2004.4
青少年の育ち?その現状と課題?

山崎晃資「現代の青少年の行動心理と社会病理について」
 急激に進む少子化?1989年の1.57ショックから2002年の1.32へ。晩婚化、離婚率の上昇、不登校から自殺願望まで子供の心の問題が多様化し・低年齢化する傾向にある。ちかごろの若いのはという大人の嘆きは、5000年以上も前に既に洞窟の壁に彫り込まれていたし、法隆寺の天井の梁にも刻み込まれていた。特に、本論では、子供同士のふれあいのなかから体得すべき「暗黙のルール」を習得していないようにみえるとのこと。従来の児童精神医学の考え方では理解しがたいケースとして、1.復讐を誓うこども、2.死を求める子供、3.きれる子供などである。
 親にとって子供はわかりにくくなっている。わかりにくい子供に迎合し、あたかも物わかりの良い親を演じ、どちらが子供をより理解しているかを父母が競い合っているようなものである。子供達は、この辺の事情を良くわかっている。不登校の子供を担当しているあるカウンセラーが「あなたの苦しみは良くわかる」といった途端に、「俺の苦しみを、損な簡単にわかられてたまるか」と怒鳴られたという。提案として、1.自分自身の人生をきちんと生きていくことを決心して欲しい。2.子育てとは、自分自身の子供時代を行き直すことであることを明記してもらいたい。3.子供の復元力、エネルギーを信じることが大切である。

高橋祥友「青少年の自殺とその防止に向けて」
1997年まで自殺者は2万2千人位だったが、1998年には一万人以上も増加。それ以後、3万人台を維持。交通事故は2003年には9000人を切っている。また未遂者は少なく見積もっても10倍に上る。さらに自殺未遂や既遂が一件起きると、強い絆のあった人最低5人が心理的打撃を被る。自殺予防は、プリベンション(原因の除去や正しい知識の普及で自殺を未然に防ぐ)、インターベンション(今まさに起きつつある自殺行為に対して適切に介入する)、ポストベンション(自殺が起きてしまったときに残された人々に対して適切なケアを実施する)日本においては、インターベンションが主で、他は全く取り組まれていないのが現状である。プリベンションは、寝た子を起こすことになりかねないことで忌避される傾向にある。では、せめてポストベンションで、いわゆる後追い自殺の防止、残された遺族のその後の精神的安定化は必要ではないだろうか。特に児童期の他者の自殺は心理的な動揺が強い。しかし、校長の訓話ですまされたりする。より綿密にケアをする必要があると言える。

立石一信「不登校の現状と考察」
不登校といっても原因は多様にあるし、タイプもケースもまた多様である。一概に言うことは出来ない。その中から中心的なのは学級での人間関係につまずいて、行き渋りから不登校になるケースが一番多い。とはいえ、子供だけの問題ではなく、家庭環境や親自身に問題があるケースも多々ある。地域との関係では、1.不登校は現代に至るまで約40年間、上衣10の自治体は変動していない。首都圏と100万都市を含む都道府県である。2.地方都市の発現数の増加が全国のを押し上げ、かつ政令都市内の行政区にも発現率に大差がみられる。3.学校や学区によって発現率が違い、しかも発現地域が移動している。4.小学校の不登校が増加している。5.離婚率の高い地域は不登校も高い。6.不登校は短期間に人口増減がみられた地域または校区に顕著であった。7.不登校は都市部、農村部、その他に関係なく広く発現している。

田中和彦「青少年の各種依存症の現状とその克服に向けて」
何かに「はまる」行動が習慣化して、暴走して、コントロールの出来ない状況を「嗜癖」とよぶことが多い。こうした状況に陥ると感情や生き方そのものが空虚感に支配され、嗜癖行動の一瞬だけ気分がリラックスすると行った極端な悪循環に陥る。3つのタイプがあり、一つが薬物依存などの「物質嗜癖」、買い物依存など行為過程が習慣化する「過程嗜癖」、嗜癖者の尻ぬぐいする関係にはまっている(共依存関係)の関係嗜癖の3つに分けられる。とはいえ、これらの3つは複雑にあるいは複数にまたがっていることが多い。多くの嗜癖にみられるのは、「灰色の自己」と「バラ色の自己」という極端な二面性である。青少年期は限界が見え出す時期であり、また自己同一性の揺らぎを体験する時期である。この二面性は常に青年期の課題である。

このほか
中光雅紀「引きこもりの心理と克服の視座」
田中俊英「暴力のない群れは可能か」
原俊明「青少年を巡る性非行の現状とその防止に向けて」
石井小夜子「司法にみる青少年の行動分析と課題」
橋本良明「コミュニケーション・メディアの変化と青少年の心理・行動」
清川輝基「メディアリテラシーの普及とメディア漬け生活に関する提言」
森田明美「一〇代で出産した母親達の子育て」
山下英三郎「今日の青少年問題に対する福祉関係者への期待」

個人の病理として片づけるのではなく、生活環境?広く社会の変容も視野に入れた取り組みが求められると言える。
2010.8.11

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