2002.5
福祉サービスにおけるリスクマネジメント

小室豊允「社会福祉法人のリスクマネジメント」
 これまで様々な死亡事故や重大事故があったが、リスクマネジメントの視点が薄かった。しかし、介護保険の導入などなど社会福祉基礎構造改革や社会福祉法施行により利用者は措置から契約へと移行した。契約となれば当然、利用者側の権利がより意識されることになり、これまで「不注意であった」ではすまされない。
 医療事故の70%は薬剤であるが福祉/保育ではほとんどが福祉サービスに関わる。しかし、リスクとはそれに留まらず、倒産や金銭処理といったリスクファイナンスも含む広範囲なものであることを忘れてはいけない。それは民間の福祉施設に留まらず社会福祉法人も例外ではないし、むしろ失敗した場合のブランドダメージは社会福祉法人の方が大きい。
 またリスクを予防するためには職員一人ひとりが危機管理意識を持ち緊張感を持つことが大切である。そして誰に相談すればいいのかを組織の中で決めておくことも重要である。緊張感が欠如すれば事故は起こりやすい。この緊張感を維持するためには、一人ひとりの仕事に対する満足度が高いこと。また使命感を持つことである。

服部万里子「利用者の安全・安心のためのリスクマネジメント」
 利用者が求めるサービスとして、安心出来る、快適な、自分の意向を尊重してくれるサービスである。しかし、利用者の意向を組むあまり、サービス向上に伴う職員の負担への対応が取られずに、退職者が続出する。あるいは寝たきりにさせない取り組みをして、スタッフに腰痛を急増させてはサービスは継続出来ない。すなわち、質の高いサービスを安全に提供出来る組織作りが必要なのである。つまり、スタッフ自身の安全と快適性の確保が重要である。しかし、快適なサービスのために職員を増員して提供することで経営が成り立たなくなるようではサービスの継続の確保すら出来なくなる。
 ヒューマンエラーの方法として、間違いが発生しないようにする仕組み(フール・プループ)と間違えても大きな事故にならないようにする(フェイルセルフ)がある。
 情報の透明性、利用者のニーズを上手く吸い上げ、出来ることと出来ないことをしっかりと説明する。また日々の業務でのヒヤリハットもしっかりと学習する。その上で、スタッフ一人ひとりの教育、そして環境の確保などである。経営者はまた別の悩みもある。それは福祉サービスの拡大と共に民間企業などが参入し、大量のヘッドハンティングがされるとサービスの質が維持出来なくなるリスクもある。

柴尾慶次「福祉サービス事業者スタッフの視点からのリスクマネジメント」
 リスクは広く捉えれば、制度リスクや適切な人員配置をしないと減算になる。これもリスクである。この論文では述べられていないが、介護職の離職傾向は充分な人員を確保出来ないことによる経営困難は大きなリスクになっている。ましてや看護師や栄養士などの配置は大きな問題になっている。
 この論文では介護事故のリスク回避について、職員一人ひとりの意識、専門職性の高揚、日々の業務に潜むリスクをいつも心に留め置いて仕事をすることを論じている。またこの時期、身体拘束の禁止による自由によるリスクについて触れているが、身体拘束による廃用性などより重大な結果になることから見守りの時間を含めて綿密に取り組む必要がある。また日課中心主義による臭気は、オムツ臭、ポータブルトイレ臭、失敗臭である。これも日課中心主義から随時に変えることで回避することが出来る。その他、士気と意欲を刺激するとか意識改革をする等書かれている。

小嶋正「福祉サービス事業者における事故発生後のためのリスクマネジメント」
 弁護士の立場から事前あるいは予防に取り組むことはとても良いことだが、それでもリスクをゼロにすることは出来ない。では起きた事故に事業者としてどう対応するべきか。
 事故発生後のリスクマネジメントして事業者が念頭に置くべき事は、救急処置と家族に対する連絡という初期対応が、その後の紛争としての発展性に大きく影響する。これを不充分だと紛争に発展する。次に事業者側に帰責事由がある事故については利用者側に対し、正面を向いて誠実に責任を負うという姿勢が最大のリスクマネジメントになる。
 また応急処置は看護によらず、一般的な常識の範囲で迅速に処置することが大切で、これを怠って事業者側の責任として過失が認められた判例も存在する。
 このほかとても為になるリスクマネジメントのあり方が具体的に描かれている。

薄井照人「医療施設におけるリスクマネジメント」
 広い意味でのリスクについて言及している。まず介護事故と同義の「医療事故」(医療過誤)、院内感染、制度的に医療財源のカットによる医療サービスの劣化、財務的側面としての資金調達、資金不足、人事労務(過大な医師報酬、看護師確保に向けた無計画な給与決定、逆に給与カットによるモチベーションの低下)に関するリスク、天災など一般的被災に対するリスクである。
 わかりやすい内容で、今の福祉現場で起きているリスクを先取りしている。

2011.3.23

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