「そんなつもりじゃないの!」アリスは言い訳しました。「でもあなたって、本当に怒りっぽいわね」ネズミは返事をする代わりに、うなっただけでした。
「戻って来て、話を続けてよ」アリスはネズミの背中に向かって叫びました。周りのみんなも声を合わせて「帰って来いよ」と言いました。しかしネズミは苛立たしげに首を振って、足早に歩いて行ってしまいました。

「行っちゃうなんて、残念だなあ」ネズミが見えなくなると、オウムは言いました。年老いたカニは、これは良い機会だと思い、自分の娘に言いました。「ねえ、お前。あんな風にカンシャクを起こすもんじゃないよ」
「うるさいなあ」若いカニは、かみつきそうになりながら言いました。「お母さんみたいにのんきだと、カキだってカンシャクを起こすわよ!」

「うちのダイナがここにいたら良かったのになあ」誰に話すでもなくアリスは言いました。「ダイナだったら、すぐに連れ戻せるのに」
「もし良かったら、ダイナというのがどなたか教えてもらえますか?」オウムが言いました。

 アリスは熱心に答えました。いつでも可愛いペットの話をする準備ができていたのです。「ダイナはうちの猫よ。信じられないくらいネズミをとるのが上手なの。それにダイナが鳥を追いかけているところも見せてあげたいなあ。だってダイナったら、あっという間に小鳥を捕まえて食べちゃうんだもん!」

 アリスの一言が、大騒動を巻き起こしました。何羽かの小鳥たちはすぐに飛び去りました。年老いた1羽のカササギは、羽根で優しく自分のからだを包みながら「さあさあ、お家に帰らないと。夜風は体に良くないわ」と言いました。カナリヤは恐ろしげな声で、自分の子供たちに叫びました。「いらっしゃい! もう寝る時間ですよ!」 みんな色々な口実を作って、その場を立ち去りました。まもなくアリスは独りぼっちになってしまいました。

「ダイナのこと、話さなきゃ良かったなあ」アリスは沈んだ口調でひとりごとを言いました。「ここでは誰もダイナのことを好きにならないみたい。でも、誰が何と言おうと、ダイナは世界一の猫だもん。あーあ。ダイナー。もう2度と会えないのかな」アリスは寂しくて、またまた泣き出してしまいました。

 ところが少しすると、遠くからぱたぱたという足音が聞こえて来ました。アリスは、ネズミの気が変わって、話の続きをするために戻って来たのかと思い、顔を上げました。






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