DYNACO Mark3 真空管モノラルアンプの修理

令和5年(2023)4月15日 更新

電卓、時計に始まり、パソコン、カメラ、電話と身近な物が、デジタル化しています。オーディオの世界でも真空管アンプからトランジスターアンプ、デジタルアンプと進化してきました。しかし最近、50年前の真空管を使ったアンプが脚光を浴びて、オークションで話題になり、高額で売買されています、今回は、アナログ全盛時代の真空管アンプを修理して復活させてみました。昔、真空管アンプに挑戦したことがある人は、修理の参考にしてください

4月15日 更新 しばらく使用していたら、ヒューズが切れて電源はいらずの原因と対策が取れましたので 更新しました。
詳細は、諸問題の解決の2)に乗せてあります。

っかけは、高校時代の友人が、保有している、DYNACO MARK3 の修理依頼でした。
さびだらけで、外装のペンキは剥げて、電源スイッチ、スピーカーコネクタがさびついている状態の復活修理依頼でした。6か月近くかけて、外装、内部の部品交換、電源トランスの唸りの修理など、いろいろと苦労して修理して結果、高校時代の友人のDYNACOは、諸問題を解決して、昨年末に無事引き渡して、稼働しています。このアンプに関する画像がないので残念ながら、ホームページへの登録は諦めましたが、修理中に得た情報や知識を載せました。


DYNACO MARK3の諸性能
形式的には、高出力ビーム管の6550AもしくはKT-88のプッシュプル回路で、初段が6AN8整流管に5AR4 またはGZ34を使う出力60Wのモノラルアンプです。キットも発売されていました。50年前の当時1台80000円位のシステムです。


回路図は以下の通りです。


MARK3に先立ち EL-34のプッシュプルモノラルアンプのMARK2が販売されていましたが、出力が少し低い(50W)ので、さら出力アップしたMARK3が発売され、価格の割に、音が良いと話題なったアンプです。 またEL-34 プッシュプルのアンプをステレオ化した DYNACO STERO-70 も発売されました。
STERO-70は、初段の真空管が6AN8から7199に変更されて、現在真空管7199の入手が困難となっており、修復がかなり困難です。

本体の調達
本体は、オークションで電源確認済み、現状品を59000円で入手できました。程度の良いものは、8万円から10万円、メンテナンス済みで作動保証付きだと15万から16万円と高く、6万以下で入手できたのは、ラッキーかもしれません。

外装は、塗装されていましたが、さびた状態の上から塗装しており、表面がでこぼこです。
1台は電源は入り、真空管はヒートアップしますが、パリパリとノイズがひどくスピーカーが壊れそうで即、修理が必要でした。内部の状態は、一部電源のブロックコンデンサー周りとバイアス回路に修理されていましたが、サーキット基板は、オリジナルの状態でした。
もう1台は、電源スイッチの作動不良で、電源入らず、電源スイッチを交換後確認したところ、一応音出し可能で、内部もサーキット基板もオリジナルのままで、正規品と判断しました。
本体に装着されていた真空管は、整流管 DYNACO 5AR4 DYNACO 6550Aペアチューブ DYNACO 6AN8Aの3種類でした。製品発売当時のままの製品と推定されます。

   
   
オリジナル改造前  バイアス回路とコンデンサー追加修理後 
オリジナルサーキット基板 全部品交換後のサーキット基板
 修理完成品 外観 カバーを付けた時の外観 
   
   


部品の調達と修理
何しろ50年前のビンテージアンプですので、電源トランスも、出力トランスも販売されていません。幸い、真空管は、ポピュラーな球ですので、オークションで新品、未使用品が入手可能です。しかし現在製造されている真空管は、ロシア製と中国製の物で、対応品種も何時なくなるか不安です。市中在庫が無くなれば、真空管の入手は困難になるので、更新用の真空管は必須アイテムとなります。
コンデンサー、抵抗類も、何とか入手できます。ただし、オリジナルのBLACK CATのカプリングコンデンサは、ビンテージコンデンサーとして高価な物となっています。

