6.SiO2の構造変形とガラス構造(つづき)     このページや、下層のHTMLファイルに直接リンクされた方は、このボタンをクリックして下さい。

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6−3.シリカガラスの構造変形と温度や不純物の影響

  シリカガラスは、石英やクリストバライトなどの結晶型シリカに見られたような、SiO4四面体の秩序配列が無くなり、ランダムな(アモルファス状)連結に変化したものである 従って、その構造を図示するのは難しく、また、無意味でもある 三次元的に無秩序配列したSiO4連結網には、代表的かつ基本的な構造が存在しないからである
  シリカガラス(石英ガラス)の用途として最も多いのは、シリカガラスの低熱膨張性と高粘性などの特徴を生かした耐熱容器の分野である 半導体関連では、シリコンウエハーの熱処理容器やシリコン単結晶の引上げ用ルツボなど、12001450℃もの高温下で長時間連続使用する場合が多い そこで問題となるのは、シリカガラスの高温における粘性低下と失透現象(クリストバライト化)それに、シリカガラス中に含まれている微量不純物の拡散による被加熱物の汚染などである これらの現象は一概に“高温における不純物がシリカガラスの構造変化に与える影響”と言うことができる 本節では、シリカガラスが温度変化に伴ってその構造を徐々に変えていく様子を検証し、水分(OH基)やアルカリ金属あるいはアルミニウム(Al)などの不純物が、構造変化に与える影響について考えてみたい

(1)温度変化に伴うシリカガラスの構造変化とSiOガスの発生
  常温におけるシリカガラスの構造は、SiO4四面体同士がランダムに結合しながら、四面体の連結角(Si-O-Si結合角)が145±10°まで縮小していることは、6-1(3)で既に述べた通りである そして、SiO4四面体がランダムに連結していることと空隙率が大きいことから、温度上昇に伴いSi-O-Si結合角が拡がっても、歪みの逃げ場が十分に確保されているためシリカガラスの熱膨張率を非常に小さなものにしている
  ところが、シリカガラスを加熱して1050℃を越えると、熱膨張率がゆっくりと増加する傾向が現れる これは シリカガラスの中に、結晶型(SiO4らせん体)の微細構造が残っているためと考えられる そして、1550℃を越えた辺りから結晶型の微細構造がクリストバライト型に変わり、部分的なSi-O-Si結合の切断が開始されて、シリカガラスの粘性が急激に低下し始める 次に1700℃を越えると、クリストバライト型の微細構造はもちろん、ランダムに連結したSiO4四面体同士の連結の切断も始まり、粘性は更に低下して流動性が出てくる 純粋なシリカガラスの融点は1726℃とされているが、この時の粘性率(粘度)は107P(poise)位で、まだ“水あめ”程度の粘りが残っている
  更に温度を上昇させていくと、SiO4四面体同士の連結(Si-O-Si結合)の切断が進み、粘性もゆっくりと低下して、3000℃を越えるとほとんどが独立したSiO4四面体(珪酸イオン)に分解されるものと考えられる つまり、珪酸イオン(SiO4)4-は、3000℃の超高温においても安定な状態を保つことができるわけで、いかにSiO4四面体の珪素と酸素の結合力が強いかが分かる 3000℃付近での粘性率は0.11P程度と推定され、これはちょうど濃硫酸の粘性率に相当するが、常温における水(0.01P)よりもまだ高いのである また、硫酸イオン(SO4)2-と珪酸イオン(SiO4)4-とは、分子量とイオン半径がほぼ同じで、両者共に正四面体構造となっているなどの共通点が多い 但し、硫酸イオンは常温においても存在できるが珪酸イオンは高温の融体内でないと存在できない(低温では連結が進む)という違いはある
  それでは、水分の介在なしに、1550℃付近から Si-O-Si結合が切断され、温度が上昇するに従って珪酸イオン(SiO4)4-が形成されていく様子を、下の図 6-5 に示したβ-石英とシリカガラスの(便宜上クリストバライト型構造を平面化した)構造図と下記の化学式から考えてみよう
  従来から、シリカ(石英あるいはシリカガラス)を高温に加熱するとSiO2が分解され、一酸化珪素(SiO)と酸素(O2)になって蒸発すると考えられていた
  1900℃以上: 2SiO2O2↑+ 2SiO↑(一酸化珪素)       ・・・・・・・・(6-3a)
しかし、シリカはその構造上、単純にSiO2では表せないことは、これまでに何度となく述べてきている つまり、シリカはSiO4四面体が立体網状に連結した強固な化合物で(6-3a)式のような単純な反応は起こらないのである 従って、石英型構造から順に熱解離されていく様子を、化学式で表すと次のようになる(但し、
〔β-石英〕
  1550℃以上: (SiO2) → (SiO) + (SiO3) [単鎖状らせん体]     ・・・(6-3b)
  1720℃以上:  〃  → SiO↑[微量] + (SiO) + (SiO3) [微細構造] ・・・(6-3c)
〔シリカガラス〕
  1880℃以上:  〃  → (SiO↑+ SiO4) [少量] + (SiO) + (SiO3) ・・・(6-3d)
  更に高温で:   〃  → SiO↑[多量] + SiO4 [SiO4四面体]      ・・・・・・(6-3e)
      〔 つまり、(SiO)mSiO、 (SiO3)3 → 2SiO4SiO
  もっと高温で:   〃  → SiO4Si↑ [珪素原子]          ・・・・・・・・・(6-3f)
      〔 つまり、4SiOSiO4 + 3Si
  超高温下の気相で: Si → 4-Si4+ [珪素イオン]         ・・・・・・・・・(6-3g)
     〃   液相で: SiO4 + 4- → (SiO4)4- [珪酸イオン]        ・・・・・(6-3h)
  これらの反応は可逆反応であり、温度の上昇に伴い徐々に右方向に進行する もちろん、表示の温度条件以下でも反応は起こりうるしこの温度を越えた条件下でも反応が急速に進行するわけではない (6-3b)は石英が溶融を開始する状態を示し(6-3c)は冷却によってシリカガラスになり得る状態を意味している そして、(6-3d)でようやくガラス加工のできる粘性となり、(6-3e)以降では、SiO4四面体の比率が高くなって流動性が引き続き増加し、最終的には、液相中で珪酸イオン(SiO4)4-となって安定化し、正真正銘の液体となるわけである しかし、たとえ温度が石英の沸点である2950℃を越えたとしても、これらの熱解離反応は100%に達することはない

