研究紹介

学士論文研究概要

テーマ
「仕事関数の変化」

 表面(固体表面の数原子層1nm)は結晶内部の三次元的周期性構造が一次元失われた二次元周期の状態として現れ、結晶内部とは異なった性質を持つことが知られている。表面が関わる現象に電子デバイスの寿命や劣化、絶縁破壊や表面短絡、酸化、腐食、触媒といった表面化学反応、脆性破壊などがあり工学分野でも問題になっている。そこで、結晶表面の性質を明らかにすることを目的に、その測定手段としてプロトタイプ多機能型LEED光学電子分光装置を作製した。この装置は低速電子回折LEED、オージェ電子分光法AES、電子エネルギー損失分光EELS、仕事関数の変化DF、全電流分析法TCSの測定をパソコンにより操作することができため、安全性が高まり迅速測定
によって表面の再汚染の影響を低減させることが可能となる。その結果、LEEDによるSi(111)面の表面結晶構造7×7の観察に成功し、コンピュータ制御による表面解析の可能性を示した。


修士論文研究概要

テーマ
「傾斜機能化によるn型PbTe熱電材料の性能改善と熱的安定化」

 熱電材料とはゼーベック効果またはペルチェ効果を用い、熱と電気エネルギーを直接変換するものでる。熱電材料の良否は、熱電能α
、比抵抗ρ、熱伝導率kで定義される熱電性能指数Z=α2/(ρκ)によって決定さる。修士論文で取り上げたPbTe系化合物は、n形中温用(400〜800K)熱電材料の中で最も優れたZを有す。我が国におけるPbTe系熱電材料の研究は1993年から異種材料接合や傾斜機能化による高効率エネルギー変換素子の開発を目的として始まった。熱電材料における傾斜機能化とはキャリア濃度、組成、組織といった熱電特性に関するパラメータを連続的に変化させ使用温度領域を拡大し、性能向上を図るというものである。反面、高温度領域での連続使用による熱電特性の経時変化、接合時の昇温による熱電特性の変化という熱的不安定性が問題となる。そこで、これらのことを踏まえ、PbTe系熱電材料のキャリア濃度傾斜化による高性能化と熱電特性の経時変化抑制および熱的安定化技術確立のための基礎的研究を行った。その結果、3段階にキャリア濃度が変化する傾斜構造を もつ焼結体では、単一キャリア濃度をもつ焼結体に比べ、より広い温度領域にわたり高い熱電性能を維持した。また、溶製材料および焼結体の熱伝導率は、その格子成分が絶対温度Tの逆数に比例し、結晶粒径依存性がほとんどないことを明らかにした。これをもとにn形PbTe溶製材料の性能指数Zの温度依存性を示した。さらにPbTe溶製材料および焼結体は開放状態の連続使用により熱電特性の経時変化が生じることを明らかにし、その抑制方法確立の必要性を指摘した。


博士論文研究計画

テーマ
「I-V-VI族化合物の熱電特性に関する研究」

 資源小国の我が国にとって、高効率な石油代替エネルギー変換材料やそれによるシステムの開発は最重要課題であり、熱電材料はその解決策の1つとしてここ数年来、研究が活発化している。しかしながら、我が国における熱電材料の研究および開発はBi2Te3系化合物を用いた電子冷却素子に集中しており、熱電発電用材料として実用された例はFeSi2系材料を用いたものなどごくわずかである。そのため、高性能熱電材料を用いた熱電発電素子の開発が早急に必要であると言える。これらのことを踏まえて、東京都立大学大学院修士課程在籍中は中温用(400-750K)n型熱電材料としてPbTeを取り上げ、傾斜構造化による熱電性能向上の可能性について検討した。その結果、n型PbTeに対し、電子濃度の傾斜化は熱電性能向上の有力な手段となり得ることを明らかにした。
 一方、中温用p型熱電材料に関する研究において、AgSbTe2系化合物は650 Kで熱電性能指数が1.9×10-3K-1に達するという報告がある。ところが、その優れた熱電性能の発現は経験にたよるところが大きく、その発現機構は理論的に明らかにされていない。そのため現在はAgSbTe2系化合物よりも性能の劣るPbSnTe系化合物が実用されており、高性能な新規中温用p型熱電材料の開発が急務であると言える。そこで、博士課程進学後は新規中温用p型熱電材料として期待されているAgSbTe2系化合物を取り上げる。
 近年の研究より室温近傍での実用熱電材料であるBi2(Sb,Te)3系化合物の熱電性能は、第二層として析出する過剰Teと密接な関係にあることが明らかにされつつある。すなわち、金相学的に析出した第二相が母相との複合組織を安定化させると共に熱伝導率を低減させ熱電性能を高めていると考えられており、このような複合組織がAgSbTe2系化合物に対しても形成されている可能性は高い。
 本研究ではAgSbTe2系化合物における組織の複合化が熱電性能に及ぼす影響を系統的に調べ、さらに、組成・組織を温度差方向に沿って傾斜化することにより、単一の組成・組織の材料よりも広い温度領域で優れた熱電性能を有する傾斜機能化熱電材料の実現を目指す。
研究計画としては、一方向性凝固法およびホットプレス法を用いて、AgSbTe2の複合組織を形成し、その熱的、電気的性質から電子伝導機構を明らかにする。また、複合組織の形態を光学・電子顕微鏡組織観察、X線回折、組成分析等により解析し、熱電性能を向上させる因子を系統的に明らかにする。これらの基礎的研究結果に基づいて高性能p型AgSbTe2熱電材料の創製を行う。
 実験はおもに科学技術庁金属材料技術研究所で行い、実験結果の解析および討論は慶應義塾大学で行う。