大型ポンポン船

大阪府教育センター理科第一室  平田 允



   1 はじめに
 ポンポン船はエンジンの排気音をポンポンと響かせながら、行き来する小型の船で、昔は渡し船などによく利用されていた。
 このポンポン船をモデルに作られた図1のような、おもちゃのポンポン船が夜店の屋台やおもちゃ屋さんで売っていた。 このポンポン船もポコポコという音を出して、水面を走り、かわいく、夢のあるおもちゃだ。

図1 おもちゃのポンポン船

 おもちゃのポンポン船は船内に扁平な楕円形の小さな金属製ボイラーがあり、ボイラーの底部に2本の金属製の細い管が接続されている。 この管の開口部は船尾から水中に出ている。ボイラーと管内を水で満たして、ボイラーをローソクの炎で加熱すると、船尾の管から水の噴出・吸入が繰り返されて、 おもちゃのポンポン船を走らせる構造になっている。
 ボイラーを加熱して温度が水の沸点以上になると、水は沸騰し、蒸気の圧力で、管内の水を開口部方向へ押し出す。 ボイラーより出て管内へ入った蒸気は冷却されて凝縮するため、管内の圧力が低下し、水をボイラー方向に引き戻す。 引き戻された水の一部がボイラー内に入ると、再度加熱されて蒸発し、再び水を押し出すという動作が繰り返され、 管内では水が持続して往復運動(以下自励振動と呼ぶ)をし、開口部から水の噴出・吸入が繰り返される。
最近はアルミニウムや銅の細管を利用して図2 のように管をコイル状に巻いて、ボイラー部を作り、 おもちゃのポンポン船と同じ動きをする模型ポンポン船(以下ポンポン船と呼ぶ)を簡単に作ることができる。

   図2 模型ポンポン船

このポンポン船はエネルギー変換や蒸気の力等の教材として利用されているが、生徒達はその動きに強い興味・関心を示して、 積極的に製作に取り組み、さらに高性能なものを製作しようと、種々の工夫やアイデアを提案してくる。 その提案の中で「もっと大きなものを作りたい」「できれば自分達が乗れるような船を作ってみたい」という内容がきわめて多かった。 そこで、生徒達の夢を実現するべく、ポンポン船を大型化する方策を検討し、人が乗って走行可能な大型船を製作した。 
 
  2.大型ポンポン船の製作
 大型のポンポン船を作るためには、使用する金属管を太くする必要がある。 金属管を太くすると、細管のように金属管をコイル状に加工することは特別な設備がないと困難である。 筆者らが先に行った研究 (当HPのポンポン船1参照 :以下先の研究と呼ぶ)では、一端を封じた直管の封じた部分附近を加熱すると、 自励振動を起すことを実証しているので、大型化には金属直管を使用することにした。
 先の研究で、自励振動は管の内径が5mm以下の場合は安定して発生するが、管の内径を大きくすると、 安定して発生しなくなることが判明している。この原因は、管径を大きくすると、管内を往復運動する水の動きが乱れるために、 加熱部へ戻ってくる水の量が不規則になって、一定量の蒸気が周期的に発生しなくなるためと考えられる。
このため、太い管で安定した自励振動を発生させるには、往復運動する水から蒸気を発生させるのではなく、 別の方法で加熱部へ一定量の水を自励振動の周期に連動させて、定期的に供給すると、 安定した自励振動が得られるのではないかと考えて、図3のような装置を作って実験した。
 この装置では注水槽内の水は注水管を通って加熱部へ通じており、加熱部で蒸気が発生して、管内の圧力が高くなると、 注水管の水は注水槽方向へ押し戻される。管内の蒸気が冷却されて凝縮し、管内の圧力が低下すると、注水管から加熱部へ水が供給される。 注水槽の高さと注水管の太さを適当に調節すると、管内の自励振動の周期に連動して適当量の水を加熱部へ確実に供給できるので、安定した自励振動が得られる。  

図3  大型管実験装置

 
 今回の実験では注水管には外径3mm、内径1mmのアルミニウム管を用い、水が自励振動する管(以下動水管という) には外径19mm、内径17mm、長さ1000mmのアルミニウム管を用いた。実験用のガスバーナで加熱部を加熱すると、 1sec前後の周期で安定した振動が観察され、水槽中の動水管の先端からは勢いよく水が出入りする様子が観察された。
 以上の結果を受けて、大型ポンポン船の製作を行った。長さ約1mの板で、船体を作り、 図4のように、船体の中央部より前寄りに動水管を支える板を立て、外径19mm、長さ1300mmのアルミニウム管3本を平行に並べて固定した。 加熱部の上部より注水管を挿入し、注水槽と注水管は軟質ビニールパイプで繋いだ。 加熱には携帯ガスボンベに着けるバーナーを用いた。
   
図4 大型ポンポン船の構造
                
完成した大型ポンポン船を公園内の水路に浮かべて試走させたところ、人がゆっくり歩く程度の速度で、水面を走行した。 この実験の結果、金属管の太さ、本数を増やすと、さらに大きな船を動かすことが可能であると考えられる。 

ポンポン船の試走
クリックするとポンポン船の試走の様子が見られます。

 
 