1)電源回路のブロック電解コンデンサー
入手に一番苦労したのが、ブロック電解コンデンサーです。なんしろ高出力を得るために、真空管のスペックの上限に近いプレート電圧 480Vに耐えられる、電解コンデンサーが必要で、オリジナルの電解コンデンサーは、耐圧525Vの30μF+20μFX3ですが、オークションで確認するDYNACO MARK3は、たいていこの電解コンデンサーが経年変化で死んでいるものが多く、 事実先に修理した、友人のDYNACO MARK3 もこのコンデンサーが火を吹いたり、電源オンで高温になるなど、問題になっています。従て、耐圧に余裕がある、550V以上でかつ、47μFX4の容量が欲しいところです。
オークションでブロック電解コンデンサー 550Vで検索かけたところ、4本 1万円から1万2千円で550V 47μFX3が見つかり、やっと入手できました。残りは、550X47μFのチューブラー電解コンデンサーです、しかし550Vは市場になく、困っていました。
しかし、回路図を良く見ると、2本は、初段の6AN8のプレートにかかる回路の平滑用コンデンサーですで、6AN8のスペックからプレート電圧は最大330Vであるので350Vもあれば十分であることがわかりました。ただし、電源オン直後は、ヒーターが温まり電流が流れ出すまで、電源電圧の480Vがかかる可能性があるので、500V47μFのスペックにしました。

取り外した電解コンデンサーは、容量を測定した結果、経年劣化で規定の2倍以上の容量になっており、使用は不可と判断しました


2)カップリングコンデンサー
プッシュプルの真空管のグリッドに信号を伝えるコンデンサーで、音質に影響を与えるコンデンサーです。今回準備したのは、指月の630V 0.22μF ポリエステルフィルムコンデンサーです。合わせて初段のコンデンサーも指月の630V 0.1μF ポリエステルフィルムコンデンサーに変えています。オリジナルのBLACK CAT のコンデンサーと聞き比べしてあまり大きな音質の差はありませんでした。松下電気のポリプロピレンフィルムコンデンサーも使え取り外した、BLACK CAT のコンデンサーは、測定した結果、静電容量が約2倍あり、使用不可と判断しました。

3)抵抗器
オリジナルはカーボン抵抗器で外して抵抗値を測定した結果、規格の許容範囲±5%を大幅に外れてものが多く、サーキット基板の抵抗はすべて1Wの金属皮膜抵抗に交換しました。これで経年変化の防止とローノイズ化が図れると思います。
ブロックコンデンサーに半田付けされていた、初段の6AN8のプレート電圧を調整する抵抗(6800Ω)は、3Wの金属被膜抵抗に交換しました。

4) バイアス回路の電解コンデンサー
一台は液漏れしていたので、2台ともに70V 50 μFから高耐圧、大容量の電解コンデンサー 100V 100μFに変更して位置も変更しました。

5)NFBのコンデンサー
1000V 390pFと750pF のマイラーコンデンサーが搭載されていましたが、同容量のセラミックコンデンサーが市場に存在しないため、2個のセラミックコンデンサーを組み合わせて、テスターで容量を確認しながら400pF と750pFのコンデンサーを組み込みました。

6) MT管用の9P ソケット
パリパリとノイズが出てスピーカーを破損する原因としてソケットの接触不良や絶縁不良が推定されることと、基板のソケットの取付が悪く、グラグラと不安定でしたので、金メッキセラミックソケットに交換しました。結果的には、真空管に異常があり、この交換は不要でした。

7)電源SW
スライドSWの作動不良で電源が入らずが発生していたので、2台ともに電源SWを交換しました。サイズが同じSWは以下の型番です。
uxcell スライドスイッチ DPDT 2P2T 6A/125V 3A/250V 3Mの取付ネジ穴がSWに開いており取付が簡単です。

8)真空管の交換
パリパリノイズの対策として、搭載されていたDYNACO オリジナル真空管のうち 初段の6AN8Aを交換しました。更新した真空菅は
東芝製 6AN8 Hifi 仕様で中古ですが作動、性能確認済みです。2本で約3000円

部品交換後の作動確認
外して置いた真空菅をもとに戻し、8Ω20Wのセメント抵抗器をダミー抵抗として接続し、入力をショートプラグでショートして、電源オン 真空菅のヒートアップを確認、10分間通電後、バイアス電圧調整を実施した。前もって絞り込んで置いた、真空管に挟まれたボリュームを動かしながら、バイアス電圧をDC1.25Vに設定しました。なお、回路図上最適電圧は、1.56Vとありますが、先のDYNACO MARK3の修理で出力管のプレート電極が赤熱した経験があり、1.25Vとしました。この段階では、異常無し。

音出し確認
プリアンプ(LUXMAN CL-32)の出力をDYNACO MARK3のRCA INPUT端子に接続 スピーカー(PIONNER S-P710 15cmウーハー 3WAY 6Ω 50W)をコモンと8Ω端子に接続して、CDからの音声を再生 ガメラン ジャズ クラシックなど多様な音源で音出しを開始

