2003.1
少子化対策

高橋重郷「少子化の現状と将来展望」
そもそも人口が減りも増えもしない状態を維持する出生率は3.08であったが、現在は1.33と低迷し、この数字は親世代に対して子供世代の人口規模が65%程度にしか再生産されないことを意味する。
戦後の日本の出生率はおよそ三つの段階があった。第一段階は1947年から1949年のベビーブーム後の急激な出生率低下で出生率が4から2の水準に低下した。次が1950年代半ばから1970年代の半ばまでの2の水準である。そして第三段階は1974年から現在に至る時期である。これまでの人口置き換え水準から割り込み、潜在的に人口規模の縮小を導く水準である。この状態は、程度の差はあれども先進国ではほぼ共通してみられる現象である。
後は人口動態の統計的な話であった。つまり、この原因は未婚率の上昇に伴うことであると。そして、生涯未婚率(50歳時未婚率)も1985年生まれでは16.8%と予測している。これは、1950年生まれの人が4.9%であるのに対して大きな数値であると言える。また、晩婚化は生涯に産む子供の数(平均完結出生児童数)を決定的に減少させる。夫婦出生力低下である。
一貫就業女性の増加による出生数の減少など当たり前といえば当たり前である。高齢化の進展によって、潜在的な女性労働力への需要は今後ますます高まっていくと考えるが、仕事と出産・子育ての両立できる整備、特に企業社会における女性の雇用慣行を替えなければ、より少子化圧力が高まることになり、出生率低下が促進されることになりかねない。

座談会
2003年に「少子化対策プラスワン」というものが厚労省から出されている。カップルの子供の数が減るというのはイレギュラーな状況であると厚労省は捉えているが…
若い世代の親離れ、保育サービスの充実だけではいけない、男性の子育て参画、年金給付の面で老人に政策がよりすぎているのではないかとか。「プラスワン」では男性を含めた働き方の見直し(男性の育児休暇を5日間取る。あるいは10%の取得率をめざす)、地域のおける子育て支援(子育て支援相談員の設置とか)、社会保障における次世代支援(奨学金を年金制度で出来ないかなど)、子供の社会性や自立の促進という4つの柱を用意している。
記者の立場の人で、少子化は戦後の日本社会が復興から高度経済成長へとがむしゃらに走ってきたなかで置き去りにされた問題のひとつ。経済最優先で走ってきた社会のあり方がもたらした結果である。政治や行政の世界で、産業界で、経済成長率や景気指数が落ちれば大騒ぎする人がいるが、出生率が落ち続けても問題の根っこを直視しようとする人が少なかったといえる。社会保障費は高齢者に対しては67%なのに、子供に対しては3%であるという格差。エンゼルプランも策定をしている自治体は三分の一である。なぜ若い人の声が届かなかったのか。それは政治の世界でも行政でも産業でも、ルールを決めているのが男性たちで特に権力を持つのは年輩者であるためである。
生みにくい現状として、男女雇用均等法により働くのが当たり前になった。そのため、企業に男も女も吸いとられていった。そのため地域が空洞化した。専業主婦の人たちが孤立化していったのである。特に企業では介護や子育てをしたいと思うことはすなわち「おまえは仕事にやる気がないんだな」と思われがちになる。特に人事権を持つ上司は、高度成長期を支えてきた猛烈社員の世代であり、「おまえも家族を捨てて俺のように働け」と求められ、若い世代のジレンマにはなかなか気がつかない。
子供が育つ世界、幼児期を過ごす世界に女性しかいないというのは一種異様である。職場があまりに男性社会になっているのが異様だというのと表裏一体である。
家族との絆を失った人は、職業人生で失敗したときに非常にもろいという指摘もある。企業のトップの方も従業員が健全な家庭生活を送れるようにする。家族を大切にしながら働けることが活力のある職場につながるというくらいに発想を変える必要がある。

福田素生「社会保障における次世代支援」
少子化社会を考える懇談会の中間のとりまとめは社会保障における次世代支援を重点課題の一つと位置づけ、社会保険制度を活用し、子育て家庭に配慮を行うことは考えられないか。いまの制度では子育てをする・しないに関わらず、社会保険料は同額で、給付も同一だが、子育て家庭に対する配慮措置の拡充なども考えて良いのではないか。等と述べている。

1.が充実するならば、2.の必要性が減少することも考えられる。
年金に関しては、育児休業の利用者に厚生年金の保険料を免除し、その期間は直前の標準報酬に基づき年金額を計算するというものがあるが、これは配慮というよりも育児休業の普及を主目的にしたものである。日本の場合は第三号被保険者の問題もあり、給付のバランスが難しいとされる。他に年金積み立てを活用した「若者皆奨学金制度の創設」などの提案がある。
介護保険では、この養育者たる被保険者への配慮は制度化されていない。また年金と違い、40歳からの徴収であり、20歳以上の非高齢者の負担で高齢者への給付を行う年金との場合とは世代間での移転の程度が大きく異なる。子供を養育する第二号被保険者についてその貢献から一定の控除を行うことなどが考えられる。
医療については子供や現役世代が受給者になることも多く、世代間での移転の程度は介護保険よりも小さいと思われる。しかし、老人医療費の急増に伴い各保険者の拠出金も大幅に増加しており、世代間での移転がさらにすすめば、子供を養育している被保険者への配慮を検討する必要がある。
この論文では、エスピン・アンデルセンのポスト工業国の社会保障に触れて、シャドーワークである女性の子育てを有償化するなどの手当と、保育所に偏るいまの制度を見直す留事が重要であると述べている。

その後、H15.7.9に次世代育成支援対策推進法が成立している。
2005.12.28

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