1998.2
新しい世紀に向けた福祉再生の視点
座談会.1
- 法人経営の意識が希薄:行政監査では、法人経営と施設経営を指導するが実際は施設経営の指導を重点的にしてきた。その結果として理事長独裁で、役員会が機能していない例が非常に多い。公認会計士や税理士などの外部の第三者による会計監査業務が欠落している。しかし、金融の不祥事のように、単純に会計監査の問題だけで片が付くか。
- 法人の自己負担:施設を整備するときの4分の1の自己負担や法人設立の基本財源などの自己負担を償却する手だてが現在の制度にない。
- 補助基準の面積が小さく、良質のサービスを提供する場合にハードを広げようとすると、自己負担が四分の一から半分となりかねない。サービス基準での評価とのギャップがある。措置費による資金運用の硬直化。職員配置基準の規制。経営をしても評価されない風潮。社会福祉に対する行政の神経質な目配せ、監視。
- 規制緩和へ:経営の安定を図るという理由での措置費の存在は、結局依存であり、公立と何ら変わることはない。経営が安定して倒産のリスクが無いという反面、一切資本蓄積を認めず、再投資が出来ない、新規事業も興せない、申請主義。
- 財団法人:本来的に社会福祉法人は財団であり、資金の運用は自分の中から作っていかないと行けないが、事業運営のための費用を資産以外の収入(寄付)に依存してきた未熟な形態できている。また、税金で運用されている現在、改善は難しい。
- 経営とは:社会福祉法人は、あくまでも資金収支計算主義である。そこには利益という概念はない。企業成果は、サービス提供の行為そのものが測定となる。その意味で、一定の制限された経営目的のために自由な経済活動を認めるということ。
- 措置費への提言:措置費に伴う本部会計と施設会計の一本化〜法人会計という運用の弾力性を認める。同じ法人でありながら施設同士の資金の流用を止めるようでは血液を止めているようなもの。(スケールメリットが見込めない。)建て直しなどの減価償却費の規制緩和など。そのことによる4分の3の補助費のカットも行われるが、規制緩和と同時に既得権の放棄も覚悟する必要がある。介護保険の導入による新規参入者のために社会福祉法人がメリットを解放するか、既得権を放棄するか。
- 特別養護老人ホームと介護保険:特養の運営を考えても現状の福祉制度だけでは、福祉需要を満たすことはできない。実際に利用する人や家族の視点を考えて、いろいろな経営形態があっても良いのではないか。また、介護保険が導入された場合の収入の激減が起こりうること。介護の理念はあっても経営の理念がなかったこと。経営のチェック項目を作成する必要があること。システムの移行による利用者や地域住民との意思伝達と同意を得るような開放性。
座談会.2
- 閉鎖から開放系システムへ:市場システムの開放、会計システムの透明性、情報の開示、住民への説得責任〜資本経済社会の外部的(補完的)存在から、本質的なシフトチェンジとなる。もちろんリスクはあるが。
- 措置権者としての行政:職権でもって公的福祉を展開してきた。しかし、「反射的利益の範囲」の対応ということで、実際には公的な責任を十分に発揮できなかった。
- 措置と社会的弱者:競争原理だけで社会的な弱者や小さいニードはどうなるのかという問いに対して、憲法25条で国民の生存権の保障がなされている以上は、国の責任は無くならない。ただ、公的責任をベースに考えたときに、自立できない社会的弱者を措置しなければならないとか守れないとかという発想はもうやめた方がいい。破壊と再構築で措置を見直す必要がある。それに対して、これから新しい制度を始めるものならまだしも、現に職員がいて、経営が継続している中で、「ゼロからのスタート」が現実論として可能かというと疑問だと応酬する。またまたそれに対して、発想をクリアした上で、政策を見直す。そしてあるべき政策の方法に移行していくのが望ましい姿でないかということで、今必要なのは、新しい政策の理念と手法。それを考えるときに、部分的であれ、措置制度ありきでは困るという指摘。
- 社会福祉事業団:ある自治体では80億円で事業費規模で運営をしている。しかし、そのうち措置収入は40億円で、不足分を自治体持ち出しで賄っている。しかし、今回の介護保険や児童福祉改革で収入が落ち込み、経営がさらに悪化する懸念がある。こうなったのは、「社会福祉事業団などの設立及び運営の基準について」の厚生省通知がある。経営ノウハウのない自治体職員が理事に入り、受託事業に頼り、民改費が不支給となるうえに、給与などは公務員準拠。これでは経営破綻も当然。行政改革の一環で、社会福祉事業団の施設を社会福祉法人にいたく方針を出す。これで混乱するのは職員と利用者。真の解決は、事業団を完全独立採算性にすること。そうした意味で、地方公共団体に裁量を与え、国の干渉は辞めるべきである。少なくても都市部での「自治体による施設経営の時代」は終わった。また、施設経営者は、行政はまだ守ってくれるのかどうかと悩んでいるが、納税者からすれば、良いサービスを受けれれば良く、経営者を守るためにあるのではない。
- 老人福祉施設の棲み分けなど:要介護状態になったときに、選択肢として医療の安心があげられるが特養では、老健や療養型病床群に比べて弱い。老健の3ヶ月から6ヶ月という入所期間の縛りが無くなったら老健に流れるのではないか。古い施設と新しい施設との対比では、古い施設の居住面積とかアメニティが低いので不利ではないかとか。しかし、いずれにしろ、措置制度に守られている福祉とそうでない医療が同じ土俵に上がって競合していく時代になっている。また、経営努力次第で、特養の医療の強化は図れるようになるのではないかという提案もある。
- 会計システムなど:福祉は4分の3の補助があるのに対して、医療にないのはアンフェアであり、減価償却費をコストに含めるようになれば、福祉のサイドでも整備補助の撤廃もあり得る。股、余剰金に対しても情報の地域への開示により、同意が得られるものであれば、むしろ認めるべきである。また、出資をするとかいうのは、今の社会福祉法人では認められていないが、これも考慮されるべき問題である。また、今後企業の参入があった場合に、健全な経営を行えるようにするための補助を認めるべきかどうか〜企業助成は賢明かどうか。また、社会福祉法人だけを優先的に保護するのもどうか。
メモ
今は昔の論議であるが(2002年1月現在)、不安や焦りや肩肘を張ったような論調が多い。また、彩グループによる不正、横領、癒着があり、聖域とされた福祉業界が著しく失墜したこともあって、みんなの論調は目尻のあがったものが多い。でも、まぁ、こんな感じで福祉業界も進行している。ジュリアナ東京の社長さんとか夢を見たりしたようだが、まだまだ、投資とか評価とかとは縁が遠い業界ではある。