを展開する時には人員配置の基準などを設けることが必要である。また大きな事業体の経営が安定するとの視点で構築されている。報酬は包括払いで複合型事情経営を実現させ、ワンストップ契約ですむ形が利用者には便利であると。在宅は突然のキャンセルなどがあり調整が難しく、それがパッケージだと予測しやすく安定経営が出来る。
 施設に関しては、内付けサービスに加え、地域単位で外付けサービスをもっと積極的に利用出来るようにする。施設の人材を地域サービスにも提供していくことを提言。逆に、施設側で医療が必要であれば外部から必要なサービスを導入し、人員を確保し、必要なくなれば解散するなど、人員配置を柔軟にすること(嘱託医の確保が難しいことからか)。
 地域包括ケアシステムを動かすには、地域包括支援センターが中枢となる必要がある。2006年から運用され、かなり認知されてきている。しかし本来予防給付を行うのが主目的ではなく、地域資源のマネジメントである。予防プランや給付管理をセンターから分離して地域マネジメントの主体であって欲しい。
 現在の介護支援事業所はこのまま今の路線で着実に進化して欲しいという視点(現場の声では県の指導監査による厳しさや制度改正で振り回されている状況などが書かれている)。逆にリハビリは絶対的に不足していると思う。特に生活支援としてのリハビリは足りない(ADL、IADL、ICF)。ヘルパーの家事援助だけではない取り組みが必要である。
 介護保険制度は財源論に終始しているが、安心して使える制度であることが周知されるのであれば、あとは工夫次第で何とかなる。これはあくまでも保険であり、たまたま不幸になった自体になった人が、不幸+金銭的な負担のダブル負担を背負わないようにすると同時に、ダブル負担への不安を除去し、過剰貯蓄を防ぐ仕組みである。

渡辺道代「介護者が置かれている状況と課題」
 2010年6月、「ケアラー連盟」が発足される。この連盟は、いわゆる無償報酬の介護者の集まりである。介護者の実態調査、介護者支援法の制定に向けた活動、キャンペーン活動を展開していく予定である。
 背景には介護や看護のために転職や退職している人が10万人以上いて、その大半がもし介護がなければ働き続けたいと思っていること。そして介護保険制度はなんだかんだ言って家族介護を前庭にしていることが問題となっている。また介護者の4人に一人は軽度以上のうつ傾向が見られ、65歳以上の介護者では3割が死にたいと思っていることが挙げられる。また介護者は物理的・社会的・経済的にも孤立しやすい。その上、虐待件数も伸びている(被害者は女性で、加害者は夫か息子が70%以上)。
 家族介護支援に関しては、介護休暇制度があるが、取得出来る範囲が限定され、休暇期間も一回93日までである。
 育児支援にみられるような介護家族が集う場の提供や相談・支援活動を行うセンターが必要とされる。

阿部崇「同時改定で見えてくるもの、見えなくなるもの」
 2012年4月の介護報酬と診療報酬の同時改定に向けて議論がスタートした。
 前回の介護報酬は、介護職員の処遇改善・人材確保に面がクローズアップされ、政治的な判断でプラス改定(3%)が行われた。しかし構造的なところ(持続可能性)まで踏み込まなかった。今回の改定では介護と診療が同時に改定されることから、医療と介護が同時に関わる時の報酬を見直すきっかけになる。
 今回の地域包括ケアの報告書は、制度を守る優等生の高齢者と漠然と前向きな地域の存在が前提になっており、厚労省の補助事業の一つとして描いた報告書が下敷きになり、介護保険の将来を左右する制度改正が行われることに違和感を表明している。
 まず制度の土台である、「人の確保」「モノの向上」「金の調達」をきちんと向き合って検討をスタートさせるべきである。目新しいシンボルを掲げて振り返らずに走り続けることは許されないのである。

座談会
 財源問題として、現在約4000円程度の保険料であるが、介護職員処遇改善交付金は県や国の持ち出しでまかなっており、それを組み込むことや年率4?5%自然と保険料が上がることを考えると5000円を超える。これを公費と保険料折半でやるのか、交付金をどうするのかといった議論がある。
 介護予防に重視と言っても、なかなか予防程度の人達はサービスを利用しない傾向にある。特定高齢者の抽出・把握にはかなりの経費が投入された割に、参加者が少なすぎたことを受けて、財源論として論じられる必要がある。また施設入所の低所得者に対する補足給付について、在宅で経済的に苦しんでいる人がいるのになぜ施設入所の低所得者だけが公費が支給されるのかという不平等感もある。また入所費用の自己負担分の未払いがかなり起きており、また入所するにあたって子供が世帯分離をする。よって子供に所得があっても本人にはないから払えない。あるいは資産はあるが現金化出来ないから払えないという問題もある。また20歳30歳まで保険料徴収を引き下げる議論もあるが、現在、その年代には非正規雇用が増えており、徴収が難しくなっている。
 現在特養への42万人もの待機者がいる。現在は特養希望申込者としか捉えられなくなっており、重複者や本当に緊急性のある人の実数の把握が急がれる。
 さらに介護保険だけを納めて利用していない人が83%、介護認定を受けている人の内在宅は13%、施設が3.8%であり、この3.8%が給付費の49%を使っている。
 在宅でもいま夫婦共に認知症などの認認世帯がどんどん増えている。家族が同居していない場合、この認認世帯をどうやって支えるか。地域でまず生活支援を徹底することが大切である。
 これから東京周辺や大阪周辺などの都市部が超高齢化していくと、結局施設だけではケアが追いつかなくなってくる。その場合、施設を活用して在宅の拠点になる方向性や在宅で医療と介護の両方を提供出来るサービス体系を作っていく方向性がある。
2011.10.18

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