   3.大型ポンポン船の作動安定化
(1) 冷却管の取り付け
 大型ポンポン船の出力を大きくしようとして加熱を強くして、走行実験を長時間繰り返していると、自励振動が徐々に不安定になってくる。 この現象を解明するために、動水管外側表面の温度分布を放射温度計(MINOLTA505S)を用いて詳細に観察すると、 加熱開始直後は加熱部附近の温度は240℃、加熱部よりの距離が200mmでは160℃、300mmでは100℃前後になり、 それより開口部方向では100℃以下になっている。その後、加熱を続けると、加熱部附近の温度は変化しないが、 100℃前後の温度部分が徐々に加熱部より開口部方向に移動し、加熱部からの距離が700mm以上になると自励振動が不安定になることが分かった。 この結果から、加熱開始直後の動水管中では加熱部で蒸発した水蒸気は加熱部から300mm附近で凝縮し、この部分を先端に管内の水が往復運動していると推測できる。 加熱を続けると、加熱部附近の熱が開口部方向に伝導し、管の温度は開口部方向へ向かって上昇するため、水蒸気が凝縮する部分は開口部方向に移動する。 このため、往復運動する水の先端も開口部方向に移動して行くと考えられる。
 先の研究で、加熱部から開口部までの距離が短くなると自励振動が不安定になるという結果が得られているので、 以上の実験結果は動水管内を往復運動する水の部分が一定距離以下になると自励振動は不安定になるものと推定できる。
この現象は加熱部での加熱量が管の空気中への放熱量を上回っている場合に発生すると考えられるので、加熱量を大きくするためには、 管の冷却を空中への自然放熱ではなく、水冷等の強制冷却を取り入れなければならない。 このため、動水管に図5のような水冷用の冷却管を設置して、水冷による強制冷却を行うと、動水管内の蒸気が凝縮する場所が一定となり、 動水管内の水の振幅を一定にすることができ、長時間安定した自励振動が得られた。

図5 冷却管を取り付けた動水管

(2)注水管へ逆止弁を取り付け
  加熱部への注水管からの注水は加熱部の圧力変化に反応して行われるので、自励振動に同期した最適のタイミングで注水を行うためには加熱の強さに応じて、 注水槽の高さを調節する必要がある。しかし、この調節はきわめて面倒なことであった。 そこで、注水管の途中に逆止弁を取り付けて、加熱部の圧力が高くなったときも注水管中の水が注水槽方向へ逆流しないようにした。 これで、注水管からの注水のタイミングが遅れることがなくなった。さらに、注水槽の高さを種々変化させて実験した結果、注水管に逆止弁を取り付けると、 注水槽の水面の高さはポンポン船を浮かせている水面の高さにしても支障がないことが分かった。 このため、注水槽を取り去り、注水槽に接続していた注水管の端をポンポン船を浮かせている水中に入れて、 水中より注水管へ水を供給することで目的を達することができた。

   4.自励振動の応用
  冷却管と逆止弁の取り付けにより、安定した自励振動が得られるようになったので、この運動をポンポン船の動力以外に応用することを考え、次の2点を試作した。
(1)水ポンプとしての利用
  図5の動水管の開口部に図6のような2個の逆止弁を取り付け、開口部を水中に入れて、加熱部を熱したところ、水は吸入口より吸入されて、 出口より勢いよく噴出し、ポンプとして利用できることが分かった。ただ、水の出口を高くすると、自励振動が不安定になったので、現時点で は高い位置への揚水には利用できない。

図6 水ポンプ用逆止弁

   (2)回転運動として動力の取り出し
 自励振動の往復運動をピストンとクランクシャフトを利用して回転運動に変換する図7のような装置を考案した。 この装置は動水管をU字型にして垂直に配置し、開口部にピストンを取り付けてある。自励振動によって動水管中の水が上下に往復運動すると、 ピストンも同じ動きをする。この動きがクランクシャフトを経てフライホイールを回転させる。 バーナーで加熱部を加熱すると、動水管中の水が上下運動をし、フライホイールは1秒間に約1回転する程度の速さで回転運動を行う。
 図7 回転運動への変換装置

   5.人が乗れるポンポン船の製作
  名古屋の中京テレビより、人が乗って走行するポンポン船の製作に協力して欲しいという依頼があった。 中京テレビが放送しているラブラボという科学実験番組で「水蒸気」をテーマにした放送に取り入れたいということであったので、 人が乗れるポンポン船を製作することにした。
 人が乗って動く舟を製作するには、先に作った大型ポンポン船をベースにスケールアップして、動力の出力を大きくする必要がある。 さらに、人が乗るので、安定性が良い船体を作らなければならない。このような条件を満足させるために、人が乗る船体部分は発泡スチロール製の双胴船とし、 その後部に動力部を配置することにした。

図8 ポンポン船のイメージ図

    動力部の出力を大きくする方法としては、先に製作した大型ポンポン船のパイプの本数を多くすることにした。 あまり大きくすると製作及び調整が難しくなるので、60kg程度の重量を動かすための最小限の動力として、 外径19mmのアルミニウム管15本を5台のバーナーで加熱して動力源とした。自励振動の安定性を増す方策として、 図9のように、アルミニウム管をS字に曲げて、下部を船底から水中に入れることで、管を水冷し、管の温度を上昇させないようにして自励振動の安定化を図った。

図9 アルミニウム管の水冷方法と逆止弁付き注水管
 
また、注水管への給水方法も大型ポンポン船の際に使用した注水槽を廃止し、注水管の途中に逆止弁を取り付け、水中から吸水することにした。
 こうして全長2m90cmのポンポン船が完成し、人を乗せて室内プールで走行させた。人がゆっくり歩く程度の速さで走行した。 その走行状況及び大型ポンポン船開発の経緯等が中京テレビで放送された。
 人が乗った船の画像及び走行中の画像は著作権の関係で、テレビ局よりホームページへの掲載が許可されなかったので、 残念ながらお見せすることは出来ません。
 

完成した船体

船首部方向より見たところ

 

船尾部方向より見たところ

 

加熱部

 

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