(a)β-石英の面投影図=(6-3c)式に対応 (b)シリカガラスの平面模式図
     =(6-3d〜f)式に対応
図 6-5 β-石英とシリカガラスの熱解離(分解)機構

  ところが、石英の融体に高電圧をかけると、比較的低温状態でも(6-3g,h)の反応が右に進み、自ずと他の反応も右方向に進む 特に、(6-3g)の反応は表 6-3 からも分かるように、珪素(Si)のイオン化エネルギーが非常に大きく、いかに高温であっても熱エネルギーのみでは100%の電離は難しいが、高電圧下では容易に電離することができるのである 従って、2000℃前後で適当な還元剤が共存した場合は、珪素イオン(Si4+)が容易に還元されて金属珪素(沸点2360℃)になるほか、還元剤に炭素(C)を使用した場合は、炭素と酸素の結合力の強さから最も安定な珪酸イオンをも分解し還元してしまうのである そして、これが金属珪素の製法であり、還元剤として炭剤の一部に生木のチップを使うのは水素の発生源として水分を補うためと考えられる
  Si4+ + 4HSi + 4H+ (陰極へ) [-2378+314×4=−1122kcal/mol]  ・・・(6-3i)
  (SiO4)4- +4CSi + 4CO + 4e- (陽極へ) [(150+34-255)×4=−284〃] (6-3j)
  また、(6-3e)の反応で生成した一酸化珪素(SiO)は非常に不安定で、容易に酸素と反応するほか、無酸素状態でも低温(約1500℃以下)になると分解反応が進み、金属珪素とアモルファス状のシリカに分かれてしまうのである もちろん、シリカの融体(液相)中では、容易に元のシリカガラスに戻ってしまうに違いない
  1500℃以下の気相で: 2nSiO → (SiO2)n + (Si)n [金属珪素]      ・・・(6-3k)
    〃   液相で: 2nSiOnSiO4 → (SiO2)3n [シリカガラス]      ・・・・(6-3l)
  このように、SiO分子は、珪素イオンの中でも比較的安定な Si2+表 6-3 のイオン化エネルギー参照)と、酸素イオン(O2-)とのイオン結合の性格が強いためか、沸点が1880℃とかなり低く、容易にガス化することができる しかし、融点(約1730℃)は、前述したシリカガラスと同様に明瞭ではなく、17301880℃の間では、分子状のSiO(融体)と共有結合性の強い直鎖状連結体(SiO)nとが共存しているものと考えられる
  いずれにしても、一酸化珪素(SiO)は結晶型シリカにせよ、シリカガラスにせよ、Si-O-Si結合の切断の際に発生し、1500℃以上の安定領域では、その時々の蒸気圧に応じて気化してくるのである また、純粋なSiOの蒸気圧は1880℃で1気圧となるが、石英やシリカガラスから発生する SiOは、(6-3c〜d)の熱解離反応がなかなか進まないため、かなりの高温にならないと1気圧に達しない これが、石英を出発点としたシリカガラスの沸点を、2950℃にも押し上げているゆえんでもある しかし、合成石英ガラスなどのように、完全なアモルファス状態に近いシリカガラスの場合は(6-3d)式にある結晶型の微細構造(SiO3)がほとんど含まれていないため、発生するSiOの量が相対的に多くなることが考えられる つまり、石英を溶融したシリカガラスに見られるような、Si-Oの結合力の格差はほとんど存在せず、平均的に弱いことからこのようなシリカガラスの沸点はかなり低く、2230℃というデータ(化学便覧参照)もある

(2)シリカガラスの粘性低下に及ぼすOH基などの不純物の影響
  理想的なシリカガラスの構造は、SiO4四面体が強固なSi-O-Si結合によって、完全に、かつランダムに連結した三次元ネットワークと言うことができる 従って、Si-O-Si結合の切断は、理論的には図 6-4 に示したような熱解離度と同様に、その粘性率の対数(logη)は温度の低下と共に、絶対温度の逆数(1/T)に対して直線的に低下していくはずである しかし、このような理想的なシリカガラスを得ることは不可能であり、実際には、Si-O-Si結合が不完全で、切断箇所にOH基などの不純物を抱え込んでいるもの、あるいは微細な結晶構造を残しているものなど、Si-O-Si結合の切断を促進(あるいは妨害)する材料には事欠かないのである

図 6-6 シリカガラスの粘性低下に及ぼすOH基と硼素
図 6-7 シリカガラス中の不純物とその結合状態

  シリカガラスの粘性率がOH基などの含有量によって変わる様子を右図 6-6 に便宜的に直線で示したが、1200℃以上の高温で使用する場合はシリカガラス中のOH基は100ppm以下でなければならない シリカガラスの粘性率が1013P(アニール点)以下になる温度では条件次第で容易に変形してしまうためである また、1014.5P(ひずみ点)以上の粘性率では 長時間使用してもほとんど変形せず逆に石英ルツボなどの外壁を 耐熱性のホルダーで支持した場合は、1010P程度の粘性率でも変形することは少ない そして107.6P(軟化点)以下の温度で シリカガラスは溶融し始めるが粘性の急激な低下は見られない
  しかし、シリカガラスの粘性を低下させる原因は、OH基だけではなく、次に挙げるような要因が複雑に絡み合って高温時におけるシリカガラスの構造を変化させている
 a)OH基から発生する活性水素(H
 b)塩素イオン(Cl-)による結合手の遮へい
 c)アルミニウム(Al3+)によるAl-同形置換
 d)アルカリ金属イオン(Na+K+ etc.)の移動
 e)硼酸イオン(BO3)3-の熱解離
  図 6-7 に、シリカガラス中におけるこれらの不純物の結合状態を示した SiO4四面体の連結環は、通常57個の四面体で形成されているがこれらの不純物の結合している部分は結合手が不足して 連結環が大きくなってしまうのである 図 6-7 には、その様子をSiAlBの結合手を1本省略して平面的に表してある 但し、(f)のチタニウムイオン(Ti4+)は、Si4+との完全置換型で粘性に対する影響はない
  シリカガラスのSiO4連結環は、温度が上昇するにつれてSi-O-Si角が拡大して徐々に変形する 従って、連結環が大き過ぎると “ねじれ”現象を伴って変形が拡大するためシリカガラスの粘性が低下してしまうのである また、これらの不純物の種類によっては高温時における粘性の低下を更に増幅させる作用がありその傾向は、BNa etc.>ClOHAl の順に大きいと考えられる 以下、各々の要素ごとにシリカガラスの粘性低下を増幅する作用について考えてみた

