2003.6
DV対策を巡る現状と課題

対談
 配偶者暴力防止法2001年施行の背景について。1995年の北京で行われた「第4回:世界女性会議」がバックボーンにある。とはいえ、この法律は表題の通り、男性から受ける女性の暴力だけではなく、その逆もあり得ることである。とはいえ、前文に「被害者の多くの場合は女性である」と書かれていることである。また、この法律は日本国籍を持たないで日本に居住している人も対象になるという点。実際日本国籍を持たない方で、日本人と結婚している方々の被害はとても深刻である。昔は、夫婦喧嘩は犬をも食わぬだったが、なかには大変な権利の侵害になっているケースも隠されていたわけで、この法律が出来て一気に表に出てきたことが大きな成果である。また警察や医師(第一発見者になりやすい)との連携あるいは法律の周知徹底でかなり効果が出てきている。
 また保護命令(6ヶ月間の接近禁止と2週間の住居からの退去)が盛り込まれた。これは加害者が元々住んでいる自分の家にずっと居続けるのに、どうして被害者が子供を連れて逃げ回らないと行けないのかという点が非常に不平等であったため。制度的には、その後、新たに配偶者暴力相談支援センターが設立。99.6%が女性からの相談。また保護施設はあることあるが、平均2週間しかいられないこと、他の福祉領域の施設に比べて古く、財源的にも脆弱であり運営は大変である。その間に体と心を癒し、さらに自立するために働くような環境を整えることは出来ず、結局、暴力の嵐に戻っていく人達が多すぎる。もっとゆっくりと考え、癒し、元気になるには2週間では短すぎる。また暴力について、夫から妻だけではなく、夫から子供、あるいは妻が子に、夫が妻と子にというパターンもある。子供のトラウマや心的な消耗は考えられる。子供の問題は児童虐待防止法が直前に出来ているが、それでカバー出来るとして、配偶者暴力防止訪から切り離されてしまった。よって現場の運用面では困っている部分があるのが現状と言える。
離婚まで心理的暴力は振るっていたけれど、離婚を申し出た途端に身体的暴力に及ぼすようになる。これは日本だけではなく、外国でも見られるケースである。突然離婚が成立し、離婚届が出た後から身体的暴力が振るわれると、保護命令が適用されない。であるから、もと夫を対象に含めないと行けない。元夫は刑法で裁かれるにしろ、女性のシェルターが必要であり、離婚の場合はシェルターにはいることが出来ない。
 PTSDについて、警察は身体的な暴力に限って捉えられているが、精神的暴力は肉体的なものよりもひどい傷を負う場合がある。10年の暴力に絶えていると、自分を失っている場合が多く、本当に人権侵害であると思う。とはいえ、暴力の関係性に陥っていても自分が悪いとかで気付いていない場合もある。
 加害者の再犯防止策を盛り込んでみてはどうかとの意見に、もし今野この法律に馴染まないのであれば別の法体系に盛り込んでも良いのではないか。条件整備を勧めていくことも大切ではないかとの意見であった。
子供のときから人権や人格の尊重あるいは暴力とは何かなどの教育?具体的な行動面から教えるようなカリキュラムがあっても良いと思われる。
体制が整備されていないところでは被害者が駆け込まない。そうした整備を広域で捉え直すことが大切である。また、民間の方々の研究は、シェルターを運営しながら事例を記述することから始まっている。これは日本だけではなく、世界中でもそうである。今後実証的な研究も進めていかないと行けない。

他レポート6本

戒能民江「DV被害者の安全と人権を尊重する対応を行うために」
 スウェーデンでは、DVの本質を見事に反映したDV罪を規定した。犯罪名は「女性の平和侵害罪」DVとは、社会が男性に許容した暴力による人格の等号税の破壊であり、まさに人間の尊厳の問題なのだ。だからこそ、社会の無理解の中、孤立無援で暴力を生き延び、援助を求めてきた女性や子供への敬意の念と人権の自立の尊重こそが、援助に当たるものの基本姿勢でなければならない。
 関係者に望みたいのは、仕事だからと肩肘を張らないで頂きたいと言うことである。あなたの目の前にいる女性はあなたと同じ人間。あなた自身が社会の矛盾を感じ、自分の誇りが傷つけられていることと目の前の女性とは別問題だと思っているなら、援助は容易に差別に転化する。真に被害者のために求められるのは、理解不能や偏見を改めること。そしてどっちもどっちだ、哀れな人達と、ふと思っている姿に援助者が気が付くことが重要であり、そこから援助が始まる。
2010.8.11

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