30分再生していたら、少し歪が出て来たと感じた直後、スピーカーからパリパリと大きな音がしたので電源OFF、回路的にはすべて回路図にしたがって修復したので、DYNACO オリジナルの真空管であり、交換された気配がない、初段の6AN8が怪しい。
更新用に準備していた、東芝製 6AN8 Hifi 管に交換 再度音出し、1時間音出ししても異常がないので、2台ともに東芝製 6AN8 Hifi管に交換してさらに音だしとエイジングを実施 トータル 12時間エイジングしました。

バイアス電圧再調整して音だし再開
スピーカーをはずしてダミー抵抗に差し替え、ショートプラグをINPUTに接続してバイアス電圧確認、1.25Vに設定してたはずが、1.0Vになっていたので再度、テスターでバイアス電圧をDC 1.25Vに調整した。
修理の際にプリアンプ用のコネクターの8番にアースを接続して、7番+ 8番ーでバイアス電圧を測定可能にしてあります。

音量

PIONNER S-P710 に接続し、プリアンプはLUXMAN CL-32で出力をコントロールしています。ブルーレイプレイヤーからの入力でCDを再生して確認中ですが出力60Wは、十分な音量を得られます。ボリューム9時くらいで充分な大きな音がでます。

音質

電源を入れてすぐの音は、高音に癖がありややギスギスした音でしたがガメランでエイジングしたら、なめらかになりました。
真空管アンプに、やわらかい音を求める人は、最新のコンデンサーに変更すると音が変わるとか、真空管らしくなくなるとかいろいろな意見があると思いますが本来、アンプの機能を考えれば、忠実再生が本命で、色付けすることは邪道と思うおじさんです。やわらかい音を求めるならば、高価なビンテージコンデンサーを入手して、楽しめば良いので、それが正しい音と言えなくとも、趣味で音作りをすれば良いだけです。
修理復活したDYNACO MARK3の音は、真空管の音としては、イメージが異なり、ダイナミックで歯切れが良く、スピード感がある音です、特にウッドベースやピアノ、パカッションなどの音が極めて明るく現在普及しているデジタルアンプにも負けない再現性です。

クラッシック 室内楽、バロック
ストリングス:なめらかですがわずかですが高音に癖が残っています。しばらくエイジングしたら高音もなめらかになりました。やはり、エイジングは必要不可欠です。チェンバロの音は、キラキラと輝きます。

金管楽器:

やや明るめの音になります。モーツアルト「ホルン協奏曲」でバウマンの吹くナチュラルホルンの渋いドイツホルンの音色が、やや明るく輝きだし、フランスホルンの音色に近づきますが、アルプスを越えずに、ドイツ国内にとどまっている音です。トランペットのハイトーンが鋭く、明るく響きます。金管楽器の音は再現性がとても良好です。

パーカッション

鈴、トライアングル、シンバル、銅鑼(ドラ)、大太鼓とパーカッションの種類は、幅が広くかつ、ここぞとばかり鳴り響くので、指揮者に取って重要な楽器群です。これがさわやかに朗々と鳴り響くのです。しかし銅鑼(ドラ)のブーン、大太鼓のド、ドッド、ドーンの様な音を再生するには、15センチウーファーでは、役不足です。

ジャズ
ウッドベースが、すごく元気に鮮やかに再現します。ピアノのアタックが鋭く再生出来ますしブラスもドラムスもとても歯切れが良くて、パワフルスピード感ある音です。サラボーンのややハスキーな声がなまめかしく聞こえ、ささやきやつぶやきなどもなまなましく聞こえます。
ライヴ録音の拍手の音がすごく明るく迫力があるのは、高音の再現性が優れているか歪が少ないかとにかく臨場感あふれた拍手です。雑誌での評価でもジャズ向きと表現される意味がわかります。

空気感、臨場感の再生
グレゴリオ聖歌「サン・ピエール・ド・ソーレム修道院聖歌隊」で教会の鐘の位置の違いがはっきり判ります。ガメランの録音技師の鼻息や演奏者の息づかいなどが聞こえて来ます。定位感が良くなるかもしれません。パリノートルダム寺院で行われたクリスマスミサの音が天空へ抜けていく感じがとてもうまく再現されています。


総合判断
50年前のビンテージアンプは、部品交換でよみがえり、ダイナミックで歯切れの良い音を再現しました。回路の設計が優秀であったのか、現在のアンプと比較しても十分其の力を発揮できます。欠点をしいていえば、アンプが発生する熱がすごく冬場は、暖房代わりに良いのですが、夏場は、暑くて耐えきれないかもしれません。熱によるコンデンサーの劣化もありますのでクーリングファンの使用は必要です。電源を用意する必要がありますが、コンピューターの120mmケースファンは、静かで風量もありお勧めです。50mmや80mmのケースファンは、風量を得るため回転数が高くうるさいです。
                               

