2003.2
高齢者の住宅問題と福祉

鈴木晃「福祉における住宅あるいは居住の意義と福祉職固有の役割」
 90年代以降「(施設ケアへの)つなぎの在宅ケア」から「在宅を目指す在宅ケア」への転換が図られた。かつては低所得者への住宅提供など事後保障的な物から本来の役割である住宅政策の予防性に改めて注目する必要がある。つまり原理的にはこれまでとりあえず居住の保障という空間的な問題から、居住空間からでて居住歴・地域とのつながりとしての蓄積・将来展望など時間軸のなかで記述される必要がある。
 地域で暮らし続けるための改善は技術や制度的なことだけではなく「改善を実行する居住者の主体形成」も大きい。そして、ADLの自立度は居住環境(物理性や時間性など)の適切性(浴槽の高さ・歩行の範囲と身体レベルによる補強、生活条件等々)によって非常に左右される。この住環境を整える ことは直接的・間接的自立支援にあたる。
 このように障害が発生した時にその障害を補う個別的な対応(直接的)と健康や安全の保障という大きな保障(間接的)の二つの側面がある。
 福祉職の役割として専門職が必要とする判断と本人が感じ取れる必要性の双方に耳を傾け調整し、現実的な対策を提供すると共に、福祉職が社会的対応に向けて弁護的機能を担う必要がある。
 現在住み手と作り手が乖離しており、住み手から生活を直接学ぶ機会が作り手には無くなってきている。だからこそ、居住後の住み手の問題を作り手にフィードバックする役割を保険や福祉に携わる専門職が果たさないと、日本の住まいは良くならないだろう。

園田真理子「高齢者の今日中の安定確保に向けて」
 「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(2001年4月6日公布)についての概説などを行っている。
 高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化
 民間賃貸住宅市場は高齢者の入居を敬遠する傾向がある。身体的変化・身元保証・経済状態への不安などである。そのため「高齢者世帯の入居を拒まない賃貸住宅の登録・閲覧制度」と「登録住宅の対象とした滞納家賃の債務保証制度」の創設。
 高齢者向け優良賃貸住宅の供給促進
 バリアフリーの改修に対する作り手と住み手の家賃軽減のための双方の補助制度。それによる入居者の所得制限の撤廃など。この制度は功を奏してい る。
 終身建物賃貸借権の確立
 有料老人ホームでは入居金と月々の別途の管理費など利用料を払う物が多い。しかし、この利用権を根拠づける法律は何もなく、入退居や契約解除の際にトラブルになっていた。そこで、借家人が生きている限り存続し死亡した時点で終了する終身建物賃貸借制度が創設された。相続性を排除し、借家人本人一代限りとする借家契約である。
 特別な融資制度による高齢者の持ち家のバリアフリー化支援
 設備設置のための改造工事は10%にも満たしていないのが現状である。高齢者の収入のなさも起因している。

小椋利文「高齢者の環境整備における現代的課題」
 介護保険において住宅改修がサービス(支給対象)として位置づけられたことは大きい。この思想的流れとして大量生産から適正生産(マスから個別重視)。使い捨て製品から長持ち生産。物作りはサービスへ。中央集権から地方分権へ。そして規制から市場重視へである。
 その中でも住宅改修がケアマネのニーズ評価に基づき、サービスの一つとして提供される意味について。住宅の改変という建築的行為についても物を作ること自体を目的とする考え方から、物がどの様に機能し、ここの高齢者をどう支援するのか、すなわちサービスするのかといった考え方への転換である。
 しかし住宅改修の割合は10%程度であり潜在的に必要とする人を掬い切れていない。また高齢者が自らの身体低下を認めたくないとか家に手を加えることに抵抗感があるとも言える。またメディアでの悪徳業者への警告なども心理的に作用していると言える。また苦情・相談では契約というプロセスに起因する苦情が圧倒的の多い。
 介護保険はマネジメントという発想であるが、建築そのものが、大工・設備・電気など様々な分野の専門職人と複合的な工程を管理するマネジメントの世界であって、専門職の連携と一口で言ってもなかなか簡単にいかないのが現状である。マーケットが主導する高度なサービスか社会のなかで適切なサービスを実施していくためには既存の考え方を越えていかなければならない。

山崎敏「集合住宅における居住の高齢化と福祉対応の課題」
 近年の高齢化で集合住宅に暮らす人達が高齢化していること。集合住宅によってはエレベーターが無く両手に荷物を抱えた高齢女性が自分の部屋まで上れないことなどがある。またマンションは防犯性や防音性にすぐれているが、逆に外部からはうかがい知れない閉鎖性やコミュニケーションの簡便性に欠け閉じこもりが危惧される。
 解決策として、既存集合住宅に痴呆性高齢者グループホームを組み込む。異なった機能の導入による生活支援(例えば一階にコンビニ・ディサービスなどを設置する)。エレベーターを設置することの補助制度。ミニバスの運行など高齢者に適した周辺交通システムの整備などである。

このほか
中祐一郎「個人住宅グループホーム転用の課題」
「福祉機器利用と住環境整備は一体」の論文あり。
このほかレポート2本


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