a)OH基から発生する活性水素による
             Si-O-Si結合の切断
  粘性を低下させる要因のうち、最も多いのがOH基である。 SiO4四面体がランダムに連結してシリカガラスとなる際に、SiO4四面体の全ての結合手(≡Si-O)が相手を見つけ、完全な連結網を形作ることは不可能に近い そして、手近にある水素原子(H)を捕獲して、容易にシラノール(≡Si-OH)を形成してしまうのである
  OH基(シラノール)の多いシリカガラスは図 6-7 に(a)で示したように結合手が不足する分だけSiO4連結環が大きくなり高温時における粘性を低下させている ところが、OH基の弊害はこれだけではない 1000℃を越える高温下では徐々にO-H結合が切断され始め、活性水素(H)が発生するのである 6-2(2)でも少し触れたが、OH基から発生する活性水素はSi-O-Si結合の切断・再結合を助長したり、アルカリ(Na etc.)や塩素(Cl)などの他の不純物と置換あるいは結合することによってシリカガラスの構造を変化させその粘性を著しく低下させている そして、この傾向はOH基の量にもよるが、1550℃を越えた辺りから顕著となり、シリカガラスの軟化点(融点)をも低下させることになる(図 6-6 参照)

b)塩素イオンによるSi-O-Si結合の妨害とOH基の活性化
  塩素イオン(Cl-)は、合成石英ガラスの原料に四塩化珪素(SiCl4)を使用した場合に多く見られ、SiCl4中のClSiに結合したまま残留するものと考えられる つまり、図 6-7の(b)に示したように、SiO4四面体の一角を塩素イオンで遮へいしているため、結合手が一本不足することになり、前記のOH基と同様に、高温時におけるシリカガラスの粘性を低下させている
  また、Si-Clの結合エネルギーは表 6-2 に示したように比較的小さく、1000℃以上の高温では熱解離反応がかなり進行する そして、発生した塩素原子(Cl)は原子半径が小さい(約1Å)ために、シリカガラス中を移動してOH基(シラノール)を直接アタックし、活性水素の発生を助長することが考えられる もちろん、塩素と水素は一旦結合して塩化水素(HCl)になるわけであるが、H-Clの結合エネルギーは≡Si-OHよりも小さく、活性水素(H)の発生量は、OH基単独の場合よりは多くなるに違いない 発生した活性水素はSi-O-Si結合を切断し、シリカガラスの粘性を更に低下させる

c)アルミニウムイオンによるAl-同形置換と不純物の引き込み
  アルミニウムイオン(Al3+)が、珪素イオン(Si4+)と同形置換し易いことは、3-3(2)で詳しく述べたが、シリカガラス中でもSiO4連結網の一角を担い、非常に安定した構造となっている そのため、Al-同形置換のみでは、結合手の不足によってSiO4連結環が大きくなるだけで、著しい粘性の低下は見られない
  ところが、原料となる石英中のAl-同形置換では、不足する正の電荷を1価のアルカリ金属イオンで補っている場合が多く、むしろ、Al-同形置換に同伴するアルカリ金属イオンの方が問題である アルカリ金属イオンの影響については後述するがアルカリがほとんど含まれない合成石英ガラスの場合でも、図 6-7の(c)に示したように正電荷の不足分を水素イオンで補われることが多い つまり、Al-同形置換によるシリカガラスの粘性低下は、最低でもOH基程度の影響は出ると考えた方がよい

d)アルカリ金属イオンの移動とSi-O-Si結合の切断部分の安定化
  アルカリ金属イオンは、上の図 6-7の(d) で示したように、Al-同形置換における正電荷の補償のために、近傍のSiO4四面体の余った結合手(酸素イオン)とイオン結合し、四面体の結合手を塞いでしまう場合が多い このような金属イオンを網目修飾イオンと言いアルカリ金属のほかアルカリ土類金属も同様の働きをする しかし、この状態ではOH基と同様、単に連結環を押し広げているに過ぎず、著しい粘性の低下にはつながらないがアルカリ金属の中でもナトリウム(Na)とカリウム(K)は酸素との結合力が弱く、1000℃以上の高温下では容易に解離してしまうのである 更に、微量不純物としてのこれらの原子の熱解離度はその分圧が低いために著しく増大していると考えられる また、表 6-3 にも示したようにイオン化エネルギーも非常に小さく、解離した酸素原子に電子(-)を与えてイオン化させ、自らも1価の陽イオンに変身する
  アルカリ金属イオンのイオン半径は、最大でも カリウムイオン(K+)の1.6Åであり、もちろん各々の原子半径よりはかなり小さく、シリカガラスの連続した空隙(半径1.8Å程度)内を動き回れるようになる イオン化したアルカリ金属は、シリカガラス中を動き回るだけで何もできないが6-2(5)でも述べたように、触媒としての能力は十分に持っている そして、OH基から発生した活性水素とペアになって初めて、高温下で大きな力を発揮するのである
  ≡Si-O-Si≡ + H → ≡Si-O-HSi≡   [ 30 kcal/mol]     ・・・・(6-3m)
  ≡Si-O-H → ≡Si-OH 〔ゆっくり〕         [ 120 〃 ]     ・・・・(6-3n)
  ≡Si-ONa+ → ≡Si-O-Na+ 〔ホール〕 [−205 〃 ]     ・・・・(6-3o)
  ≡Si-O-Na → ≡Si-O-Na+ 〔かなり遅い〕    [ 171 〃 ]     ・・・・(6-3p)
  ≡Si-O-Si≡ + + → ≡Si-O-Si≡      [−116 〃 ]     ・・・・(6-3q)
  つまり、(6-3m)式で 活性水素によって切断されたSiO4連結網は、(6-3n)式の熱解離後、他の結合手と再結合することによってシリカガラスの構造を変化させることは、OH基による粘性低下の一例として本項のa)で述べた通りである ところが、切断箇所の近くにアルカリ金属イオンがあると、(6-3o)のように優先的にSiO4四面体の酸素原子と結合し、他の結合手との再結合を妨害すると考えられる そして、(6-3p)のように非常に遅い速度でイオン解離が進み、SiO4四面体の一角(酸素)をもイオン化させて、より安定な(再結合を遅らせる)構造に変えている 結果的に、アルカリ金属イオンはこれらの一連の反応の中で、シラノール(≡Si-OH)の水素原子と置換し、自らもイオン解離することによって元のアルカリ金属イオンに戻るという一種の触媒的な働きをしていることがよく分かる しかし、SiO4四面体の結合手を封じている時間が長いため、OH基以上にシリカガラスの粘性を低下させることになる
  一般のガラスでナトリウム分の多いソーダ石灰ガラスが、700℃位の低温領域で軟化し始め、1400℃程度で泡切り(清澄作用)ができるほど粘性が低下(103P以下)するのも、このようなアルカリ金属イオンの効用と言うことができる また、似たような性質は2価のアルカリ土類金属にもあり特にイオン半径の大きいカルシウムイオン(Ca2+)は、K+Na+と同様にSiO4連結環を拡大して、高温時の粘性を低下させる働きも持っている 更に、カルシウムイオンは1価のアルカリ金属イオンよりも低温時におけるガラスの粘性や機械的強度に勝り、一般のガラスには無くてはならない副原料となっている しかし、これらイオン半径の大きい金属イオンが、SiO4連結環内を満たしているため、シリカガラスのような歪みの逃げ場が無くまた温度の上昇に伴うこれらの金属イオンと酸素イオン間の熱振動(イオン結合の特徴)によって著しい熱膨張性を示すのである

