+++ afterward of ELNARD +++
4
紅茶を入れる手を止めて、シーダはそれにしても、とふと笑みを浮かべた。
「よく私だとお解りになりましたね」
「…何だそれは」
そう言ってから間をおいて、レジースは問い返した。
「それはシーダの話かそれともウィルのことか?」
ああ、と彼に向けられた華奢な背中が揺れた。笑っているようだった。
「そう言われれば両方ですね……一応、ウィルミーの方のつもりでしたが」
湯気の立ったカップをレジースの前に置き、自分の分は持ったまま彼の横へシーダが座る。それをちらと横目で見、レジースは目を閉じてソファにもたれかかった。
「簡単だ」
「…え?」
シーダが首を傾げる気配。それが何故だか可笑しくて幽(かす)かに口元が緩む。
「シーダであるということは魂の輝きで判った。シーダが俺を懐かしがるわけがない」
「それだけ、ですか?」
「俺はお前が五千年後に転生するのを知っていたからな。『懐かしい』と言われていかにもあいつの考えそうなことだと思い当たった」
しばらく考えて、やっとシーダはレジースの指している「あいつ」が誰であるかに気が付いた。
「レジース…神殿の中で『神』のことをそんな風に呼ぶのは」
窘(たしな)められてレジースは鼻先で嗤った。
「お前達にとってはどうか知らんが、俺達魔族にとってはあんな奴糞食らえだからな」
「レジース…」
眉をひそめるシーダの鼻先に指を突きつけ考えても見ろ、と続ける。
「今回の事にしたって全てはあいつの不始末だろうが。その挙げ句お前は殺され俺は過去の世界で全てを失った」
淡々としたその口調に隠れたレジースの想いを感じてシーダは目を伏せた。
…この人は本当に深い痛手を受けたのだ…全てを、失って。
―――「全て」を?
あの頃、この人にそんなに執着するようなものがあっただろうか?
『力が全て』―――それが彼の信条ではなかったか?
「…どうした。怒ったのか」
言葉を失ったまま自分を見つめているシーダにレジースが問うた。黙ったままシーダはうなだれた首を振り、金色の光が彼を彩る。
……「ウィルミー」だったのだろうか。彼が長い時を渡ってまで取り戻そうと思ったものは。
ぎゅ、とレジースの長衣の端を握りしめる。
「すみませんレジース…長い間お待たせして」
「―――」
しばらく何の反応も返ってこなかった。沈黙に耐えかねて、彼の表情を伺おうと視線を上げかけたシーダに声が降る。
「……信じられるか?お前に遭うためだけに繭に籠もったんだ、この俺が!」
自嘲に満ちた笑いを刷(は)いた声にシーダは顔を上げることが出来なかった。代わりに視界が潤(うる)む。
「レジース…私は昔、あの姿故に孤独でした」
同じ風貌を持つ同族すら存在せず、世界に唯一人。エイリアンと呼ばれ、村人達は誰も寄りつかなかった。
「けれど…《神の子》に生まれ変わったとて、状況は不思議な程変わらないんです」
親族も友もなく、魂は孤独なままで。
「…確かに、私を慕ってくれる人達は大勢いるのですからこんな事を言ってはいけないのでしょうけれど…」
寂しげに微笑んで、シーダは顔を上げた。そして改めて目の前の存在を見つめる。
「私を救ってくれたのは貴方でした…二回とも」
「…俺は何もしていない」
無表情を装った返答に頭(かぶり)を振ってもう一度シーダは彼に笑いかけた。
To be continued
相変わらずラブラブな感じですみません・・・。決して決してよこしまな気持ちで文章書いているわけでは無いのですが(汗)。
それはさておき一年ぶりの更新です。・・・しかもまるで夏休みの宿題のような切羽詰まり方ですね我ながら・・・。(01/08/31 up)