2007.5
セーフティネットの今を考える

インタビュー
ワーキングプア?働いても働いても生活保護以下の暮らししかできない「働く貧困層」について。現在100万世帯が生活保護を受給しているが、実際には400万近くがその基準になるとされる。働きづくめでのため、研修なども受けれないし、地方で就職が出来なくて上京してきても正規雇用されずに不ルーターで食いつないでいる若者も多い。しかも、地方では働く場の選択肢もなければ、より条件の良い職場に転職することも出来ず、現在の職場で働き続けるしかないという状況にある。
規制緩和、グローバル化による、貧困層と富裕層の格差…言い古された問題なため、以下、割愛。生活保護については、受給資格を得るには、全てをさらけ出さないといけないこと。そして一旦受給されたならば、なかなか抜けられないことなどを述べている。
さらに、日本の若者は、同じくニート問題で悩む諸外国と違って、親の住む実家という戻る場所があるからホームレスにならないことなどを紹介。また、将来的には、年金の保険料を払っていない若者が激増するわけで、払っていなかったから助ける必要はないとはならない。いかに払ってもらうのか。あるいは、医療費や介護保険の個人負担も月数千円から数万円程度になるが、毎月ぎりぎりの生活をしている人にとって、その増加はかなりの負担になること。
自分たちの生活レベルを多少下げても良いから、貧しい人々の生活レベルを底上げしようという決断が必要ではないかとのこと。

六波羅詩朗「生活保護制度改革に向けた論点」
生活保護の基本原理?訴訟権、生活保障、所得保障、憲法25条など。
問題点として、補足性の原理?保護の要件、扶養義務者?絶対・相対の調査、財産の保有の許可などの制限などがスティグマとして働いている。
基本原則?申請主義、急迫保護の場合は、申請によらずに利用可能。金銭給付を原則とする。扶助・加算は、厚労省大臣の定める基準による。細かい規定やプロセスから、行政現場での説明不足などで要保護者に不信感を抱かせている。
動向では、経済の低迷などから1995年をボトムラインとして、保護率は7パーミリから11.9パーミリまで上昇。88万2千人から152万千人、60万2千世帯から108万千世帯と大幅な増加をしている。類型では、高齢者が約44%、傷病・障害者が約38%、母子は9%、その他が10%である。費用では、国が2兆166億円、地方自治が6722億円、そのうち医療扶助が約52%、生活扶助32%、住宅扶助13%となっている。
法改正によりいわゆる社会福祉主事を補助機関として、1951年の社会福祉事業法で統合、さらに福祉事務所を保護の実施機関として位置づける。2000年の改正でも引き継がれた。しかし、地方分権一括法では、それまで保護は機関委任事務であったが、保護の決定・実施は法定受託事務、相談業務に関しては自治事務とされた。また、一括法では、生活保護現業員の定数の規定、選任規則が緩和され、地方自治体の裁量にゆだねられた。
生活保護のあり方専門委員では、自立のあり方では、日常生活の自立、社会生活の自立、就労の自立を進めていくための自立支援プログラムの導入を提起。生業扶助の見直しを通して、高等学校への就学に道を開いた。生活保護世帯の世代間継承の改善策。保護基準の見直し。単身化が進み、一般世帯低所得者との近郊を踏まえた生活扶助基準の見直し。中間報告では、老齢加算の廃止が明示、最終報告では、母子加算の廃止が提起された。資産運用に関しても一律的な判断に警鐘を鳴らしている。
問題点として、従来いわれている窓口の強圧的な態度、専門性が低いこと。加算?老齢加算は、もともと無拠出の老齢年金から派生したもので、高度成長期における年金引き上げによって説明がつかなくなってしまっている。高齢者の生活需要は改めて日常生活の自立という視点から再検討が必要である。医療扶助は、生活保護受給者が国保に加入できない、指定医療機関でしか受診できない、通院のたびに原則医療券が必要であるなど多くの問題がある。

大森正博「我が国の社会保障制度の特徴と課題」
ワーキングプアなど新しい貧困についてのレビュー。社会保障の仕組み?社会保険の原理リスクと給付についての説明。つまり、誰もが社会生活上のなんらかのリスクを持つが故に、保険に加入する。事前的には皆がリスクを持っていることを認識し、事後的にはリスクが実現しなかったものが、リスクを実現したものを助ける仕組み。また、保険は、保険者と被保険者(加入者)の間の契約という仕組みを持っており、被保険者にとっては、契約上の当然の権利として給付を受けることが出来る。さらに社会保険は、所属している社会集団で強制加入させるという性格がある。介護保険も同様である。
しかし、社会保険の原理では、リスクの高い人が少ないほど安定的に運営できるから、社会情勢として、高齢化→リスクの高い人が増えるほどに、保険料は増えていかないといけない。また、失業、若年の社会保険への未加入などから、社会保険における最低生活保障の網をすり抜け、生活保護制度に依存する人を増大させる危険をはらんでいる。今後、ラスト・リゾート(最後の手段)である、生活保護の更なる充実と改革を期待せずにはいられない。

その他、レポートでは、現代の貧困?バイク便ライダーの相談、貧困とは5重の排除?1,教育課程、2,企業福祉、3,家族福祉、4,公的福祉、5,自分自身を定義。自立支援プログラムの実践。若者の自立・就業支援の実践報告であった。

関連として、論点として杉村宏「格差社会における社会福祉の役割」(上)で、ジニ指数、所得上位者25%がGDPの75%を占めていること。貯蓄保有世帯平均額が年々増加しているのに、貯蓄残高0円世帯が、1972年に3.2%だったのに対し、2002年には23.8%まで激増している。許容できない不平等が拡大していることなどを明らかにしている。あと、センの潜在能力などに触れて貧困の定義について言及している。
2007.10.8

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