e)熱解離による硼酸イオンの生成とSiO4連結環の崩壊
  硼素(B)と酸素(O)の結合は、アルミニウム(Al)はもちろん、珪素(Si)よりも共有結合性が強い 表 6-2 からも分かるように、B-Oの結合(解離)エネルギーはC-O結合に次いで圧倒的に大きいことから、硼酸イオン(BO3)3-は非常に安定した化合物(原子団)となっている 硼素(B)はシリカガラス中において、上の図 6-7の(e)に示したごとく、Al-同形置換と同様に3個の酸素イオンと結合して正三角形を形成し、BO3の形でSiO4連結環の一角を担っている 従って、アルミニウムイオンによる粘性の低下と同じように、SiO4連結環の拡大や不純物の引込みなどシリカガラスの構造に一連の影響を与えていることは容易に想像がつく
  ところが、SiO4BO3が連結した Si-O-B結合では、B-Oの強力な結合エネルギーによって酸素が硼素に引っ張られるために、Si-Oの結合は逆に弱くなる傾向がある つまり、Si-O-Si結合の切断よりも比較的小さなエネルギーで、硼素原子の周りの3個のSi-O結合が切断され、BO3が遊離してくるのである しかし、発生したBO3は、シリカガラスの空隙中を自由に動き回れるような大きさではない BO3の遊離は、650℃を越えた辺りから徐々に増え始め、1500℃前後ではほとんどが遊離してしまうものと考えられる
  また、シリカガラス中に硼素の含有量が多かった場合、シリカガラス(石英ガラス)製造時の冷却過程において、粘性の低いうちにゆっくりと移動したBO3が寄り集まって連結し合い、酸化硼素(B2O3BO3正三角形の網状連結体)の微細な分離相を形成することがある 酸化硼素の沸点は約1500℃とかなり低いことから、1000℃以上の高温下でこのようなシリカガラスを使用した場合は、BO3連結網自体が切断され始め、ガス状の分子を生成するものと思われる つまり、(6-3b〜e)式に示したシリカガラスの熱解離のように、BO3に逆戻りするものが多い中で、シリカガラス内を自由に移動できるほど小さい、ガス状のBO分子などが発生するのである
  いずれにしても、BO3の遊離はSiO4四面体との連結を同時に3箇所切断するため、SiO4連結環をバラバラにしてしまうに違いない 従って、硼素はアルカリ金属以上にシリカガラスの粘性を低下させる作用を持っていると言うことができる そして、最も厄介な問題は、半導体用シリコンの溶融や熱処理の際硼素含有量の多い石英ガラスを用いるとガス状の酸化硼素などが発生してシリコン中に拡散してしまうことである
  化学実験などで使用される耐熱性の硼珪酸ガラスは、シリカガラスに次ぐ低熱膨張性と機械的強度を持っているが、これは、珪酸(SiO4)と硼酸(BO3)が網目状に連結し合っているためである しかし、一旦 800℃以上に加熱すると、BO3の切断が進んで軟化し始めることから、ガラスの成形加工はもちろん、1500℃前後の比較的低い温度でも溶融や泡切りを行うことができ、ガラスの製造を容易にしている

(3)シリカガラスのクリストバライト化とアルカリ金属などの影響
  シリカガラスを1000℃以上の高温で長時間使用すると失透する場合が多く、特に1500℃を越えた軟化点付近の温度ではその傾向が著しい この原因は、5-1(1)でも触れたように、SiO4四面体がランダムに連結しているシリカガラスが、高温の下にSi-O-Si結合の切断と再結合が促進され、より安定なクリストバライト型(結晶)構造に転換するためである そして、シリカガラスの冷却時にβ型のクリストバライトがα型に転移する際、微細なクラックが発生し、その部分が不透明になると同時に機械的強度を著しく低下させてしまうのである
  ところが、シリカガラス中にアルカリ金属イオン(特にNa+K+)やカルシウムイオン、あるいは水分(OH基)が多く含まれている場合は、1000℃前後の温度でも容易に失透現象を起こすことがある これは、OH基から発生する活性水素が原因となってSi-O-Si結合の切断・再結合が加速され、イオン半径の大きなアルカリ金属イオンやカルシウムイオンがランダムな再結合を妨害する形で結晶化が進むためと考えられる 1000℃付近で安定なシリカの結晶はトリジマイトであるが失透部分に出現する結晶構造は主にクリストバライト型でトリジマイトが確認されることは少ない これまでに何度となく述べてきたことではあるがトリジマイト型構造はいかに形成されにくいかがよく分かる 以下、シリカガラスからクリストバライトが形成されていく様子を、別々の温度領域に分けて考えてみた

