2008.7
障害のある人の権利を考える

高田英一「「障害者権利条約」の道程とこれから」
 ICIDHからICFへ。そして、様々な条約や障害者に関する宣言について大まかに論説している。特に、聾唖者の取り組み、主に手話が言語として市民権を持つまでの活動について詳しく述べられている。この論者が国連とかWHOで色々と発言をして、働きかけてきたようである。ちょうど、2007年の権利条約の背景には様々な思想のうねりや女性差別撤廃の条約が先行して成立したことなどに触れている。そして、日本がこの条約に批准するかどうかなどの駆け引きなど、教科書だけでは伺い知ることのできない内幕を「さらっと」書いている。

高橋儀平「障害のある人が暮らしやすい住まいとまち」
 ユニバーサルデザインとかバリアフリー新法に至るまでの一連の流れについて説明。車椅子が走行しやすい道路、エレベーターなどのまち作りを念頭に述べられている。しかし、公営住宅のバリアフリーは新法になってからのは、規則に則って作られているが、既存の公営住宅でのバリアフリー改築は遅々と進んでいないこと。また、障害者毎の行政計画とバリアフリーや環境計画との整合性が取れていないなど課題も多く見られていることに言及されている。

宮崎秀憲「特別支援教育の現状と課題」
 特別支援教育や総合的な相談機能、支援体制は2003年に既に決定されて推進されることになっている。そのあたりの取り組みなどについて概説している。あまり興味がわかない分野ではあるが、計画作りには親の会が参画していること。個別支援計画の策定でもってライフステージの一貫性が保障されること。また支援会議での社会資源のコーディネートに苦労していることなどが描かれている。

鈴木清覚「障害のある人の働く場の現状と課題」
 障害者自立支援法では、一般雇用や企業雇用に結びつける事業には手厚いが、福祉的就労などへの継続就労は低く見積もられていること。また、就労しに行っているのに、利用料を払うというパラドックス。または、福祉的就労でも時給100円であり、経済的ハラスメントであること。これは厚労省から訓練として位置づけられて違法ではなくなったが、いつまで訓練なのかという、労働権をないがしろにした通知であるという批判があること。その後ILOとか障害者の労働権に関する法令の紹介が成されている。

長葭千恵子「知的障害のある人が生きやすい社会とは」
 岩手で知的障害者専門相談室→知的のみならず障害の人たちへの電話相談を開設している論者の体験談。障害者は、サラ金、キャッチセール、闇金、リフォームの押し売りなど消費者被害に遭っている事実が多数ある。また、雇用主に対する賃金の不払いや虐待など後を絶たない。そうした生活を守るスキルを本人達に学ぶ機会を奪ってきたのは社会であり、周りの支援者であったこと。見方を変えると、本人の自立は様々な人々がその人を自立させるためにちゃんと向き合えるかどうかと言うことでもある。

平田厚「「障害者虐待防止法」立法化に向けての法的課題」
 児童・配偶者・高齢者の虐待防止法が成立し、あとは障害者となったことについて。障害者の虐待を考えると一つに施設、そしてもう一つが家庭内である。この二つは性質が異なり、施設は言うに及ばず犯罪であるが、家庭の場合は、いくつになっても「しつけ」と見なされる風土があること。事によったら高齢でも虐待になり得るという点で、介護なのか…ライフステージを横断する統一立法が望ましい。また経済的虐待もあり、障害年金の搾取もあり消費者被害も該当するのではないか。また内部告発についての配慮も言及している。

野沢和弘「障害のある人への差別をなくす市民意識の高揚のために」
 千葉での障害者差別撤廃を掲げた条例が成立するまでのやりとりについて分かりやすく解説している。有権者と納税者に理解を得るには地道に障害のことを分かってもらうこと。そのためにはタウンミーティングなどを開催して、それぞれの障害の特性や生活上の生きづらさを知ってもらうこと。その場を作ることの重要性について言及している。
(2013.6.30)

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