2001.9
家庭・家族再考

石原邦雄「日本における家族構造の変遷」
 日本の伝統的形態とみなされる「家」制度が出来上がっていたとする見方には、江戸時代の幕藩体制であることに異論はない。しかし、江戸時代は、家臣にしろ奉公人にしろ、非血縁・非親族の従事者をも組み込んでいた。その意味で血縁集団が家とは限らなかった。
 明治時代になり、中央集権的な統一国家体制を取る必要から、大きな家を解体。四民一律の戸籍による掌握を図る。その過程で奉公人などの非血縁は排除された。戸主に対する優遇措置?兵役免除などを付与しつつ、天王国家体制の最末端機構としての位置づけを与えられて、社会秩序の主要な安定装置として機能した。成員の地位や権利から見ると、婚姻における妻の無権利生、相続における長男の家督相続権などによって、家の世代的連続と内部秩序の維持が図られた。
 その後の敗戦によって、欧米スタイルが導入されたが、すでに核家族への形態の転化も戦前に見られつつ伝統的な価値観も共存し、家のスタイルは重層化していた。その後、夫が稼ぎ手で妻が専業主婦という性別分業が規範化される。しかし、低成長時代になり、夫婦型のスタイルにも変化が起きる。共働き、フェミニズムなどである。また家族の個人化・多様化が進行している。

望月嵩「現代家族観を問う」
 日本の核家族化は少なくても1970年代初頭までは、社会経済の発展だけではなく、制度の改革や家族生活の民主化という課題に対応して進展した。
 その後の性別分業否定から女性の社会進出について。分業自体は差別でも何でもなく集団生活を営む上で欠くことの出来ないことである。さらに男女の役割:セックスロールについて。産むことは交替できないはずだが、最近の論調:ジェンターロールが強調され、結果セックスロールまで交替可能であるかに論じられる傾向が見られること。さらに職業労働と家事労働を比較して、前者が価値がある労働であるという考えが存在していること。
 金銭的利益を得ることが優位であるのかどうか。繰り返しになっていることは、職業労働でも同じではないか。
 家族の個人化について。家族が無くなれば、自由になれるのかどうか。そうした考え方によって、社会的規範やルールを無視するという問題が発生していること。人間関係を希薄化していること。自律できない人間が、自立だとか個人の権利を振り回すのは、ブレーキのきかない自転車が、交通規則を無視して走り回るような物である。

高橋重宏「家庭における子育てと社会的支援との関係考察」
 これまでファミリーソーシャルワークが市民権を得ていない。ファミリーソーシャルワークは、個人と共に家族へのアプローチが行われないといけないが、そのシステム作りが進んでいない。(グループワークや家族療法の実施の具体的なモデルなど)
 ファミリーサービスとは、個人の、家族・家庭のウェルビーングを促進するプログラムを指す。特に、ソーシャルグループワークを指す。
 おそらく高橋氏は、ファミリーソーシャルワークを児童家庭支援センターの職員にその役割を求めている。児童家庭支援センターは既存の児童養護施設などに併設され、児童相談所からのサポートが期待されているからである。

増田雅暢「家族形態の変化がもたらす経済への影響」
 専業主婦と夫、子供二人という標準モデルはもはや過去のものとなる。そして、現在は共稼ぎのモデルが優位に立ち、例えば、社会保障の個人単位化の議論などがみられた。これは、働いている人が支払っている額ともらう額を考えると、働いていない主婦が、遺族年金や第3号被保険者として年金をもらうことの不公平感がある。とはいえ、社会保障の理念から、個人か世帯かという優先順位はなく、それぞれの状況に応じて、世帯にも個人にも制度は運用されないといけない。よって、制度的には、第3号被保険者は、個人としては労働収入がない女性配偶者の年金受給権の確保という目的のために創設されたため、不公平感はあるものの、制度の指示の割合は高いとみるべきである。
 また単独世帯が中心になり、また、離婚率はすでにフランスを上回っている。

森田明美「シングルペアレントの現状と支援課題」
 シングルペアレント→一人の成人と少なくても一人の扶養する子供ー出生または養子によるーからなる世帯(シングルマザー・ファザー)
 日本では母子家庭の割合が圧倒的に多いのは周知の通りである。子育ては女性の役割であるという厳しい社会通念にあって、子育て実態は厳しく、一方父親と暮らす子供たちもまた、時に早い時期から自立を迫られて子供時代を友達と十分に遊ぶことすら保障されない被害者である。ジェンターバイアス、社会的な子育て支援などのシステムが整っていないが故に、シングルファザーの出現そのものを阻んでいる。

このほか
櫻井ミヤ子「我が国における婚外子事情」
奥田安弘「無国籍児は本当にいるのか」
石川恒夫「扶養制度の現状と課題」

2009.1.27

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