a)10001500℃におけるクリストバライト化と金属イオン
  シリカガラスを1000℃以上の高温状態に長時間さらすと、シリカガラス中のOH基から活性水素(H)が発生し、Si-O-Si結合の切断と再結合が活発になって、シリカガラスの粘性を低下させることは既に述べた通りである しかし、1500℃を越えない範囲内では、OH基は単に粘性を低下させるのみであるが、イオン半径の大きな金属イオン(Na+K+Ca2+等)が多く含まれていた場合は状況が変わってくる
  活性水素によって一旦切断されたSi-O-Si結合が、他の結合手と再結合するより、遊離しているこれらの金属イオンと結合し易く、粘性を著しく低下させていることは前項のd)で述べた そして、この反応が幾度となく繰り返されることによってある一定の規則性を帯びてくることが考えられる つまり、これらの大きな金属イオンを取り囲むように、SiO4連結網の構造転換が進むのである クリストバライト型構造の空隙は、1500℃以下の温度領域では多少縮んでいるため、イオン半径が1.2Å前後のナトリウムイオン(Na+)やカルシウムイオン(Ca2+)にとっては、格好の“穴ぐら”となっている 逆の見方をすると、SiO4四面体がこれらの金属イオンを抱え込むようにして連結すれば自動的にクリストバライト型構造が形成されると言ってもよい もちろん、イオン半径が1.6Åのカリウムイオン(K+)や、0.9Åの1価の銅イオン(Cu+)でもクリストバライト化は促進され、これらの1価の金属イオンを引き込むために、Al-同形置換も重要な役割を担っていることは容易に想像できる また、温度が高いほどクリストバライト化の速度が大きいことは、改めて言うまでもない
  このように、1000℃以上の高温下におけるシリカガラスの失透現象は、OH基はもちろんイオン半径の大きな金属イオンが重要な役割を演じているのである ちなみに、OH基の豊富なゾル・ゲル法シリカガラスに、100ppm前後のナトリウムをドーピングした場合は、1200℃程度の温度でも数時間でクリストバライト化が完了するという報告がある(特許公報:特開昭63-166730)

b)15001700℃におけるクリストバライト化と水分の遊離
  シリカガラス中のSi-O-Si結合角は、1500℃を越えるとほとんどが180°になると考えられ、この状態で切断と再結合が行われると、酸素イオン同士の反発力から、SiO4四面体がtrans型に連結したクリストバライト型構造になり易い しかも、この時形成されるクリストバライト中の空隙は、半径1.75Åに相当するためカリウムイオン以外の金属イオンはクリストバライト化に関する大きな要因とはなりにくい
  この温度範囲では、6-1(2)で述べたように、OH基などの不純物の少ない結晶型シリカ(石英)でもクリストバライト化が進行する しかし、SiO4四面体のランダムな連結から成るシリカガラスの場合クリストバライト化のためには幾度も切断と再結合を繰り返す必要があるため、シリカガラス中のOH基の濃度は決定的な要因となっているのである 例えば、OH基が数千ppmも含まれているゾル・ゲル法シリカガラスと、OH基が100ppm以下のα-石英とでは、両者共に約1600℃・24時間でクリストバライト化するという実験結果がある(もちろん、アルカリ金属は両者共に1ppm前後と少ない) このように、シリカガラスは1500℃以上の温度領域において、アルカリ金属イオンなどの助けが無くても、水分(OH基)だけでクリストバライト化を完結することができるのである そして、OH基が豊富に存在した場合のクリストバライト化の速度は12mm/日程度と考えられる
  多量のOH基をその構造内に含んでいるゾル・ゲル法シリカガラスは、クリストバライト化という構造転換がゆっくり進むにつれて、Si-O-Si結合の切断・再結合の他にも、活性水素によるシラノール(≡Si-OH)の還元が行われる つまり、6-2(3)でも述べたように、活性水素によってシラノールのOH基が切断され、水(H2O)が遊離してくると同時に、半径の小さい水の分子(約1.3Å)は、クリストバライトの連続した空洞(最小半径=約1.3Å)を通過し時間をかけて系外に排出される
  ≡Si-OH → ≡Si-OH 〔シラノールの熱解離〕          ・・・・・・・(6-2f)
  ≡Si-OHH → ≡SiH2O 〔水分子の遊離〕          ・・・・・・・(6-2g')
  ≡Si-OSi≡ → ≡Si-O-Si≡ 〔クリストバライト型結合〕    ・・・・・・・(6-2h)
  もちろん、クリストバライト化することなしに、OH基の多いシリカガラスが1700℃以上の温度で急速に溶融した場合でも、活性水素によるシラノールの還元は行われる そして、急激に遊離した水分の影響で、粘性の低下したシリカガラスの融体内で発泡現象が起き冷却後のシリカガラスは“粟おこし”状の発泡体となる 遊離した水の分子は、空隙の大きくなった融体内を自由に動き回ることができるため水分子同士の凝集するチャンスが著しく増大したに違いない しかし、もともとシリカガラスはその構造上、OH基を含みやすい性質を持っているため、著しいOH基の減少は見られない これほどの高温下では遊離したH2Oも熱解離し易く、また元のシラノールに戻ってしまう場合が多いためと考えられる
  一方、天然のα-石英に多量のOH基が含まれている場合も、溶融の際に同じような発泡現象が見られる しかし、α-石英が溶融する場合は、空隙の小さいβ-石英を経てクリストバライト型構造になってから溶融するためにクリストバライト型構造内での遊離した水分子の移動と凝集には時間がかかり小さな無数の気泡を形成する傾向にある 発生した無数の小泡は分散したまま融体中に留まり冷却後は乳白色不透明なシリカガラス(不透明石英ガラス)になる 結晶型石英を加熱溶融したシリカガラスの融体は、2000℃の超高温下においても粘性(約105P)が高く、容易に気泡の移動合体はできないのである

  
6−4.シリカガラスの構造変形と製造方法による違い        目次:

