1999.10
高齢社会の世界的進展

国連総会が1992年に採択した「高齢化に関する宣言」の中で、人口の高齢化を世界的な緊急課題として捉える認識が示されている。1990年より毎年10月1日を「国際高齢者の日」と定めたが、先の宣言により1999年を国際高齢者年とする決議がなされた。
「高齢者のための国連原則」では
1自立・2参加・3ケア・4自己実現・5尊厳のキーワードで語られ、長寿が20世紀における偉大な成果の一つであることは間違いないとする前提条件、ならびに、高齢者を社会に貢献してきている存在として認知すること、高齢者を一人の独立した権利を有する人間として捉えることなどが明確に示されている。

EU諸国の動向
EU諸国ではばらつきがあるが、率は異なりながらも人口は高齢化している。2015年までには各国の人口は横ばい又は減少傾向に転じ、1995年に24歳までの人口が31.1%だったものが、2015年には27%になる。
明確なパターンとして、一人暮らしの高齢者の方が他の物と暮らしている高齢者よりも制度上のサービス利用が高い。高齢者の貧困の解消では、年金生活者間の生活レベルの格差が広がってきている。特に女性の方が長寿でありながら、雇用による年金拠出が不足するため、高齢化に伴って益々貧しくなる傾向がある。
年金が社会的統合あるいは排除のメカニズムとなりうること、年金が完全雇用に依存して成り立っていること、また早期退職を進めすぎたことである。
社会契約の意味を若い世代に伝える努力も必要である。将来的に自らが拠出した事への見返りがあることが保証されれば、高齢者のために今拠出することも厭うことはないはずである。
実際、過去20年間 EU諸国国内では特に青年層の失業率が高かった。そのため早期退職を奨励してきた。しかしこれは失業対策の特効薬にならなかった。そして、労働者の世代交代の促進にも繋がらなかった。
メディアも高齢者の脆弱性ばかりを強調し、高齢者の有意性にはなかなか言及しない。ヨーロッパでもアジアでもほとんどの高齢者は比較的健康であり、セルフケアが可能、あるいは最低限の支援があれば暮らしていける。さらに高齢者が孤立しているという分析は正しくない。

アジアの動向
ある確固たる引退後の生活を保証する制度を何らかの形で備えているのは、シンガポール、日本とマレーシアだけであり、その対象も必ずしも全国民というわけではない。香港は生活保護の形による安全ネットは備えているが、拠出型の年金制度は導入されていない。中国は従来の集約的共済型の国家による保証を止め、新しい社会保険方式を導入しようと躍起である。
アジア通貨危機ですぐさま起こることは、福祉や保健サービスへの社会投資の激減である。このことはひいてはサービスの質・量にも長期的な影響を及ぼすと考えられる。
長期的介護サービスへの取り組みが不十分であり、若干の入所型のサービスや、非常に制限的な、法制度に則った在宅サービスや民間非営利団体によるサービスが行われているに過ぎない。ほとんどのケアが家族によるインフォーマルケアに依存しているのが現状である。しかも制度やプログラムが存在しても、それらのケアの質や内容について、基準や規則、あるいは罰則などを伴う監査に関する規定などが一切なく、提供されているサービスの質の低さによって生じる問題への退所の必要性が指摘されている。しかし、それらへの対策は遅々として進んでいない。
今日のアジア・太平洋地域では、都市部にしても農村部にしても、その環境が高齢者にとって優しい環境であるとはとても言い難い状況にあるのが現実である。
日本、シンガポール、香港の一部を除いて、家庭、地域におけるサービス、そして設備などとの連携はほとんど取れていない。高齢者の環境整備が重要であるという認識に立てば、学際的な協働、そして制度間並びに公私による協働は不可欠である。

アメリカの動向
アメリカは1995年現在、12.6%と比較的低い水準にある。ちなみに日本は90年代前半まではアメリカと並んで低い水準にあったが、現在は16.6%と急速に高齢化が進み、21世紀初頭には世界一の高齢化国となる。
米国の要介護者の発生率は24%となっており、日本6%、虚弱を含めて12%と比べて相当高いと推測される。
費用保証という綿では目立った政策はないが、介護サービスの質の確保という点では、高い消費者意識といった社会事情も反映して、介護オンブスマン制度や第三者評価といった取り組みが行われている。というのも、米国ではケアワーカーの賃金がかなり低く、その離職率が高いこともあって、介護の質を維持することが難しいという事情がある。実際相当数の事業者がケアワーカーの採用に際し、その犯罪歴(特に薬物使用)のチェックを行っているのが現状である。

英国の動向
英国の福祉サービスは、地方自治を中心に税方式で提供されており、一方、保健医療サービスは国営医療サービスとして、国が中心となって同じく、税方式で提供されている。この基本理念は戦後から現在まで大きな変化はない。
サッチャー政権では、地方自治が自らケアマネイジメントを行い、福祉サービスの適切な組み合わせでサービスを提供する方式がとられるようになる。また民間サービスへの移管が進んだ。ケアマネイジメントのプロセスを重視する余り、その後のフォローアップまで十分手が回っていない事例が多々あるなど問題が指摘されている。
ブレア政権になってから、欧州通貨統合の条件である財政赤字制約条項の遵守のための厳しい財政運営を余儀なくされる一方で、公平性重視、雇用重視の政策を進め、以前の保守主義政権との違いを強調している。しかし、具体論となると党内の方向性が不一致である場合が多い。また、サッチャー政権よりも中央統制主義的で規制強化的な考えに転換が図られている。しかし、規制緩和、効率的な運営〜公立よりも民間へ。

介護保険の課題と対応〜日独比較の視点から
日本において、利用月額をみると、特養は32.5万、老健は35.4万、療養型医療施設は、43.1万となっており、利用総数が高齢者人口の概ね3.4%として、利用施設の比率は8:7:5と案分するとしている。一方、病院側として、最近の在院日数の短縮化などで経営が悪化している中で、急性期病床から慢性期病床への転換が急増している。しかし介護保険の目的は、社会的入院を減らし、医療費の増加に歯止めをかけることであり、趣旨に反しているといえる。
ドイツの基本的な特徴は、家族による介護が社会的に見て有意義な行為であるとして、それに対する社会的評価ないしは謝礼として現金給付および年金権の付与などを位置づけている点にある。そのため、日本の嫁介護に見られるように自分の意に反してまで介護を引き受けさせられると言うことは少ないように思える。
ドイツでは要介護認定は通常一人のスタッフが要介護認定を行い、認定審査は一人の調査で終えることが多く、日本のような合議制とは違う。そのためドイツでは申請を却下するとか異議申し立ての件数が非常に多い。さらに異議申し立てが認められるケースも多い。日本では、合議制やコンピューター処理により客観性が高いため異議申し立てがしにくい状況である。
2007.4.25

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