2001.10
専門職が使う毎日の道具のデザイン

黒須正明「ユーザ工学の視点から見た「使い勝手」」
 ユーザ工学とは、モノは買うためにあるのではなく、使うためにあるのだという基本原則を、この大規模流通社会において確認し、モノを企画し、生産する現場から、モノの使用者(ユーザ)の姿を知り、彼らの生活実態に適合したものづくりを推進させるために生まれてきた。逆に言うと、モノを作る側が、ユーザの安全性や信頼性、使い勝手に配慮することが大切である。ユーザ工学は、こうした立場から、ものづくりをする人々に、ユーザに対する関心を呼び起こし、それを適切にモノに反映させるための考え方と方法論を提供するものである。
 使い勝手の定義の説明が成されている。システム受容性が最上位の概念とし、その下に社会的(社会的、能力的インフラ)、実用的(価格、互換性、保守性、使い勝手など、使い勝手のさらに下位概念として、ユーティリティ(機能・性能)、ユーザビリティ(操作性・認知性・快適性)、感性的受容(審美性、情緒的受容性(下位概念として、かわいらしさ・期待性など)が位置づけられる。そのシステムや受容についての具体例による説明がなされている。
 ユーザビリティについて、機能、性能については、使用性を意味するが、核として、ユニバーサルデザインがある。あるいはバリアフリーなどは最低限重要な使い勝手を意味する。
 次にプロセス〜規格、ISOについての説明。ISO13407は、ものづくりのプロセスはどうあるべきか(人間中心設計)を規定した規格。もともとコンピューターを応用した対話型システムを対象にしている。そのプロセスの中で、特に重要なのは、利用状況の把握と、評価のプロセスである。これらのプロセスは、これまでの機器やシステムの開発で特に見落とされてきた。
 良いモノを作るためには、それぞれのモノを個別に考えていくだけでは不十分であり、むしろその背景にあるものづくりのプロセスを問題にし、プロセスに関与する人々が人間中心的な考え方を身につけ、それを実践することが重要である。

福村愛実「介護ユニフォームに関する考察とデザイン提案」
 高齢者介護のユニフォームのあり方についての、調査など。例えば、着用者の年齢など関係なく一律のデザインで、色違いさえない施設が多い。ユニフォームといっても体操服のようなものか、ジャージの上下のようなものが多い。仕事上機能性を追求すればそのような形に集約されてしまうかもしれないが、それでは毎日の仕事着として介護する側もされる側も、あまりに味気ない気がする。
望ましい介護服のイメージは、明るく、親しみやすく、暖かく、シンプルかつスポーティで、きちんとした、上品な、気軽な、ゆったりとした、柔らかいというイメージであると考えられている。色の好みは、20〜40代までは、ピンク→水色→白の順で好まれ、50〜60代は、水色→ピンク→白の順で選んでいる。あとはデザインの提案であった。

平手小太郎「光・音のもたらす心理的影響と空間デザイン」
 施設入所者は、退行現象など、精神面で不安定になることが多い。そのため、入所者に対する細かな心遣い、入所者の心理・特性に立脚した空間デザインが必要であると思われる。例えば、明るさに関しては、適切な明るさというものがあり、視作業の内容によって違ってくる。また高齢者の視覚低下などの年齢による特性なども加味される必要がある。さらに人間は、窓を通した光環境の変化を知覚・受容することによって周期的な生体リズムを確保している。
 また、光は安らぎと潤いをもたらしてくれる。例えば、照明はグレア(まぶしさ)の防止のため、光源が目に直接入らないようにするなど。色彩については、配色によって雰囲気が変わるなど。あるいは、音の環境など、共有空間は、福祉福祉のイメージを大きく左右し、明るく開放的で気分をリラックスさせ、十分に広くゆとりを持たせ入所者の疲労を低減させたい。
 建築の技術は、季節、風、嵐などの気象的な外乱に対し、照明、空調などを用いた均一な環境の確保、すなわち時間的・空間的変動をなくすという点に腐心してきた。その結果、生活に必要な変化、リズムなどを失う事になってしまった。それを見直すようにする必要がある。窓の工夫、植物などのリズムなど。
 その他、空間などについての論述をしている。

箕輪裕子「福祉専門職と住環境整備」
 介助の必要な高齢者や障害者ができるだけ自立して快適な在宅生活を送るために、住環境を整備することはきわめて有効な方策である。しかし、住宅や道具の工夫で生活が大きく変わることについて気付いていない人も多い。また、福祉用具は年々進歩して、快適性や利便性が増しているが、それらの動向を知る機会がないまま古い技術に頼っている人も少なくない。福祉専門職は生活の全体像を把握して、安定した生活を送るために何が必要か、多面的に検討し支援することが役割といえる。
 ニーズの発見→取り組んでみよう→他の専門家につなぐ(理学療法士、建築士、施工業者など)ただ、住改築などの優遇措置の制度への知識は必要である)→アフターケア
 着目点として、生活動作を一つ一つチェックすることから始まる。入浴、排泄、食事、外出、起居などの行為ごとに考えるが、さらに細かく、例えば、入浴にいたる一挙一動の身体レベルについてのチェックが必要である。行為別場面別のチェックシートなどを作っておくとよい。

松村正希「福祉サービスを提供する空間のデザインと生活の質」
 空間デザインなどが配慮されず、殺伐とした中で生活をしていると、生活の中で何ら感動を覚えず、自らの暮らしを支えることや立て直しができないといっても過言ではない。貧しい環境に置かれた社会的弱者は生きていくすべを失い、人として発達すべきところが逆に遅滞にもなってくると思われる。
生活上のお手伝いや日常やるべき事を職員が奪ってしまい、生気をなくしている。生活のにおいを取り戻すことが必要である。
2008.1.29

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