2000.3
ボランティア・NPO活動の潮流と論点

鼎談
 そもそものNPOの立ち上げに関しては、阪神大震災における復興活動での活躍が契機になっている。それがNPO法を生み出した。さらにNPOの7割が保健・医療・福祉系であり、会員数が1000人を超す組織はわずか7%、逆に50人未満の団体が4割程度もある。収入・支出の規模では、200万以下が7割、5万円未満が2割と多くの団体で財政面の課題を抱えている。ただNPO法により、会計を区分した収益授業が可能になり、財政の流れを作り、組織や事業を整える動きが活発化している。
 福祉政策的には、1.当事者がNPOなどに参加する事が多くなった。2.法当初は、企業などがNPO取得が多かったが、現在は保健・医療・福祉の参入が多い。3.有給職員をおくなど、組織性や事業体として意識化された。4.広域化している。5.分野を超えたものや多機能なものが増えている。6.NPOなどが政策や福祉計画に参加しようとしている。行政とのパートナーシップが現実化している。
 新しい可能性として、1.情報の重要性と活用が進むことにより、地域を活性化させる。2.各団体の連携と問題の共有化。3.個の尊重と組織の発展。4.当事者性と自己責任の自覚。5.地域の特性を活かした活動。
 インフォーマルな活動とフォーマルな活動をいかに橋渡ししていくか。 フォーマルとは行政のみならず、そのNPOの組織体として、どのように発展させていくのか。経済性、効率性、効果性を考える必要がある。
 課題として、1.管理システムが明確ではないため、善意の行為が加害者と被害者の関係になりかねない。2.ボランティアがサービスの基準や目標など説明責任が生じる。3.団体のマネジメント機能の確立。4.専門性を主張していくこと。5.行政による支援策?女性や情報提供体制など。6.一つの信念から次の段階に踏み出すときに起こる葛藤。7.現行の隙間を埋めてきたが、サービスが制度化されることで、今までやってきたことが他の業種を圧迫させてしまうこと。8.有給職員の待遇改善。
 NPOが広く浸透するようになり、当事者性や市民の自己責任が認識されるようになってきた。市民の権利と義務の双方性がきちんと位置づけられる社会、目指すべき新しい市民社会への希望が見えてきたなと思う。また、NPOやボランティアは、介護保険を含む公的サービスに、常にニーズに敏感であるべき事や、ニーズに応じた新しいサービスの開発に努めるべき事など、影響や刺激を与え続けるのではないか。

動向解説
 ボランティアなどは、いまや社会に広く認知され、政策レベルで積極的に取り上げられ、さらに関連の意見具申がなされるようになった。その後、NPO法が成立すると、個々のボランティアというよりも、NPOという組織体への政策へシフトしていった。
 ボランティアの現状として、現在行っているのは、5?10%程度である。まだ、どこでも誰でもやれるという環境にはない。災害時やイベントではボランティアの参加は当たり前になっているが、日常活動に転換する切り口を探しあぐねている。さらに、客観的にはボランティア活動をしているのに、自分のしていることはボランティア活動ではないと考えている人が多くいる。町内会、地縁型活動など。
 しかし、緊急雇用対策としてNPOに雇用吸収の役割が期待されるなど、NPOに対する期待は急速に高まっている。しかし、現状では広く社会からNPOに資金が環流する仕組みがない。特にNPOの性格上、個々人の意志に基づき広く薄く資金が集められることが肝要である。やはりNPOに対する寄付税制の優遇措置は必要である。そのため、基金や低利融資制度などの導入など経営体の強化が必要であろう。
 めざすべき社会像として、NPOなどは、新しい働き方、労働観を創造しうる。例えば、雇用者?被用者という図式に当てはまらない働き方を作り出す。NPOの原理は価値の共有が確認可能な範囲で自治を嗜好するため、社会運営の核の分散化・多極化を促進する可能性がある。分散型社会の良いところは、同じ結果であっても自分たちが決めたことであれば納得でき、問題があれば機敏に修正できるようになるかもそれないことである。

小谷直道「21世紀のボランティアの課題」
 2001年はボランティア国際年にあたる。1997年11月に国連総会で採択され、各国政府、国連ボランティア計画などの国際機関、ボランティア団体が互いに協力して、ボランティア活動の認識を高め、ネットワークを構築する方策を探っていくことになった。
 国際的にも日本はかなり活動的になってきたこと、20年前の思い出を語っていることなどであった。とはいえ、先見の目があり、環境問題、高齢化問題など、2000年の記事にしては、2008年でも十分というか、かなり鮮明化された問題について、しっかりと書かれている。あと、阪神大震災でのボランティア活動の高まりと、そのときの活動の反省点などを述べている。最後に、NPOへの優遇措置、特に寄付金控除は行うべきであると意見をしている。

鈴木眞理「教育改革・生涯学習の可能性と課題」
 昨今の教育改革の陰に、生涯学習への推進が謳われているが、ともすれば、生涯学習は、趣味・娯楽・教養や自己中心の自己実現、自分探しといった極めて個人的な次元の概念に矮小化・誤解して語られがちであり、生涯学習という言葉を使うことによって問題の先送りや本質的な事柄の回避と言うことになっているのではないかという問題意識を持っている。つまり、学校改革・教育改革と生涯学習としての社会教育の連携が必要であるが、そのめどは立っていないことについて問題としている。生涯学習とボランティア活動には親和性があり、その行政の流れについて説明している。しかし、ボランティアについて、専門職員を配置しない安上がり政策・行政が本来保障すべき学習機会の条件整備の責任を放棄しているという批判がある。ボランティアを学校教育のカリキュラムに組み込むことはある程度浸透している。今後は、これらの活動がより浸透することで、こうした批判も少なくなるだろう。
 その一方で、NPOについては期待一色のようである。いずれにしろ、体験は大事であるが、福祉領域では、驚きや共感や思いやりの心などが注目されることが多いと思われるが、体系的な知識・理解の重要性は強調してしすぎることはない。この裏付けを欠いた共感はもろいのではなかろうか。

中川和之「災害・救援ボランティアの現状と課題」
 阪神大震災のボランティア活動を振り返っている。救援初期に見られる慈善的、あるいは一方的な支援によって、被災者のエンパワメントやノーマライゼーションへの配慮に欠けたことや無用な対立を起こしていたなど。あるいは、原油流出で、張り切りすぎて慎三に持病がある人が発作を起こして亡くなったり、環境負荷が油よりも高い薬剤を使用していたりと、無知な面が顕在した。ボランティアをする際は、コーディネーターの存在は欠かせないし、活動に入る前の話し合いや計画は大切である。また、平時からの打ち合わせや情報の共有は大事である。
2008.2.16

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