2004.8
家族の本質と課題

袖井孝子「家族の本質的機能とその衰退」
高度成長期以前、家族は生産の単位であり、家族内にたくさんの労働力を蓄えることが生産性の向上に結びついてきた。しかし、1960年以降、雇用されて働く労働者が増加するに付けて、家族は消費の単位となった。専業主婦が増加し、性別役割分業の核家族が平均的な家族像であると定着した。1980年代には、有職主婦が無職主婦を上回るようになり、介護が困難になってきた。また、1980年代まで皆婚社会と言われ9割が生涯に一度は結婚をしていたが、以後、未婚化晩婚化が進行するようになる。家族の要求を充足されるよりも自己実現を優先させたい願望が強まり、家族のために自己犠牲を払うという気持ちは急速に衰退していった。
家族の機能には対社会的な機能(法律的に結婚をした夫婦間に限定した性的秩序、子どもへの社会伝統などの教育、経済秩序など)と対個人的機能(食欲、性欲、安心と安全)があり、我が国では対個人が強化され、対社会が弱体化した。対社会の弱体は教育機能、介護機能など外部の機関−専門機関に依存するようになる。家族機能の外部化が進行する今日、最後に残るのは、子どもの基礎的な社会化と成人のパーソナリティの安定である。前者は親子関係、後者は夫婦関係において充足される。そして、最後の機能はケア機能である。ケアは面倒を見るとか世話をするとかの手段的な意味合いもあるが、思いやる配慮するなど情緒的な側面を持っている。しかし、このケア機能も家族規模の縮小と構造の単純化は担う人を少なくさせている。よって、この機能ですら、専門機関に頼らざるを得ない。

平田厚「家族・法・福祉」
なぜ一定の親族関係にある者が扶養義務を負わないといけないのか。社会的状況の変動によって扶養義務の内容も変化すべきなのか。国家が福祉行政・生活保護行政を実行することは家族による扶養義務とどのような関係にあるのか。家族裁判所を中心とする司法機構は家族の扶養義務にどこまで介入すべきか。などに関する説明が必ずしも十分になされてこなかった。これらの問題点が必ずしも自明でないところに現代の混迷がある。従来の高度成長を目指した価値観の一体化こそが家族の存在を自明のものとし、立身出世主義、良妻賢母思想の下あまりにも家族を自明視した。そのため、子どもの人権や女性の人権が軽視されてきた。
扶養義務において、近親者による扶養と家族間の扶養の違いは、国家が存在しようが、しまいが、家族は自らの意思で共同生活関係を形成するのであり、そのような共同生活関係を引き受ける意思があった以上、夫婦・親子という最小の家族ユニットにおける責任は、「血のつながり」や「同じ釜の飯を食った」などとは質が異なる市民法原理上の責任である。
法が家族保護法として機能するためには4つの機能がある。

特に4のような家族機能が外部化できない部分とそれ以外を明確に区別し、新たな家族像を形成しないといけない。家族の家族員の責任については、自由意思に基づく引受責任の有無によって区別する。法的に強制できるのは、経済的監護に対応する経済的支援で、立て替え払いされた費用の支払い義務として責任を負うと整理するのが妥当である。
家族の過度の負担を避けるよう社会的連帯による支えを求めようとする側面と、家族が家族員に対する責任を全うするよう追求するという側面との互いに矛盾する危険性もある二重の役割を担うべきだろう。

平木典子「家族の病理とその理解」
家族療法では、家族を生態システムの一部と見なし、家族は家族メンバーを含めて家族を取り巻く様々なシステムとの相互作用の中に存在すると考える。そのような見方からすると、ある家族メンバーの問題や症状はその人の病理といえないこともないが、同時にその人を取り巻く他のシステムの病理をたまたまその人が表現しているとも考えられる。
したがって、家族療法ではたまたま患者となった人、あるいは患者と呼ばれる人を要することになった家族は、好むと好まざるとに関わらず、症状や問題を抱えて、解決の方策が見つからぬまま大きな困難や苦悩を感じている場合が多い。そのような状況を理解し、何らかの変化の方法を提供しようとするのが家族療法である。
健康な家族
とは、特に日本では、家族メンバー間の心理的距離が近く、凝集性が高いこと。さらに、夫婦関係や父親の家族への関わりが強く、明確なコミュニケーションがあること。そして、個別性と相互性が尊重されることである。
家族の病理とは、健康な家族像から逸脱(機能不全)したものである。何らかの理由で家族の適応力、問題対応力が疲弊したり、家族メンバーの相互交流パターンが慢性的に固定して、メンバーの行動の選択肢がごく限られたりする結果、メンバーが症状や問題を示すことと考えることが出来る。

才村純「現代における家族問題と法制度の改正」
児童虐待防止法−児童虐待防止に関する法律(DV法)について。
ポイント

DV法の改正
改正法には、配偶者暴力の定義に、身体的暴力のみならず、心理的虐待、離婚後も暴力を振るう元配偶者を保護命令制度の対象とすること、接近禁止の対象者を被害者のみならず、一緒にいる子どもにも拡大すること、退去命令の期限を現行法の2週間から2ヶ月に延長、配偶者暴力相談センターの業務を市町村まで広げること、暴力の防止や被害者の保護のための施策について、国による基本方針、都道府県による基本計画の策定を義務づけることなどが盛り込まれている。
乳幼児を伴って婦人相談所に一時保護された被害者が心理療法などを受けれられる陽にすると共に、同伴した乳幼児の対応を行う指導員を配置することとしている。
2006.8.7

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