Ducks
あひるさんたち

 アイーダの散歩コースのひとつは、 当時わたしたちが住んでいたところの近くの人工池のまわりであった。わたしがそこを散歩させていたあるとき、水辺の植込みの陰の方へ、アイーダが強くわたしを引っ張っていった。そこには、ピーピーというような鳴き声を出しながら、ヒヨコが二羽いた。ヒヨコといっても、くちばしの形状からして、いかにもアヒルの子だった。ともかく、独力ではとても生きてはゆけない段階と思い、家に連れ帰った。
 ベランダで、たらいに水を張って、育てた。二か月ほどでかなり大きくなったが、一羽の方は足が全く不自由で、そのためでもあろうか、他方のアヒルを非常に信頼していて、離すとほとんどパニックともいうべき状態に陥った。池に戻すのは無理なので、二羽とも飼うことにして、しばしば元の人工池に連れていって泳がせた。
 さらに、大学の池で親からはぐれたアヒルの子やら傷ついたアヒルやら、何羽かのアヒルの面倒をみることにもなった。問題なく成長したアヒルは、人工池で暮させることにした。人工池のまわりは野良犬たちの生活圏で、アヒルが安全に暮らすことのできる場所ではなかったが、仕方なかった。毎日、朝夕、会いに行き、餌の世話をしていた。
 ちょうど、わたしは、認識のあり方、世界や人間の営みの意味ないし価値というようなことを考えていた時期であった。アヒルたちと暮らすということは、わたしに決定的に重要な意味をもつこととなっていった。
 そして、 「アヒルたちと一緒に暮す」という状態にもう少し近づけたいという気持が強くなり、アヒルたちと共に暮らすことに重点を置いた家をつくって、1990年の5月に引越した。あひるたちは「はねた」「ニーナ」「ぴよこ」の三羽。
 建物のプラン(平面配置)を「コの字」型とし、真ん中にアヒル三羽の住い(ネットによる囲い)がある。この囲いの内側と外側とにプラスティックの水槽を配置し、そのほかに庭のいくつかの位置で水が飲めるようにした。「コの字」の三辺に当たる位置に、居間、台所、そしてわたしの書斎があり、それぞれから真正面に、広めのガラス越しにアヒルの住まいが見える。アヒルたちは、昼間は、このネットによる囲いの外に出ている。書斎の真ん前で寝ていたり、庭のかなり遠くの方まで行っていたりする。

増成隆士 『感性の窓を開けて』(みすず書房、1997年)から(一部改稿)


 
 "はねた" との別れ
 

 "ニーナ"との別れ
 


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