2006.7
自立を支援するということ

京極高宣「今、求められている自立支援」
我が国の社会福祉は長い年月にわたって、自立支援よりも保護・救済が、在宅よりも施設が、連携ではなく単体が重視されてきた。
自立支援は、目標概念
であり、人々が自立生活を目指す上で様々な人々が支援する互助や公的なサポートを求める。一方、自助は、公助、共助と並んで、いわば手段概念を指す。
施設型福祉は最終的な手段として否定できないが、可能性をつみ取ってしまう傾向も否定できない。やはり、自立を目標概念として、在宅福祉を推進した方がよい。自立支援、在宅福祉、保健・医療・福祉の連携、地域の支え合いが自立支援を基本理念として明確に据えたとき、必然的に連続的に生じる物といえる。
自立というのは個に注目した視点
であり、現在英訳すればindependenceだが。自立支援はempowermentが適切である。一方、連帯というのは個を含めた社会環境のあり方を指し、現在世界各地で広まっている、Social Inclusion政策が合致する。様々なニーズを有する「個」→「自立支援」とそれを支える「社会」→「社会連帯」の双方の観点が非常に重要となる。
自立の概念が明文化されたのは、介護保険
である。これは、従来の介護システムにおいては、高齢者を介護を受ける側でしかなかった。しかし、介護保険では、高齢者は介護給付を受ける側であると同時に、保険料を負担するという支える側として明確に位置づけられた。そして、自立の定義が自立支援法によって明記され、さらに児童福祉法や身体障害者福祉法にも規定がはいるようになる。措置は、個が行政に対して保護される権利を主張し、行政がそれを認めるという物であった。しかし、自立支援は、個が地域生活を選択し、社会連帯によって国、自治体、地域の社会資源が連携し、福祉サービスを提供していくことになる。さらに、就労支援でも逆に保護よりも高額になる可能性がある。しかし、稼ぎ納税して貰うことで支え手に回る方が経済面から考えてもプラスになるのではないか。
少子高齢化に伴って、すべての社会福祉に対して行政が公費のみを財源として行うことは不可能であり、地域の中で支え合う「地域福祉システムの構築」が21世紀の最大課題になっている。社会福祉法人は今までのように行政措置の受け皿だけではなく、社協と協力し合って地域社会に積極的に貢献していく姿勢が求められている。

杉岡直人「地域に求められる自立支援の福祉力」

地域トータルケアシステムの論理
は、置かれた状況に対して、個別、継続的、自立支援、地方自治体の主導、ネットワークの整備と言ったキーワードに見られるように、地域福祉サービス体系と軌を一にしている。〜英国のコミュニティケア政策〜シーボーム報告による政府の計画や供給からの脱却、NPOの活用などと同じ流れである。
自立支援とセットの概念は、ソーシャル・ガバナンス
である〜集団や社会の新たな統治機能を説明する概念である。脱支配や脱権力に基づく合意と決定のプロセスを保障する物。福祉では、利用者を消費者と位置づけたり、利用者中心主義などである。
個人のニーズをトータルに福祉サービスだけに当てはめず、それ以外の生活の質をも考慮した取り組みが求められている。専門機関と専門職によって張り巡らされたネットワークとインフォーマルケアが有機的に結びつく必要がある。また、地域での継続的な活動が保障される必要があり、地域住民の意識の向上も求められている。
ただ見失ってならないのは、自立支援とはあらゆるサポートを保障する物ではない。同時に自立を協調する物でもないと言うことでもない。コミュニティの中で生活する上で期待されるほどよい自立を目指すというメッセージに象徴されているように、共生社会の実現を目標とする物である。

伊藤一三「若者の自立を支える“若者自立塾"」

ニートとは
2000年頃イギリスのブレア政権の中で社会問題化した。若者達が仕事をしない、学ばない、職業訓練も受けていない状態、あるいはそういう若者達のことを単語を繋げて表している。Not in Employment,Education,or Training.さらに、これはEU各国でも深刻な問題となっている。
日本において
は、ニートは15〜34歳とされ、内閣では85万人、厚労省では64万人とされる。年代全体の2%を占める。さらにフリーターは213万人を超えており、一歩間違えばニートに転ぶ危険性がある。ニートの発生は端的に、成熟型社会においてみられ、発展途上にある東南アジアでは社会問題としてニート問題は発生していない。
分類のしかたも多様であるが、真性ニートとは引きこもり状態を指す。
厚労省では、2005年から雇用政策の一貫として若年無業者(ニートのすべてではない)を対象としたいわゆる若者自立塾を立ち上げている。目的は、ニートに3ヶ月の合宿訓練を通じ、コミュニケーション能力をベースとした社会的適応能力や対人関係構築能力を獲得させ、最終的には就労意欲を持たせて就職支援をするという物である。
その他の条件として、合宿訓練には20人の塾生を確保することや塾を卒業した人達の7割を、6ヶ月以内に就労させることがある。
団塊の世代が引退し、ニートが増殖すれば、日本の産業力が低下し、結果として国際競争力の弱体化が危惧される。今まで学歴偏重でありすぎたために、働くことの意味や大切さが等閑視されてきた。

新保美香「生活保護制度と自立支援」
 2003年生活保護制度の見直しが行われた。2004年12月には報告書にして発表した。課題は、
1.生活保護基準のあり方
2004年4月に老齢加算の段階的廃止、2005年4月には母子加算の段階的削除、生活扶助第1類費の多人数世帯に於ける逓減率の実施、生業扶助にこうという学校就学費を創設するなど、近年になかった改革が行われた。
2.生活保護制度・運用のあり方と自立支援
2005年より専門委員会で取り上げられた自立支援プログラムを自治体毎に実施することとなった。
3.制度の実施体制である。
専門委員会は財源の確保を行い、担当職員の専門性の確保と共に組織的な取り組みを行うことの必要性を述べた。

 生活保護費に関しては、国(国庫負担)と地方自治体の割合を巡って激しい議論になる。国庫負担の割合は現行通りであるが、生活保護の適正かにについて地方は真摯に取り組むこと。適正化の効果が上がらない場合は、必要な改革を検討し実施すると確認書を取り交わしている。

自立支援プログラムの導入、スプリングボードとしての制度利用を掲げる。自立支援とは、日常生活自立、社会生活自立、就労自立の三つであり、ともすれば生活保護の脱却=就労と結びついていたが、利用世帯が高齢、傷病、母子など就労が無理なケースがほとんどである。就労指導という行政処分ではなく、あくまでも支援である。

西原雄次郎「障害者自立支援法と知的障害者の自立支援」

地域住民の根強い偏見も健在である。

2006.10.10

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