2007.7.16 日本社会福祉学会東北部会 第7回研究大会
東北福祉大学 第3分科会 9:00〜9:30
とにかく緊張しました。フキフキ "A^^;

福祉施設利用者と援助者のケアにおける関係性についての一考察
−ケアの理論および倫理を手がかりに−

w学園 kuma(6256)
〔キーワード〕福祉施設,ケア,倫理

1.研究目的
 福祉施設利用者(以下,利用者)と援助者の関係性を考える場合,まず福祉専門職としての望ましい姿勢や視点〜援助者の「あり方」(専門職性)に主眼がおかれる言説が多い.例えば,利用者の視点に立ってとか,パターナリズムに陥らない姿勢を持つことなどである.福祉施設でこうした専門職性が問われる場は,大半の業務を占めるケア行為の中にある.
 さらに福祉施設では,援助者は同一の利用者と長期間ケア関係を取り結ぶことが多い.しばしば指摘される問題としての施設内虐待や不適切対応の原因は,援助者の倫理観が組織によって希薄化していることと,この長期化するケア関係が密接に関わっていることが明らかになっている.よって,ケア行為を遂行する援助者のモラル確立と共に,この福祉施設におけるケア関係の内実を考えることは,援助者の「あり方」と密接に関係する重要な問いである.
 つまり本研究では,ケア関係の内実について考察し,利用者と援助者の関係性の基盤を再確認することを目的にする.

2.研究の視点および方法
 専門的スキルの取得を目指すことは大事であるが,それ以上に,福祉施設では,まずもって日常業務の大半を占めるケアとは何かを知らないといけない.例えば,なぜ見も知らない他者に対しケアをし続けるのか.そのケア行為は,いったい有意義なことなのか.仮に有意義だとして,どうしてそう言い切れるのかを知ることが重要である.それなしに,援助者としての望ましいあり方(専門性)を考えることはできないという視点に立っている.
 研究方法は,文献研究によって,主たるケア理論やケアを扱っている倫理学の学説を概説し,その上でケアの要素とは何かを検索し,その中でも特に,
  1. ケアの相互性とは何か.それはどのような関係の中で生起するのか.
  2. そして1.は援助者や社会にとってどのような意味があるのかに絞って考察する.
 つまり,学説上考えられているケアについての言説が,実際,福祉現場のケア関係の中でどのように機能するかを検証・再確認する.

3.研究結果
 ケア理論研究は,ケアする人・される人という私的領域(在宅・施設など)や職業上の領域(看護・福祉)として登場した.その後,ケアは私的領域の道徳的言説を超えて,関係概念として論じられるようになる.倫理学の一部の領域では,ケアは人々の道徳的「源泉」として社会政策決定の基盤として位置づけようとするところまで議論が及んでいる.
 ケアの要素を考察する上で,本研究では,先行研究の議論を以下のように整理する.
  1. ケアの源泉を宗教・哲学・倫理学の観点から考察したもの,
  2. 1.と密接に関わりながらも,ケアの効用に主眼をおいて論じたもの,
  3. 2.と関連しながらも,主にケアする・受ける人の間にあるシステムに着目したものがあるとした.
 その上で,本研究では,定点として以下のとおりに設定する.
  1. 前提として人は他者との関係性が必要であり,それなしには生きていけない.その意味で,ケアは私的においてもまた社会的(公共的)にも人が人として生きていくためにも重要な要素である。
  2. なぜなら,他者への配慮や良心,いたわる気持ちは同時に自分自身にも向けられる相互性があるがゆえに自己の生を肯定することができ,自己を成長させることができるものである.
  3. ケアは,常に具体的な受け手との直接的な関係の中にある.そして,生の肯定などの2の要素は,展開過程の中〜自他の区別を超えた相互浸透性の中で感得される.
  4. ケアは具体的であるとはいえ,1と2は,その行為を通して,私的領域(個人対個人)に回収されずに社会に開かれていることを教えてくれる.
 1〜4を手がかりに,福祉施設の中で行われるケア行為の内実について考察.その結果,ケアの根本は,人が無条件に生を肯定〜存在の世話をされていることが人を支えること。相互性については,まずもって利用者の要求によってケアの内容が決まるが故に援助者はまず受動的であること。そして、援助者は、利用者の要求を正確に応えるには、いったん自己の同一性を留保しつつ、他者を迎え入れることが重要であることなどが分かる.こうしたケアへ向かう姿勢は,他者を承認し,迎入れ,互いの生を肯定することであり,その意味で他者と社会に開かれた行為であるといえる.
(詳細は,当日資料を配付する)
2007.8.5

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