2008.5
健康に働き続ける福祉の職場

インタビュー「働き方を再考する」
 少子高齢化によって労働人口の減少が顕著であるから、これまで資格とか属性だけでは無理で、居間まで活用していなかった層まで手を広げること。定着率を上げる工夫が必要である。退職は人材確保のコストになるばかりでなく、育成コストも無駄になるからである。また燃え尽き症候群は福祉だけではなく他の業種でも同様の問題を抱えている。福祉施設も一般企業も、どういう仕事があって、それぞれに必要な職業能力がどの様な物かを理解していること。そして大事なことは能力があっても仕事が出来るわけではなく、意欲的に仕事に取り組んでもらうこと。そのための環境整備である。
 ワークライフバランスとは、仕事に偏りすぎて仕事以外の自分のやりたいことが出来ない、ワークライフコンフリクトが、結果として良い仕事が出来なくなると言う悪循環の改善のために提唱された物である。以前は、ワークワーク社員が多く、やり杯のある仕事、働きぶりが評価された給料、能力開発に機会、上司の指導など会社に対して社員が求める物を満たすようにすれば、社員は意欲的に働いてくれたが、今はそれだけでは物足りなくなった。管理職達はワークワーク社員であったが、今の若い人にその価値観を押しつけても共感は得られない。
 ワークワーク社員は仕事に投入する時間に制限はないが、ワークライフバランスを考えれば、子育てで残業が出来ないとか限られた労働時間を効率的に使える職場環境を整えていかないと行けない。
 今回パートタイム労働法が改正された。その内容は、仕事が同じで労働時間の長短以外では違いがない場合は、同じ処遇にしないと行けない。つまり、非常勤だからパート社員だからというのではなく、皆同じく処遇について考えて下さいとなった。
 人間関係によって退職するケースについては、現場の管理者がしっかりとマネジメントをしないと行けないが、現場の管理者は管理者で仕事が一杯で人材の定着とか育成に手が回らない状況にある。なので、現場の管理者が仕事だけに追われないで広い意味での人事管理が出来るような状況を作ることが大切である。
 福祉分野では専門資格を生かす職場という面もあるが、こうした分野では事業者の中に人材の育成をしなくても良いと誤解しているところも見受けられる。志柿がベースになる職業だからと言って育成の必要がないわけではない。そのためにもOJTは非常に大切である。
 福祉職は女性が多く、出産や結婚を期に辞めてしまうこともある。働き続けるためのバランスも大事であるが、勤め続ければ、自分が希望するキャリアが開けていると思えるかどうかが大切である。やりがいのある仕事が将来開かれていなければ、やはり仕事の継続をあきらめてしまうのである。

 レポート「福祉介護職員の労働実態」とかシリーズ福祉人材の「福祉人材確保の課題と事業者の対応」はいまの社会福祉業界の苦境をよく表している。レポートでは、小さい事業所程、労務管理がずさんであり、民間企業は採用率も高いが離職率も高いこと。特に9人以下の小さい事業所は採用率101.6%であり、離職率がなんと50.2%と一年間で採用した職員の内半数以上が辞めていくという雇用状況である。また定着を図るためには、職場間のコミュニケーションとか労働時間の希望を図るなどであったが、賃金・労働時間の労働条件を改善すると言う回答は比較的少ない。シリーズではこの年は割と景気が回復基調にあって、一般企業への就職が容易だったこと。またはパートがコンビニやスーパーマーケットに流れて行ったことを紹介。福祉の低賃金が社会に一石を投じたが、その後の改善が後手に回り介護業界のイメージダウンにしかならなかったことも書かれていた。賃金アップは非常に大事だが、人材育成のための雇用環境の改善を謳っている。

阿部眞雄「福祉・介護職員のストレス管理」
 福祉職は感情労働であり、感情を押し殺し続けることによるメンタル不全が問題視されている。メンタル不全の代表的な物がうつ病である。しかし、感情労働だけではなく、潜在的な物を含めるとかなりの数の人がうつ病にかかっていることが調査から推測される。メンタル不全に陥りやすい人は、完璧な仕事を求め、何でも頑張れば出来ると過信し、多くの仕事を背負い込んでしまう人である。この様な人は、仕事を他の人に協力してやってもらった方がよいと話すと、たいていの場合、自分でやった方が早いとか他の人には出来ないという答えが返ってくる。また、こうした頑張りすぎる人は、疲れ知らずであったり、疲れに対して鈍感な場合が多い。体感として疲れが分からないと行った方が適切か。
 ストレスは人が生きていれば必ず生じている肉体的精神的現象である。しかし、個人の能力を上回るストレスが次から次に降りかかってくると処理しきれなくなるのである。ストレスを処理する能力(コーピング)を強化するのではなく、ストレスの原因であるストレッサーを減らすことが重要である。

上之園佳子「福祉・介護職の職業上の健康と安全衛生に関する課題」
 端的に腰痛発生の実態について記述されている。硬い文体だが、要するに介護業務、特に女性に腰痛発生が多く、中でも入浴関連やシーツ交換、排泄介助など身をかがめて行う作業で腰痛を感じることが分かったとのこと。また、腰痛は介護技術の未熟さや自己責任の健康管理と言った個人の能力や問題と捉える向きがある。また認識として福祉機器を使っての移乗には、抵抗感があり、家族に代わり優しい手でと言う意識を大切にしているところがある。しかし、身体をこわしては元も子もないので、適切に使うことが大切である。

奥川幸子「福祉職場に求められるリーダーの役割とは何か」
 大半が自慢話であったが、最後の方に福祉現場で出会うリーダーの中には卒後3年位の若いケアワーカーが目立つようになったこと。グループホームやユニットケアなどを担当するリーダーがその傾向が強いこと。ケアワーカーの定着率が悪く、給与面の低さも相まって、技の熟成・伝達が行われる猶予期間も持てないまま、負の連鎖が続いていることには共感する。結局、人との出会いや職場で鍛えてくれる人々の存在は大切である。

渥美崇史「事業者に求められる職場作りの視点」
 福祉職の不満の第一位はもちろん賃金であるが、それ以外ではインタビューで述べたようなワークライフバランスができない労働環境にある。休日が少ないとか勤務時間が長い、産休の女性職員に対する制度が整っていないなど後発的な原因も多々ある。
 ワークライフバランス…特に子育てと仕事の両立支援は他の大企業の例を持ち出して説明している。その他、残業時間の削減やメンタルヘルスの対策などの説明を行っている。最後の方に書かれている内容は一理ある。というのも、賃金の改善をすれば一時的には採用に有利に働くが、逆に考えれば、労働条件を理由に応募してくる職員は、それ以上によい労働条件が他にあれば、そちらに流れる可能性が高い。このような対処療法的な施策では、本質的な改善は図れない。よって、組織風土や人材のあり方など見通しを持って戦略的に行う必要があると思う。つまりいかに魅力的な職場を作るかである。職場としての働きがいややりがいをどの様に創出していくか。事業者としての本来の役割である。
 まぁ、帰属意識があるかないかではモチベーションって違うよね。
2011.12.10

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