  石英を加熱溶融して製造したシリカガラス中には、微細な結晶型の構造が残っているであろうことは、6-1(3)で既に述べた通りである ところが、シリカガラスの製法は石英の溶融法だけではない 製法の違いによっては、OH基など構造内に取り込まれた不純物の量が異なるため、各々の構造にはかなりの差異が認められシリカガラスの特性の違いとなって現れている シリカガラスの製法は、以下に述べるように概ね3種類に分類できる しかし同じ製法でも、加熱方法や原料の違いによっては不純物の量などに差が生じるためシリカガラスの構造自体も多少変化するものと思われる
  1)加熱溶融法天然の石英(α-石英)を高温(約2000℃)で加熱し、酸素イオン同士の反発力を高めてSiO4四面体の連結を切断する そして、生成した融体を冷却することによってランダムに再結合させる方法で、最も一般的な製法である 製造方法には各種あり、水晶粉を酸水素バーナーで加熱溶融しながら回転するインゴットの上に積層させる「酸水素溶融法(ベルヌイ法)」 水晶粉を入れた石英ルツボを黒鉛ルツボで保護し真空炉の中で高周波などで加熱溶融する「真空溶融法(Q&S法)」 更には、特殊材料でライニングされた溶融炉をガスバーナーで加熱しながら水晶粉を連続投入し溶融する「直接溶融法(各種あり)」などが一般的である
  2)乾式合成法四塩化珪素(SiCl4)を高温の酸水素炎中、10001200℃で加水分解(あるいは酸素雰囲気で間接加熱し、酸化分解)し、一旦 “スート(すす)”状の緩い結合をしたSiO4連結体(凝集体)を形成させる そして1800℃以上で加熱溶融後冷却して、SiO4四面体をランダムに再結合させる方法で、超高純度のシリカガラスの製造に適している 製造方法には数種あり、四塩化珪素から生成した“スート”をそのまま酸水素炎やプラズマで溶融しながら回転するインゴット上に積層する「ベルヌイ法」 一旦 “スート”を石英ガラスの表面に積層させ焼結後棒状に溶融固化する「VAD法(NTT法)、OCVD法(CORNING法)」などが一般的で前者のベルヌイ法は主に半導体製造のフォトマスク用に、後者は通信用光ファイバーに利用されている
  3)湿式合成法(ゾル・ゲル法)四塩化珪素にアルコールを反応させて生成したアルコキシド(テトラアルコキシシラン)を、水中で加水分解して、コロイド(ゾル)状の緩い結合をしたSiO4連結体(凝集体)を形成させる そして、このゾルを沈澱させて寒天(ゲル)状にしてから脱水乾燥を行い、11001300℃でゆっくり加熱してSiO4四面体の連結を促進させる方法で、高純度のシリカガラスが比較的低コストで製造できる なお、珪酸ソーダ(水ガラス)溶液を酸で中和する方法もあるがナトリウムなどの不純物が多く、四塩化珪素を原料としたシリカガラスとは多少異なる

(1)α-石英の加熱溶融法によるシリカガラスと構造内の不純物
  天然の石英(α-石英)を急速加熱した場合、6-1(2)で述べたように、石英型構造としてのSiO4らせん体は、軸方向の切断によってクリストバライト型のらせん体に変わる そして6-1(3)のごとく、約2000℃もの高温では、クリストバライト型らせん体が軸方向に切断されて溶融状態になる しかし、この融体内には、クリストバライト型の微細ならせん体が かなり残っているものと考えられ、冷却して生成したシリカガラス中には、Si-O-Si結合角が縮小したクリストバライト型らせん体や温度低下によって転移した石英型らせん体が、結晶型の微細構造を形成している
  一方、天然石英はその構造中に、Al-同形置換やそれに伴う1価の金属イオンの取り込みなど、様々な不純物が含まれていて、天然石英の純度にもよるが水晶などの高純度品は、対Siモル比でおおよそ、Al:50,Ti:3,Li:10,Na:5,K:3,B:2,OH:200ppmとなっている このうち、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)及び硼素(B)は珪素(Si)との置換型で、また、アルカリ金属(Li,Na,K)と一部のOH基はAl-同形置換の電荷補償型になっている 更に、大部分のOH基は結晶欠陥(SiO4らせん体の切断部分)に捕捉される形で、それぞれ、ほぼ均一に分散しているものと考えられる
  加熱溶融でシリカガラスの融体を2000℃近くの高温状態にさらした場合、熱解離が進んでこれらの不純物の一部は失われる 特にアルカリ金属のうち、イオン半径の小さいリチウム(Li)はその大半が、またナトリウム(Na)はその一部が失われて、各々のモル比はカリウム(K)と同じ3ppm程度に低下する しかし、OH基は加熱の条件によって大きく左右され、電気加熱による長時間溶融ではモル比で約50ppmに、真空溶融では5ppm程度まで低下するものの、酸水素炎で溶融した場合は、逆に800ppm近く(重量比で200ppm以上)まで増加することがある
  このように、天然石英の加熱溶融法によるシリカガラスは、結晶型シリカの微細構造が多いことと、Al-同形置換の多いことが大きな特徴で、OH基は比較的少ない部類に属している 特に、電気溶融によるシリカガラスの構造は、純粋なSiO4四面体から成る57角環を中心とした連結網の中に、約1/10000の確率で、図 6-7 に示した(a)(c)(d)の拡大環(構造変形)と一部(e)(f)の置換型モデルが均一に分散している形が考えられる そして、総合的には結晶型の微細構造が強固な骨組みとなっているためこれらの不純物の影響を打ち消して、比較的粘性の高いシリカガラスを得られるのが大きな特徴である 中でも、真空溶融によるシリカガラスは、OH基による(a)のモデルがほとんど無くなり、1000℃以上の高温時における機械的強度(粘性)が大きく、軟化点は各種シリカガラスの中で最も高い

