鳳来湖の岩場を愛するクライマーの会

2009年3月8日 作成


お知らせ(残置物について)に対する説明


鳳来でのクライミングとアクセス問題への対応の経過をふりかえりつつ、残置物に関する今回の提案にいたった理由をまとめて説明しました。
なお、この文章は、『Rock&Snow』No.42(2008年12月)に掲載されたものの再録です。



「残置規制」は緊急措置として始まった

2000年、岡崎市の鳳来教育林に入っていたクライマーが管理人に立ち入り禁止と言われ、鳳来全体が登れなくなったら大変だと、その場にいたクライマーたちで岩場周辺の糞尿やゴミを掃除し、さらに残置ヌンチャクと残置荷物を回収しました。それらは岩場の登攀禁止になりかねないことへの緊急的な措置として半ば強引に行われました。そして、常連クライマーと、周辺地域のクライマー代表が集まり「鳳来の岩場を愛するクライマーの会」を作りました。会では方針として、岡崎市と正式に交渉して入山できるようにするため、クライマーへ禁止エリアの入山自粛を呼びかけることにしました。そして、ヌンチャクや荷物デポも一時的に禁止としました。また、ボルト破断による事故を防止するために、危険なボルトを打ち替え、終了点の目立つスリングも着色したチェーンに変えるなど、常連クライマーのボランティアで作業が進められていきました。
しかし、その常連クライマーや「愛する会」のメンバーも、人気ルートで危険なボルトの打ち替えがひととおり終わると、ほとんど鳳来へ来なくなりました。そして入山自粛や残置の規制をしたままで、岡崎市とも交渉せず、登りにも来なくなってしまいました。活動は停滞し、最初の問題発生から5年が経ちました。

そのころ鬼岩では、ヌンチャク回収のお願いに従い、雨が降りそうになると、みんな急いで危険極まりない回収をし始め、あわや事故発生かというような光景を目にすることがありました。しかし、お願いを出した側は、こんなに厳密に、しかも長い間守らせることになると誰も思わなかったのでしょう。だから、残置禁止とは言っても、事故が起きるような危険な状況で無理に回収しなくてもいいなどの詳しい説明はしなかったし、高難度ルートに多少残置が残るのは仕方ないが、大勢の中級者がそれをまねするからやはりよくないと、ルートを限定せず、画一的に残置しないように伝えたのだと思います。5年たっても、岩場では回収のお願いが厳密に守られ、そのうえ、暗黙のうちにお互い監視し合うかのような事態になり、なんのための回収かわからなくなっている状態に愕然としました。

3年前に、活動が停滞していた「愛する会」と、現状をなんとかしなければという意思をもったメンバーで現在の新しい「愛する会」が結成されました。来れなくなった人や続ける意思のない人はやめ、本来の目的である岡崎市との交渉を完遂するための再編成でした。市の他部署にクライマーがいたこともあり、すぐに教育林の管理担当課へ話を取り付け、課長と担当者との会議を開くことができました。その後、市の懸念に対する問題を考慮して、制限付きながら入山許可の要望書を提出したものの、1年以上たっても市からの回答はなし。会としてそれ以上の交渉をしない決断を下し、昨年3月、岡崎市教育林への入山自粛のお願いをとりやめました。
その一方、3年前から新城市教育委員会へ説明に行き、アウトドアスポーツによる地域再生に取り組んでいる新城市の推進会議に出席。クライミングという文化や、鳳来の岩場の世界的な価値を説明し、ボルトを打って登る鳳来の岩登りにも一定の理解を得ています。その年の清掃活動には、教育委員会の職員も鬼岩まで歩き、クライミングを見学して理解を深められたと思います。昨年行なった岩場からの救助訓練(セルフレスキュー訓練)には、クライマー30人と新城広域消防の隊員も多く参加され、救出のためのいろいろな情報の擦り合わせをすることができました。
 

