2007.12
福祉事業者のコンプライアンス

座談会「福祉事業者のコンプライアンスを問う」
コンプライアンスとは、法令の趣旨や目的をきちんと理解してそれに沿った行動をすること。企業経営ではコンプライアンスの仕組みを作り確実に実行することは、リスク管理上の最大の防御となる。
 福祉事業者は公益性が高く利用者がいわゆる社会的弱者という立場にあるから、社会からの期待値は事情に高い。それだけに事業者がコンプライアンス違反を犯すと一般の企業以上に社会的信頼を失うリスクが大きくなる。逆に言うと、質の高いサービスが提供できているところはコンプライアンスもきちんと出来ている。
 民間企業でも創業者の精神が事業体の成長に合わせて企業理念というかたちになる。コンプライアンスを組織に浸透させるとき、経営者は企業理念を具体化させるために事業活動を位置づけ、その精神を社員の行動規範に落とす。これにより、企業理念によって企業活動に一本筋が通る。そういうのがないと、単に法令を守れと行っても事業体として一つの方向を向くことは困難である。
 企業では一事業所などで不祥事があった場合に会社全体の責任となるのが当然で、役員の進退問題に直結することもあるが、社会福祉法人は施設単位の問題という意識が強い。その責任の所在が曖昧な点は企業との大きな違いである。
 告発に関しては、企業では2006年5月に会社法が施行され、内部統制システム整備義務が明記され、コンプライアンス体制やリスク管理体制の基本方針を役員会で定め、具体的に取り組んでいる。さらに内部通報の仕組みは2006年4月に公益通報者保護法が整備され、自浄作用を強化している。通報者への不利益取り扱いを禁止し、通報者の匿名性を守りながら事実関係を調査し是正する仕組み。この点が福祉法人がある苦情解決委員会と違って徹底している。
 内部告発に関しては、高齢者虐待法があるものの実際には外部からの通報は困難であるし、職員も自分の職をかけてでないと通報できないという状況がある。福祉事業者は職員が発言しやすい雰囲気を作り、得られた情報をリスクマネジメントにつなげる環境を作る必要がある。

平田厚「福祉事業者のコンプライアンスとは」
 そもそもコンプライアンスを法令遵守と捉えると、それは当たり前のことであり、声高に言う必要がない。しかし、法令遵守にとどまらず、企業倫理や倫理遵守あるいは社会的責任も含めて捉えることも可能だが、営利企業が利益追求を度外視して社会的責任を積極的に説くはずがない。社会的責任を問われて利益追求が阻害されないようにという消極的な姿勢しかない。したがって営利企業にとって倫理を追究することは副次的あるいは二次的な目的にとどまらざるを得ない。
 福祉事業は経済的合理性よりも個人の尊厳を重視するべきであるため、自由競争にゆだねるべきではない。だからこそ苦情解決など他律的な公的制度が存在している。そうすると福祉事業者のコンプライアンスとは、必然的に倫理遵守でなければならない。とすれば、個人の尊厳を実現することこそが指導的倫理となる。
 従来の福祉事業では、自律的な法令遵守体制の構築に対する期待が薄く、福祉事業は徹底した公的監督の下に置かれていた。しかし、措置から契約へと福祉サービス提供体制の転換と共に事業者の主体性・積極性が大きく打ち出されている。よって自律的な法令遵守体制が求められていると言える。

本田親彦他「福祉事業者のコンプライアンス管理の実際と留意点」
 コーポレートガバナンス体制の整備について、内部牽制の仕組みやその他の監視によってコンプライアンスを維持しながら、事業を遂行する体制を言う。
 そのためには、
 組織体制の整備?人的体制(理事会の運用など)、諸規定の整備(定義など)、業務分掌・職務権限(複数の担当者による相互の牽制など)、行動指針、コンピュータ化への対応、業務処理マニュアルの制定などが必要である。
 組織の運用?経営者の意思伝達、監視(モニタリング)が必要である。
中でも、透明性の維持が大切であり、外部に対するものと組織内部における透明性両面が必要である。
 理事会や理事の組織が十分に活かされていないのが社会福祉法人の特徴であり、今後、コンプライアンスを機能させるためには、理事会などのコントロールが必要である。

古畑英雄「苦情対応(解決)事例に見る福祉事業者の課題」
 利用者の日常的不満を受け止める施政・体制の大切さと言うことで、福祉サービス運営適正化委員会苦情解決委員会の取り組みについての紹介。
 運営適正化委員会は、社会福祉法に基づき、2000年から各都道府県の社協の中に設置されている第三者機関であり、事業者と当事者の話し合いにおける解決を目指すと共に、社協が実施している地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)の運営を監視している。苦情に関しては、最後の申立機関となる。
 内容として、サービスの質や量、説明・情報提供が多く、相談者は、障害者は本人、高齢者・児童は家族が多い。
 事例に関しては、金銭の管理を事業者が全部行っており、利用者に任せない理由に、浪費や生活の乱れなどが心配されるという配慮に基づく物であった。しかし、過ぎたるは及ばざるがごとしのように、行きすぎた保護はかえって本人の尊厳に反することに配慮しないといけない。施設が管理するよりも成年後見制度の活用によりワンクッションを置くなどの手だてが可能であると結んでいる。

関川芳孝「コムスン事件が問うているもの
 いうまでもなく介護報酬の不正請求および虚偽の事実に基づく指定取得など介護保険法の不正行為を理由に、訪問介護事業者コムスンに対し新規の指定と更新を2011年12月まで行わないように各都道府県に通知。親会社であるグットウィルは、コムスンなどが経営していた全国の事業所を譲渡し、介護事業から撤退せざるを得なくなった。
 これは介護保険に対する信頼を失墜させた事件であり、社会福祉法人を含む事業者のコンプライアンスの在り方、さらには事業者規制の在り方が問い直されている。
 これから得られる教訓は、経営トップが不正行為をしてでも利益を上げることを第一と考え行動するように求めると、内部のチェック機能は働かず、組織存続にとって致命的となるような不正行為すら防止できないと言うことであろう。またこうしたことは社会福祉法人の経営においてもワンマン経営の弊害として無関係なことではない。
 また、シェア拡大・利益確保のためには不正行為があってもかまわないという悪徳業者の参入を認めてしまった以上に、社会福祉法人側の方で、民間企業の経営手法をまねないと生き残れないという強迫観念が広がっている点にある。パート雇用の拡充、人事考課、利用者の稼働率への目の色を変える…、利用者の暮らしの悩みと直接向き合い、共に苦悩しながら福祉実践に関わる経営者が淘汰されるような制度構造となっていないかの検証が必要である。
2007.11.23

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