1997.2
高齢者の看取りを考える

日本における高齢者の看取りの思想
社会的存在として、病院のベットで亡くなる事が多い。死にゆく人の身体的、精神的ニーズを満たす援助にとどまるのは心残りであろう。たとえ死が近づこうとも、人間はどこまでも社会的存在であり、社会的ニーズを持っている。また、医療が必要だからといっても「患者」として遇するだけでなく、主体的に生きることを望む「生活者」として遇せられ、社会的自己実現が目標となるべきである。

医療には、医療を成り立たせている生命観がある。たとえば人間を精巧な機械になぞられ、その故障が「疾病」、その修理を「治療」と見なす「機械論的生命観」がある。また、自発性・協調性に富む生命力の働きを重視して、その働きの不調が「疾病」であり、調和回復を助けるのが「治療」であるとする「生気論的生命観」もある。
「機械論的生命観」に基づく治療が、現在の医療の成果でありながら、現在の我が国の高齢者の幼少期の概念、「生気論的生命観」は根強く、終末期の高齢者が、時として医療に拒否的な姿勢を示すのも、こうしたところに原因があるのではないか。

我が国では、死期が近くても告知されていない人が多い。特に高齢者では、その傾向が強く、たとえ本人が死期が近づいていることを察していても、そのことを明確にしないままさりげなく生きて、安らかに眠りたいと望む人が多い。
生気論的生命観では、死も生の営みの一部であり、自然なものと受け止める。死を避けて生きられるだけ生き抜く事は望ましいとされるが、「生気」が失われれば死途につくのが自然であると受け止める。そしてそのようになっても生に執着するのは自然の流れに逆らうことであり、生への執着を招くような死の自覚は望ましいものではないと考えるのである。死を語ることがタブーとされるのはこうした意味があったからであろう。

告知する医療は、告知で終わるのではなく、本人の希望を積極的に聞いて、そのニーズにチームで対応する総合的なケアが求められるようになる。

今日では、迷惑がかかるからという理由で家族に身を寄せていわゆる畳の上でなくなることを強く求めない傾向にある。〜在宅での看取りの減少。
しかし、在宅での看取りは、情緒の安定と共に、自己実現が可能な環境であり、家族の果たす役割は大きい。〜病気を忘れて生き抜く意欲が持ちやすくなる。家庭では生活者であり、訪問看護などの適切なケアの下で可能になる。また、家族にとっても、在宅ホスピスが精神的な支援になるような適切な社会的援助などが必要となる。

特別養護老人ホームにおける看取り

利点など
1.家族が入所者と充分な別れの時を確保することが出来る(施設に宿泊することも可能)
2.暮らした環境の中で看取ることが出来る
3.他の入所者や職員などとの人間関係がある環境の中で看取ることが出来る。
4.可能な限り、口からの食事摂取介助を行うなど、自立支援を行う特養の介護技術を活かして、亡くなるまでより人間的な生活を保障しつつ看取りをすることが出来る。
5.重度者の場合でも、特養内外の医療資源を活用し、介護技術を向上させることによって、特養内で看取ることが出来る。
6.過剰な医療を提供するのではなく、人間として自然な形で最期を看取るとが出来る。
7.入所者・家族・特養の三者が納得のいく看取りに留意している。

留意することなど
1.職員が入所者の死を看取ることが重要。入所者との全過程の関わりをフィードバックすること。
2.入所者の死は、職員との関係よりも入所者同士のとって重要。一つの共同体として特養における死に意義がある。仲間に看取られた死、共同性の中での死こそ意義がある。

メモ

尊厳死
:本人の自発的意志を明かした宣言書。いわゆる「リビング・ウイル」を医師に提示する。
安楽死
:医者や第三者が、直る見込みのないターミナル状態にある患者に同情して死なせること。

高齢者を家で看取ること〜在宅ホスピスの考え方

いつからホスピスケアを始めるか。どのような条件が必要か
在宅でホスピスケアをしようとするなら、本人が家にいたいという強い意志が必要。そして、家族もその本人の意思を尊重し、家で見ようという気持ちを持つこと。さらに、高齢者が過ごせる空間があること。手がたくさんあること。家族に限らず、医療関係、保健分野、福祉サイド等のあらゆる社会資源を含む。福祉サイドは、本人と家族を支えるためにも重要。〜福祉サイドの社会資源の充実が必須。

在宅ホスピスケアの要件
1.二四時間ケア
2.症状緩和
3.患者と家族を対象としたケア
4.学際的なチームケア
5.医師による往診
6.看護婦による訪問
7.緊急時の入院体制

学際的チームの構成メンバー
ホスピス医師・専門医・看護婦・ケアワーカー・薬剤師・栄養士・理学療法士・MSW・宗教家・ボランティアなど

グリーフ・ケア
看取りの後、つまり本人が亡くなった後に残された家族を支えるために行うケア。
医療あるいは看取りに関わった専門職の人間が、看取った家族に対し、するべき事をきちんとしたのだ、ということを再認識させ安心感を持たせることがグリーフ・ケアの一つの目的。
最後のケアにともに携わった人々が、互いに、みんなの協力で看取りを達成したのだということを確認しあい、悲しみを分かち合うこともグリーフ・ケアである。

また、重要なのは、本人が意志を明確にするためにも、リビング・ウイル(生存中に遺言として自分の意志を明確にすること)が意味を持つ。そうすれば、当事者の意識がなくなっても、自らの望む形で最後の時を過ごすことが出来る。

在宅ホスピスのエッセンスは、先を読んで必要な手を打ち、家族にもきちんと教えておくことである。

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