2008.8
地域における“新たな支え合い”を求めて

 大橋謙策(当時の日本社会事業大学学長)が、「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」報告を発表し、それに基づいて読んだ学者達の批評・感想文が載せられていた。
 地域福祉の重要性が言われて久しいが、ここにきてもまだ「新たな」とか「支え合い」と言ったキーワードでくくらないといけない時点で、本当に顧みられなかったんだなと。もっとも福祉政策がなんだかんだ言って、救貧であり施設偏重の中で進められてきたので仕方のないことかもしれない。また、インタビューの中でも、大橋先生は昔は地域住民同士が支え合ってきたという人がいるけれど、それは産業構造の変化で無くなってしまっているからこそ、新しい支え合いが必要だとする視点は同意する。
 地域福祉と言えばついつい生活弱者に対する地域住民の支え合いにばかり目がいくが、そもそも地域とは、京極先生が感想文で書いてあるように、防犯・防災、教育・文化、住宅・街作りなどの幅広い分野との連携が欠かせないのであり、そのためのコーディネーターの存在を持つ必要がある。
 その他、福祉では有名な先生がコメントを乗せているけれど省略。

 論文は一本だけ
和田敏明「地域福祉の既存施策見直しの前提となる基本問題としての見直しの視点」
 見直しが二つも入って長ったらしい題名だが、要するに従来の社会福祉の範囲だけでは対応できない現代社会の有り様を考えたものになっている。しかし、あれだ。地域福祉では昔からずっと施設福祉以外の社会福祉実践の必要性を唱えてきた。従来の福祉が対象者限定の縦割り機構なのに対して、地域福祉は、多様な住民の多様なニーズ、様々なサービスを横軸にも縦軸にも織りながらオーダーメイドに作って行くことが大切になると主張されてきた。また住民主体とかもよく言われてきた。結局、そこにいる住民一人一人の地域生活への問題意識が無いことには動かないという。
 今回の報告書ではその辺をやや踏み込んだ内容だったようで、和田は特にその中でも「地域福祉計画」の策定を進めるべきだとする提言を行っている。この計画は行政が立てる物だが、義務づけられている物でもなく、社会福祉の各分野で計画を立てているから地域福祉計画は策定しないとかそもそも住民の意見をどのように取り込んで良いのか分からないという戸惑いもあるという。そこで地域住民が地区福祉計画を作成し、行政との協働で広域の地域福祉計画へ反映させるというのはどうだろうかと提案している。
 なるほど単に「そこに住む地域住民がんばれ」ではなく、こうした福祉計画作りに参画することで住民一人一人の問題意識は高まるだろう。
 ところでこうした報告書では、得てして行政の責任を強調しながらも反面、動かないとかカウンターグループ(対抗勢力)としてとらえられがちである。しかし、行政が動かないと福祉も推進されないのも確か。また施設福祉でも協議会などに入っている場合も多く、箱物だけではくくれない地域との関わりもある。熱意ある行政官や福祉従事者の参画こそが実は地域福祉には欠かせない要素であると思う。
(2013.4.15)

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