2009.2
権利擁護の10年 福祉は変わったか

鼎談
 地域福祉権利擁護事業(現:日常生活自立支援事業)は1999年にスタートし、10年を迎える。その成果などを話し合う内容となっている。
 擁護事業は基礎構造改革の一環として誕生。措置から契約に移行する中で判断能力が不充分な方の意向や意思の決定過程をサポートし、利用者の自己決定権を出来る限り尊重することを目的にした。また禁治産制度から変更される形で成年後見制度も整備された。成年後見は財産など法律が絡んでくるが、擁護事業は福祉の専門家が日常生活、地域生活に関してサポートするシステムとして形成された。
 この事業の対象者は福祉手帳を有している人以外にも判断能力が不充分な方達を対象としたいわゆる制度の狭間にいる人達も包含していた。そして援助内容は、金銭管理や書類預かり、福祉サービスの利用に関すること、行政手続きなどの援助で、これまで実践方法の積み上げがなかった。またこの事業は地域生活を基盤とすることから、発見や気づきは、周りの住民の通報やら周りの人からの気づきによって成り立っている。そしてこの10年、積み重ねられると、非常に意義のある事業であったと言える。
 高齢者の身体拘束廃止、抑制廃止について、医療の進歩もあり、あまりに高齢化が進展し急性期モデルでは対応しきれず、老人病院での拘束が急激に増加していたことが背景にある。その一方で行き過ぎた拘束廃止により行動の自由が無くなるケースもある。
 尊重すべきは本人の意向であり、判断能力がある内は、本人の意向が確認出来れば良いのではないだろうか。いずれにしろ自己決定の尊重や個人の尊厳という抽象的な理念はこの10年で確固たるモノになってきており、評価するべきである。今後10年はより科学的に権利擁護を言語化していくことが必要であり、また臨床知の蓄積も大事になってきている。
 また契約方式になり自分でニーズを発信出来る人であればよいが、福利対象者はニーズがあっても利用に至らない、声なき多数者がいる。こうした人達に手をさしのべていくこともまた大切である(科学性と共に使命の必要性)。
 またこの10年は支援のための様々な基盤や制度を作ってきたが、他面で虐待防止法が整えられてきた。高齢者・配偶者・児童虐待防止法。しかし、障害者虐待防止法はなく、この10年で作っていかなければならない課題である。育児や介護ストレスがあったからと言ってそれを理由に虐待しましたってのは間違いである。

河野正輝「社会福祉の権利と権利擁護」
 福祉サービス利用者の権利は大きく、
  1. 情報の権利:相談場所や内容などサービス事業者は利用者の理解出来る方法で一定の情報を提供する義務を負う。情報へのアクセスに支障がある人に確実に情報を届ける提供方法に工夫が必要。
  2. 自己決定(選択)の権利:例えば代表的なモノとして、居宅介護支援事業者による介護サービスの計画での自己決定(選択)の尊重が歌われている。もっとも家族の意向が尊重される風潮にあり、それは本来の自己選択ではない。
  3. 適切なサービスを請求する権利:契約を結んだのだから、その契約を根拠にした適切なサービスを受ける権利がある。少なくても厚労省大臣の定める施設最低基準を満たしたモノである必要がある。
  4. 拘束・虐待からの自由:拘束を受ける場合は、切迫性、非代替性、一時性の3条件全てを満たす場合に限られる。
  5. プライバシーその他、個人の尊厳に関わる権利:プライバシー確保の取り組みが必要であるが、多床室などが有るため工夫が必要。同性介助、写真や個人情報の本人同意など。
  6. 福祉サービス利用中の預貯金などの管理:判断能力のある利用者の意思に基づいて財産管理委託契約を締結する場合の他はいかなる理由でも、施設は金銭の管理をしてはならない。
  7. 苦情解決・不服申し立ての権利:権利が無視されたり、侵害されたりした場合に、その解決や救済を求めることが出来るか。最終的には裁判所に提訴する方法がある。

大貫正男「成年後見制度の現状と課題」
 この制度が定着してきていることについて。2008年3月までの家裁の申し立て件数は約2万5千、この8年間での総数は14万8千件と禁治産制度に比べると飛躍的にのびている。
 当初はよく知られていない制度であったが、在宅の認知症高齢者が悪徳リフォーム会社から多額の負債を負った事件を契機に権利侵害から認知症高齢者を守るためにこの制度が有効であることの脚光を浴びる。2001年から成年後見制度利用の費用を援助する琴をも特的にした利用支援事業が開始。当初は認知症だけであったが、2002年に知的障害者、2006年に精神障害者に拡充。しかし、国が予算に計上していても現場の市区町村が事業として選択せず、予算化している自治体は極めて低い。
 市民後見人の養成に関しては、親族や弁護士に次ぐ福祉職や一般市民を後見人などの供給源とする動きが始まった。社協も権利擁護相談や日常生活自立支援事業、地域包括など行っており、成年後見制度の主要な担い手機関としての役割が求められる。とりわけ法人後見の役割である。市民後見などを束ねること。そして後見監督(後見人の監督)の役割も必要である。

根本久仁子「地域に潜在するニーズを掘り起こしてきた日常生活自立支援事業」
 本人との契約に基づいて社協の専門員と生活支援員が支援する制度である。また専門員は初期の相談から、計画の策定、契約の締結まで行い、生活支援員が定められた計画に基づいて実際のサービスを提供する。事業が始まって、様々な潜在する問題が改めて浮き彫りになる。主なモノは搾取と孤立である。そして相談を寄せるのは居宅だったり福祉事務所であったりで、本人や家族から相談を寄せられることは無かった。また日常の金銭を扱うから、本人や家族は抵抗感があった。それでもこの10年で4千人から2万5千人強まで増加した。日常の金銭管理の重要性は、収入と支出のバランス、印鑑や通料の紛失などの課題を多く持った人がいるという事である。つまり金銭のやりくりと管理が日常生活を営む上で最も重要なことであると言える。しかし、浪費や依存症などで切実に金銭管理を必要としながらも対象外になるケースもある。本来であれば医療機関などでのリハビリなど必要であるが、そのルートに乗らないケース、生活保護の担当職員が分割管理をするべきだが、担当職員の保護費搾取事件があった移行は職員が現金を扱うことを避ける動きがある。結論として幅広くカバーされてきたが、まだまだ必要とする人々がいるという事。

岩間伸之「権利擁護の担い手としての市民後見人の可能性」
 市民後見人とは、成年後見人などとして家裁から選任された市民を差す。そもそも市民における後見活動とは、地域に置ける相互支援活動として、市民という立場を活用した身近なところでの権利擁護活動を意味する。それは行政がイニシアチブを取って舞台を整備し、そこで一定の条件をクリアした市民が市民としての立場を最大限に活用して実践する取り組みと言える。この場合に市民とは、民生委員などの地域活動を行っている者。医療や福祉関係者。そしてそれ以外の者となる。
 とはいえ、それなりに信用されるためには後見人であるという前提となる知識やシステム、環境などきめ細やかに整備される必要がある。そして持続可能なシステムを走りながら整備していくことが求められる。
2010.10.18

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