(2)四塩化珪素の乾式合成法によるシリカガラスと構造内の不純物
  乾式合成法では、四塩化珪素(SiCl4)が1000℃以上の温度で酸素と直接反応し、SiO4四面体を形成すると同時に低度の重合(連結)も起こって、一旦 0.1μm以下の超微粒子(SiO2分子104個からできている平均径0.01μmの球状粒子)の緩い凝集体となる この白色スート状の凝集体を1800℃以上に加熱すると、比較的容易にSiO4四面体の連結が切断されて溶融するが、融体内部には結晶型シリカの微細構造(SiO4らせん体)はあまり見られない 従って、この融体を冷却することにより、ほぼ完全なランダム結合をした均質なシリカガラスが得られ主に、光学用(光ファイバー,フォトマスク)などの超高純度品として利用されている
  乾式合成法によるシリカガラスは、不純物が皆無のように思われがちであるが、実際には炉壁からのコンタミが無視できず、その上、多量のOH基や未反応の塩素(Cl)を含んでいるのが普通である OH基を含む理由としては、通常次式のように、酸水素炎中で加水分解してスートを形成することやプラズマ炎による酸化分解でも、原料のSiCl4中に一部水素化されたトリクロルシラン(SiHCl3)などが、不純物として混入していることが挙げられる つまり、スート状の凝集体を構成しているSiO2超微粒子は、SiO4四面体の急激なランダム結合によって形成されているが連結すべき相手の結合手が見つからない場合、手近にある水素原子(H)と容易に反応してシラノール(≡Si-OH)を形成してしまうのである もちろん、結合相手のほとんど無い粒子表面には、無数のシラノールが形成されることになる図 6-7 参照)
  気相加水分解: nSiCl4 + 2nH2nO2 → (SiO2)n + 4nHCl      ・・・(6-4a)
   〃 (水蒸気使用): nSiCl4 + 2nH2O → (SiO2)n + 4nHCl      ・・・・(6-4b)
  気相酸化分解: nSiCl4nO2 → (SiO2)n + 2nCl2          ・・・・・・・(6-4c)
   〃 (一部): 4SiHCl3 + 5O2 → (SiO2)4 + 6Cl2 + 2H2O       ・・・(6-4d)
  α-石英を加熱溶融した場合は、一旦切断されたSiO4四面体の再結合の相手は常にその近くに存在しているが、合成法の場合はそれがほとんど保証されていないのである 結果的に、同じ酸水素炎で溶融あるいは合成しても発生するシラノールは合成法の方が圧倒的に多くなることは明らかである また、同様のことは、珪素と酸素が出合って結合する確率についても言うことができ生成したスートの中には、かなりの量の塩素が珪素と結合したまま残留しているものと考えられる これらのシラノール(OH基)や塩素は、スートを1800℃以上の温度で溶融する過程において、次式のような反応で除去されるものの完全ではない
  ≡Si-ClH-O-Si≡ → ≡Si-O-Si≡ 〔シロキサン結合〕 + HCl   ・・・(6-4e)
  ≡Si-OHH-O-Si≡ → ≡Si-O-Si≡ 〔   〃   〕 + H2O     ・・・(6-4f)
  また、OH基を完全に除去するには、高温のスートの状態で塩化チオニール(SOCl2)や塩素(Cl2)ガス処理を行う方法もあるが、シリカガラス中の塩素の含有量が増えるという欠点がある
  ≡Si-O-HSOCl2 → ≡Si-ClHCl↑+ SO2↑          ・・・・・・(6-4g)
  従って、SiCl4からの乾式合成法によるシリカガラス中の不純物は、対Siモル比でおよそ Cl250ppm(重量比で約150ppm、ベルヌイ法では同70ppmOH3000ppmとなっている しかし、上記の塩素ガス処理によっては、OH基を大幅(1/10以下)に減少させることができるものの、逆に Clがモル比で500ppm以上に増加している このように、乾式合成法によるシリカガラスは結晶型シリカの微細構造が少なく金属イオンもほとんど含んでいないが、OH基と塩素分とが約1/1000の確率で、SiO4連結網の中に、図 6-7の(a)と(b)の形で均一に分散していて、1000℃以上の高温時における機械的強度(粘性)が小さく、軟化点も低い