現在の鳳来は事故防止が最重要課題

現在の鳳来は、外からの圧力がなくなっているのにお願いがそのままにしてあるという不自然な抑圧から、自分たちで監視し合い、クライマー同士のいがみ合いに発展するような状況になっています。事実、ここ数年、鳳来のクライマーから伝わってくる問題とされる情報は、ほかのクライマーの行動を見咎めた、いうなればクライマー同士の告げ口しかありませんでした。
今回の「残置禁止のルールを少し柔軟に考えよう」という提案は、緊急措置で出されたお願いが、年月を経て人に受け継がれたことによって本質と変わってしまったことを、いったん元に戻すために行なったことです。ガイドラインで「残置は連日トライする場合のみ」としていますが、事故が起きそうな状態での危険な回収も、もちろん例外ではありません。それなら普通の岩場の常識的な許容範囲でしょう。それが守られるなら、残置は、クライマーが誰もいない岩場に何日間も残ることはなく、残っても緊急的な場合のみのはずです。それでも非常識なことをするクライマーが多く、目に余る状況になるなら、再度の規制やほかの対策をとるべきと考えています。

鳳来の岩場は、クライミングの難しさを追求するという名目で、ボルトを打ってのルート開拓が始まりました。そのおかげで、今では国内屈指の難ルートができ、世界的にも有名な岩場として、クライミングの発展に少なからず役立ってきました。以前は上級者にしか登れなかったオーバーハングの岩も、今では人工壁のおかげで、中級者あるいは初級者までもが、頑丈なボルトの恩恵にあずかって登りに来るようになりました。
そんななか、当会からの残置禁止のお願いは「岩場はジムと違って毎日回収するものだ」という初級者への教育的側面も担っていたのかも知れません。明日も来るのに、そのルートのヌンチャクを回収し、また朝一番にヌンチャクを掛けなければならないことは、岩場のマナーを知らない人を説得するのにわかりやすいルールだったでしょう。
でも、アクセス問題は、初級者を教育するためにやっているのではありません。今一番の問題は、その初級者が岩場で事故を起こすかもしれないということです。人が増えたということは中級者、上級者も事故を起こす確率が高くなったということ。今、本質と違うことに気を取られている瞬間に、事故が起こって後悔するということが、本当にあるのです。

残置を絶対してはならないというのが鳳来のローカルルールで、それを守ることが鳳来でクライミングを続けるのに大切だと思って取り組んできた人には、心配や不満もあるでしょう。しかし、そのままにしておいて、それこそ死亡事故でも起こせば取り返しのつかないことになります。アクセス問題に対処する会としては、マナーがよくなるほうへ締めつけているほうが安心ですが、そのせいで事故が起これば、そのままにしていた責任と怠慢を問われることになるでしょう。
今回、いちばん身近で、何かあったら迷惑のかかる川合区に事前のお知らせが必要であろうと思い、区長さん宅へ説明にうかがいました。その際、川合区議会の議長さんにも一緒に話を聞いていただくことができ、区議会でこのことを伝えてくださるに至りました。もちろん、残置物の規制緩和によってまた新たな問題が起きたら、責任をもって対応する旨を説明しました。
アクセス問題でいろいろな規制をしている側として、私たちはその責任を感じており、そのままの状態でいいかどうか常に考え、悩んで行動しています。今の鳳来の状況は決して、大手を振ってクライミングできるというものではありません。キャンプ場や宿泊場所も便利ではないし、駐車スペースの問題も昔のままです。しかし、毎年の清掃活動などを続け、クライマーがマナーよくやっていることは、地元の住民に理解してもらっています。いろいろ状況が変化していくのに合わせて、規制もそのままにせず、変えていくことが必要だと思います。これからも、鳳来で登るためにはクライマーのみなさんの協力が必要であることに変わりありません。一人一人の理解と、責任ある行動をお願いします。

今年の清掃登山の日にも、川合の区長さんがあいさつに来られ、クライマーのみなさんへ、毎年の清掃活動をねぎらう言葉をいただきました。一方、国道から岩場までの民家のある細い道では車の速度を落として通過してほしいとの注意も受けました。実際に近くの交差点で交通事故があったそうです。岩場の麓の住民の方々と、これからもいいコミュニケーションがとっていけるよう、みなさんの配慮をお願いします。

(鳳来を愛するクライマーの会・南裏保恵)

INDEX

HOME