2008.2
社会福祉の行方をよむ

蟻塚昌克「2007年社会福祉の回顧と展望」
 この年は阿部政権の誕生〜小さい政府の継承で幕を開けたが、年金問題や格差社会への批判などで民主党が躍進する。その後、障害者自立支援法の施行、改正介護保険法で予防重視システムなどを構築し、社会福祉士および介護福祉士法は二十年ぶりに改正された。その一方でサブプライムローンの巨額損失で世界経済は大きなダメージを負い、コムスン問題は介護事業への信頼を失墜させた。今日の社会福祉のフィールドである社会経済の深層は、膨大な財政赤字、マネー資本主義の動揺の中で激しく迷走する変動期にあると見られると総括している。特に財政規律が緩む危険性をはらんでいること、政治が混迷していることに警鐘を鳴らしている。また社会福祉分野では各社社会が生み出したネットカフェ難民やワーキングプアなどの貧困問題である。またその一方で働き過ぎによる過労死や自殺などである。
 2008年の展望については、流動化する福祉職場から、尊敬され、期待される福祉職場になれるように。コムスン問題からみる営利や利潤追求から介護保険の不正受給が内容に、福祉の本質〜生存権の尊重をどのような社会福祉事業に置いても守ることが必要であること。そして、分裂社会から社会的包摂をどの様に展開するかを描いている。

インタビュー田村滋「高齢者介護、介護保険制度のこれから」
 2005年の改正から2年が経過して、高齢者介護研究会の田村座長代理に今野状況について聞いているもの。
介護保険外側の問題として、
  1. 財源の地方への移譲によって、地方税の課税最低限度額が変わり介護保険料や補足給付が第2段階から第4段階になるケースが増え、自治体が苦労した。
  2. 個人給付としながらも保険料と補足給付の設定に関しては、世帯単位の考え方が残っていること。
  3. 2012年に介護療養病棟の廃止もあり、住居の整備は最重要改題となっている。
内側の問題として
  1. 生活援助をどの程度まで介護保険として認めるのかという議論
介護事業の運用の問題として
  1. コンプライアンスに関わる問題(コムスン事件)
  2. 介護労働者の不足である。

網野武博「子供を取り巻く環境と児童福祉の方向性」
 子供条約批准後、児童虐待の防止などに関する法律が成立し、それまで親権と公権の狭間で揺れていた子供の最善の利益を保証する体制を公権強化へと転換したことは重要な意味を持つこと。その結果、児童相談所の機能が強化されたが、そのことで過重な業務内容になっていること。また、虐待保護後の家族統合は非常に労力を要する事案としてあり、いまだ制度上十分に機能しているとは言えないのが現状である。また受け入れている児童養護施設も集団指導などで個別に対応する体制が取られていないこと。保育士は、昨今の児童福祉法改正で「保育」というケアワークと共に「保育指導」というソーシャルワーク機能を期待されているが、残念ながら社会的地位は低位に置かれ続けている。
 保育関係では、保育所設置の規制緩和の流れが明確になり、民間事業者の算入が促進され、公立保育所はすでに保育財源の一般化がなされている。認定こども園の創設、幼保一体化、一元化への議論は新たな段階を迎えつつある。

坂本洋一「障害のある人を取り巻く課題と障害者福祉の行方」
 障害者自立支援法が制定されて一年が経過しての検証。自立支援法は、簡単に言って、3障害の制度間格差を解消し、障害福祉サービスなどの実施主体を市町村に一元化し、都道府県がバックアップすることである。その制度の骨格は、先に挙げた一元化の他、利用者本位のサービス体系に再編、就労支援の抜本的強化、支援決定の透明化・明確化、安定的な財源の確保である。
 課題としては、利用者負担について、低所得者に軽減措置があってもなお生活を圧迫すること。障害程度区分については、ADLの指標が重視されており、知的や精神障害者にとって不利な判定になっていること。相談支援体制は、マネジメントを活用した相談体制になっていなかったり戦略性がなかったりするところがあること。地域移行は、行政では動き出しているが、施設の動きが鈍いこと。地域生活を促すためには様々なサポート体制が必要であるが、地域自立支援協議会の設置状況は遅々として進んでいない。

上野谷加代子「地域福祉の現状と課題、方向性」
 地域福祉の主流化が急速に進展してきていることを説明している。武川正吾や岡村繁雄の理論の紹介などは省略。現在の無縁社会に代表されるつながりが希薄な社会への問題提起のあと、地域包括支援センターが十分に機能していないことやネットワーキングが構築されていないことを課題に挙げている。その後、地域福祉の歴史をレビューし、異職種間の連携の重要性を説く。その後社協など地域福祉にかかる職種への提案となっている。

仁科豊「公益法人改革と社会福祉法人制度」
 新公益法人法が2006年に成立し、2008年に実施されることを受け、社会福祉法人がどの様な影響を受けるのかを論じている。あまり興味がないが、理事会や評議委員、などのガバナンスの強化、経営の透明性の向上と自立性・責任の強化、採算性の摂れない公益事業に積極的に関わることが求められるなどである。

石橋真二「日本における介護現場の課題と国際化への対応」
 社会福祉士及び介護福祉士法の改正についての説明。または福祉人材確保指針の説明である。また看護・介護分屋根の外国人労働者の参入などを論じている。

広井良典「社会福祉の未来を考察する」
 論者はかなり有名な学者であるが、彼が出した新書をほとんど読んでいるので省略。簡単に「持続可能な福祉社会」とは何かについて持論を展開している。
2012.1.3

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