追加で諸問題の解説
先に修理したDYNACO MARK3 と今回の修理で発生した問題をまとめます。
1) 電源入らず。
 原因. 電源スイッチの故障 
 対策  スライドスイッチで耐久性が低く、作動不良が多いので、交換をお勧めします。同じサイズのスライドスイッチも入手できますが,
シャーシの加工が可能であれば、スナップスイッチへ交換するほうが良いと思います。

2)電源は入るがすぐにヒューズが切れる。
しばらく使えたが、突然ヒューズが切れて電源が入らずになる。
 原因1, NFB回路のコンデンサーの容量不足で初段の真空管が発振してプレート電流が過剰に流れてヒューズが切れる。
 対策1, NFB回路のコンデンサーの交換 4台の390pFのマイラーコンデンサーの容量を測定した結果、250pFまで低下していました。
      新品に交換するか、並列にコンデンサーを追加して400pF程度に増加させるのが好ましい。
 対策2,NFB回路の1Kオームと並行に接続されている、750pFのセラミックコンデンサーの交換 発振で容量が低下していることがあります。
     最近のテスターには、静電容量を測定できる機種があり、測定しながら組み合わせを確認して組み込んでください。
 
 
原因2 初段の6AN8Aの9Pソケットの絶縁不良 または接触不良
 対策 9Pソケットの交換 少々高額ですが、セラミック製金メッキ端子のソケットに交換するほうが望ましいです。
     この対策で4か月、原因不明でヒューズが切れて、入退院を繰り返していた、友人のDYNACO MARK3は、やっと完全復帰できました。

3)電源トランスがうなる。
  原因 電源トランスのコアに使われている鉄板が熱で接着剤(レジン)が溶けて剥がれている。
      剥がれた鉄板が電源オンで電磁石となったコアと触れてブザーのようにうなている。
  対策 電源トランスを取り外して、分解して、剥がれた鉄板を貼りなおし、(接着にはゴム系の接着剤がお勧めです。)
      コアの表面をサンドペーパーで研磨して清掃して、ラッカーで塗装して固定する(ペイントロック)
      乾燥後組みなおし、ネジで固定すると電源トランスの唸りを防止できます。 同様に出力トランスの唸りも対策できます。

4)電源ブロックコンデンサーが熱くなる。整流管のプレート電極が赤熱する

  
原因 ブロック電解コンデンサーの経年劣化で内部の電解液が変質している。絶縁性が低下して容量も変化している場合もあります。
  対策 ブロック電解コンデンサーの交換 
放置すると熱で内部の電解質が膨張して爆発することがあります。
      ほかの電解コンデンサーも膨らんだり、液漏れしている物は、交換してください。
      電解コンデンサーの寿命は短く50年前のビンテージアンプの使われている物は交換をお勧めします。

5)パリパリと真空管内部でスパークしている。スピーカーが、パリパリと音がする。
  原因 初段の真空管6AN8 の劣化。
  対策 パリパリとかガサゴソとノイズが気になるときは初段の真空管6AN8Aの交換をお勧めします。(オーディオ用のローノイズタイプにはAのマークが
      付加されています。Toshibaの真空管ではHifi 表示)
      放置するとスピーカーに過電流がながれて故障の原因になります。

6)音がやわらかくなる。音に力がない。
 原因 整流管の劣化
 対策 整流管が劣化するとプレート電圧が減少して電源のパワーが下がる場合があります。
     整流管は、比較的寿命が短い真空管で予備は必要です。時々交換して音に変化がないか確認して早めに交換をお勧めします。
     一般に真空管の音がやわらかいとされるのは、整流管の劣化が原因で甘くなっている場合もあります。
     良く真空管を交換したら音がすごく変わったといわれるのは、ここら辺が原因です。

真空管更新時の注意点

出力管の6550AやKT-88は、
同じメーカーの2本の性能がそろったペアチューブを購入してください。
プッシュプル回路では、2本の性能がそろっていないと故障の原因になります。
真空管の着脱を素手で行うのは、指の油が残り焼きつくことがあり厳禁です。
布手袋や清潔な布を使って着脱してください。
バイアス電圧は、出力のプッシュプル真空管 6550 やKT-88を更新したときは、必ず、調整してください

バイアス電圧は、出力管がヒートアップしてから、30分ほど経過後安定してから調整してください。
10時間程、エイジング(慣らし通電)
再度バイアス電圧を確認してください。また、しばらく使用してなかった時にも必要です。


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