1997.9
痴呆老人への理解を進める

痴呆性老人対策の展開

原因
1.老年痴呆(アルツハイマー型痴呆)
原因不明の脳の変形疾患で進行性の痴呆を主症状と、脳病理学的には大脳皮質のびまん性萎縮、顕微鏡的所見として老人斑やアルツハイマー原線維変化などの高度出現を特徴とする。
2.
脳血管性痴呆
脳梗塞や脳出血の脳血管障害(脳卒中)の結果生じる。痴呆の原因としての脳血管障害は、多発梗塞性の脳血管障害が多い。
3.
その他
脳の外傷、腫瘍、感染、中毒、代謝障害などによる痴呆。
日本では、2が多いとされるが、実際には混合型や鑑別困難な痴呆も多い。
いずれにせよ、痴呆老人には、徘徊、叫声、暴力、自傷、不潔行為、弄火、異物収集、不眠、せん妄、抑鬱、幻覚、妄想などの問題行動や精神症状が見られることが多く、本人に対するケアと同時に家族に対する負担軽減のための援助が不可欠である。

痴呆性老人に対する処遇に関しては、監禁・拘束あるいは対処療法的薬物投与の時代を経て、痴呆性老人本人の視点に立った時代に突入した。痴呆性老人の典型的問題行動である「徘徊」については、監禁・拘束はもとより、疲れさせるだけを目的とした回廊式廊下の設置についても批判させる意見が出るようになった。すなわち、徘徊には本人なりの理由があり、安心と納得の提供が不可欠であると発想する時代になった。
痴呆性老人の状態像は、「自分の構成する世界と現実世界との間に大きなずれが生じて困っている人」と捉えることを基本とする。そして、援助者は「なぜ、そのような行動をとらざるを得ないか(どうして、そのような状況に追い込まれているのか)」と考え、本人の「戸惑い、不安、ストレス」を可能な限り取り除き、痴呆の程度は変わらなくても、適応した(良安定の)生活と、過去だけでなく未来にも指向した前向きな心の形成を目指すことが求められる。

痴呆性老人への理解を深めるために

痴呆を良く理解するための7大原則・1原則
1.記憶障害に関する法則−記銘力低下(ひどい物忘れ)、全体記憶の障害、記憶の逆行性喪失
2.
症状の出現強度に関する法則−より身近な物に対して痴呆症状がより強く出る
3.
自己有利の法則−自分にとって不利なことは認めない
4.
まだら痴呆の法則−正常な部分と痴呆として理解すべき部分とが混在する。初期から末期まで通してみられる。常識的な人だったらしないような言動をお年寄りがしているとき、それは「痴呆」
5.
感情残像の法則−言ったり、聞いたり、行ったことはすぐに忘れるが、感情は残像のように残る。
6.
こだわりの法則−一つのことにいつまでもこだわり続ける。説得や否定はこだわりを強めるのみ。本人が安心できるようにもっていくことが大切。
7.
痴呆症状の了解可能性に関する法則−老年期の知的機能低下の特性から全ての痴呆症状が理解・説明できる。
*.
介護に関する原則−お年寄りが形成している世界を理解し、大切にする。その世界と現実のギャップを感じさせないようにする。

育児との比較から老人介護の社会的援助システムの不安さ
1.基本的な理解のされ方が違う
赤ちゃんは夜泣きをするものだ、身の回りのことは自分では出来ないものだ、というように、認識のされ方が老人とは全く異なっている。
2.
社会的な制度や育児用品が整っているため
赤ちゃんに対しては、母親学級、定期的な検診、予防接種など、きめ細やかな制度が実施されている。もし、このような制度がなく、若い母親が自分の力で全て判断し、手配しなければならないとしたら、子育てノイローゼに陥る母親の数は劇的に増加するだろう。このように考えた上で、痴呆老人のおかれている現実を見直す必要がある。
3.
移動性の違い
子供は軽いのでどこに連れていくのも簡単。
4.
子供は成長するのが楽しみであるのに対し、お年寄りは病気になり老いていき、時にいずれ死を迎えるという問題がある。ターミナルケアを含めて、充分だろうか
結局、痴呆性老人対策は、乳幼児に対して現在行われているのと同じ様な理解と、社会的な援助体制や、緊急住宅ケア援助体制を整備することに尽きるのではないだろうか。

座談会より

在宅介護のポイントは
1.きちんと専門医の診断を受ける
2.
介護の方法を学ぶ
3.
住宅環境を整える
4.
介護をオープンにして多くの人の協力を得る
5.
支援サービスを利用し、さらに情報を得る
6.
ホームドクターの必要性
7.
どのような形でもいいので、何事にも相談できる、あるいは話せる相手を持つ

実践より(グループホームより)
痴呆性老人のほとんどは、発症以来何年も料理・掃除・選択・買い物といった生活行為から遠ざけられた時期をもっている。あぶない・汚い・遅い・間違えるなどと言われ、出来ることも取り上げられ一緒に行動してもらうこともない中で、困惑し痴呆症状が進んだケースも多い。
スタッフの良いこえかけ、良いスキンシップは痴呆性老人を孤独に放置することがないので、関心が対人的な方向にあり、問題行動といわれるものへ向かわず、退行を防いでいる。

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