(3)四塩化珪素のゾル・ゲル法によるシリカガラスと構造内の不純物
  四塩化珪素(SiCl4)を直接水に入れると、激しく反応(発熱反応)して塩酸と珪酸になる
  SiCl4 + 4H-OH → 4HClSi(OH)4↓〔珪酸〕
               [(95+120-102-150)×4=−148kcal/mol]       ・・・・・(6-4h)
  珪酸はH4SiO4としても表せるが、構造的にはSi(OH)4とした方が実際に近いと思われる つまり、SiCl4H2Oの反応があまりにも速過ぎるため、Si4本の結合手がほとんどOH基と結合してしまい、SiO4四面体同士の連結があまり進んでいない低重合度の珪酸になってしまうのである 従って、SiCl4H2Oを直接反応させて重合度の進んだSiO2粒子を形成するためには分子がまばらな状態で分散している水蒸気を用いた前記の気相反応の方がよい
  液相反応でSiO4四面体の連結を促進するためには、SiCl4(沸点58℃の揮発性液体)を、一旦 水との反応性の弱い化合物、すなわちSiCl4とアルコール(R-OH)を反応させたアルコキシド Si(O-R)4などに変換しておく必要がある。 SiCl4とアルコール(C1〜C3)の反応も発熱反応で、むしろ上記の水以上に激しく化合するため、100℃前後の気相で反応させた方がコントロールし易い
  SiCl4+4CH3O-H → 4HClSi(OCH3)4 〔テトラメトキシシラン〕
      〔メタノール〕    [(95+104-102-150)×4=−212kcal/mol]       ・・・(6-4i)
  SiCl4+4CH3-OH → 4CH3Cl 〔塩化メチル〕 + Si(OH)4↓〔珪酸〕
                  [(95+85-80-150)×4=−200kcal/mol]        ・・・(6-4j)
  これらの反応式からも分かるように、メタノール(沸点65℃)中のC-O結合はO-H結合より弱く、通常の反応条件では塩化メチル(沸点−24℃)の生成量が無視できないと考えられる 幸いにも、100℃前後の温度条件では、生成したテトラメトキシシラン(沸点121℃)は液体として反応系外に取り出すことができるものの塩化メチルや珪酸の生成は何らかの触媒を用いて抑制する必要がある 分離後精製され、塩素分(溶解しているHClSiCl4)を除去したアルコキシドは、適量の水を加えて加水分解するとアルコールが分離し、ゆっくりとSiO4四面体の連結(重合)が進んでアモルファス状のシリカガラスから成る微細粒子(ゾル)を形成するのである
  nSi(OCH3)4 + 2nH2O → (SiO2)n + 4nCH3OH            ・・・・・・(6-4k)
この反応式を1モル単位に分解してみると次のようになる
  (CH3O-)2Si(O-CH3)2 + 2H-OH → =SiO2= + 2CH3O-H + 2CH3-OH
               [(150+85+120-150-104-85)×2=32kcal/mol]       ・・・(6-4l)
  コロイド状のゾルは、加温しながら時間をかけて攪拌すると凝集粒が成長し、更に静置することによって、SiO4四面体の緩い結合から成る寒天状のゲルに変わる しかし、アルコキシド中のR-O(R:アルキル基)の結合エネルギーはSi-Oよりも小さいため、ゾルやゲルの形成過程中一貫してR-Oの切断が優先し、次式のように、OH基がシリカガラス中に取り込まれ易くなっている また、最悪の場合は、珪酸となってSiO4四面体の連結を妨害する場面も出てくるに違いない 従って、水の過剰投入を避けることや、pH調整によってH2Oの解離をコントロールするなど、何らかの防止策が必要となる
  CH3O-Si(O-CH3)3 + 3H-OH → -Si(OH)2O- + CH3O-H + 3CH3-OH
         [150+85×3+120×3-150-120×2-104-85×3=16kcal/mol]  ・・・(6-4m)
  Si(O-CH3)4 + 4H-OHSi(OH)4↓+ 4CH3-OH
                   [(85+120-120-85)×4= 0 kcal/mol]        ・・・(6-4n)
  シリカガラスの構造内に取り込まれたOH基は遊離している水分とは異なるため、ゲルをゆっくり加熱昇温する過程において、100500℃間の乾燥工程(脱水、脱アルコール)では、OH基をほとんど除去することはできない しかし、5001000℃間の焼結工程(ゲルのホモジナイズ化)では、(6-4f)式のように粒子表面のシラノール(≡Si-OH)同士の脱水縮合(SiO4四面体の連結)が進み、遊離した水の分子は焼結体内部の毛細孔(乾燥剤のシリカゲルはこの毛細孔の水分子吸収力を利用する)を通って、外部に排出されるのである
  シリカ微粒子の緩い結合体であるゲルは、シリカ微粒子の表面をおおっていたシラノールのため、OH基の含有量は数%(数万ppm)に及んでいるものと考えられる 焼結工程では、このうち粒子表面のシラノールは脱水縮合反応で失われるもののシリカ微粒子内部に取り込まれたOH基は、SiO4四面体の結合相手を自由に探すことができないためほとんどが脱水縮合できずにそのまま残留する 従って、焼結後のゲルは1ppm以上ものOH基を含んでいると考えられ、OH基を更に減少させるためには、焼結を真空中で行ったり塩素ガスを充填する方法もあるが、1000℃以下の温度ではOHの熱解離度が低いため、OH基を大幅に減少させることは難しい
  焼結を十分に行ったゲル中のシラノールは、シリカ微粒子内部に均一に分散しているため、その後の11001300℃におけるガラス化の工程では、O-H結合の熱解離で発生した活性水素により、Si-O-Si結合の切断と再結合が著しく促進される 粘性の低下したゲルでは、ゆっくりと毛細孔が閉塞され次第に透明なシリカガラスに変わっていくがこの間、水分子の遊離は(発泡を避けるため)時間をかけてゆっくりと行われ流動性の増したシリカガラス中を拡散して系外に排出される しかし結果的に、ガラス化の工程でも大幅なOH基の減少は望めない
  このように、ゾル・ゲル法によるシリカガラスは SiO2-H2O系のガラスと言うことができ、構造内に含まれるOH基は、対Siモル比でおおよそ13ppm(重量比で3千〜1ppm)にも及んでいる もちろん、反応や加熱に使用する容器(例えばステンレス)から混入する不純物も無視できず、脱OH処理を行った場合はCl分もかなり含んでいる つまり、SiCl4からのゾル・ゲル法によるシリカガラスの構造は、不純物として主にOH基を約1/100の確率で含み、SiO4連結網の中に 図 6-7の(a)の形で均一に分散しているのである そして、結晶型シリカの微細構造は皆無に近く、機械的強度は小さい 更に、多量のOH基のために軟化点も低く、1500℃前後の温度では容易にクリストバライト化が起きてしまうために、OH基を減少させる目的で高温処理することは不可能である また、1700℃以上の高温下では、前節の6-3(3)b)でも触れた多量の活性水素によるシラノールの還元が急激に進み遊離した水分子の凝集による発泡現象を引き起こす場合が多い

(4)珪酸ソーダのゾル・ゲル法によるシリカガラスと構造内の不純物
  珪酸ソーダの製法は、天然の石英と カセイソーダ(NaOH)や炭酸ソーダ(Na2CO3)を混合し、1000℃以上の温度で溶融してガラスカレットにする方法とアモルファス状のシリカ微粒子とカセイソーダを直接反応させる方法がある 前者の珪酸ソーダカレットは、更に高圧水蒸気を用いてオートクレーブ内で水に溶解させまた後者の場合も、直接高圧水蒸気のオートクレーブ内で反応を促進することにより各々、珪酸ソーダが水に溶解した水ガラスとして取り出すことができる
  珪酸ソーダの化学式は、一般にはNa2OnSiO2n=0.55)で表され、n=0.5の場合は独立型(SiO4)4-で、n=1の場合は単鎖状(SiO3)2-というように、第3章で述べた珪酸塩鉱物の基本組成(表 3-3 参照)に対応しているようにも見える しかし、水ガラス中の珪酸イオンは独立型のSiO4四面体はもちろん、SiO4四面体が様々な形(アモルファス状)に連結したポリ珪酸イオンがナトリウム水溶液中に溶解(イオン解離)して分散していると考えた方がよい つまり、水にナトリウム塩として溶解できる最大のポリ珪酸イオンは、上記の化学式の n=5で表されるように、1000個前後のイオン化した酸素原子(≡Si-O- :シラノエート)を持ち、約2500個のSiO2分子から成るシリカ微粒子(半径約3nm30Å)が想定される そして、このシラノエートの大部分が粒子表面に集中し、表面積1nm2当たり89個のナトリウムイオン(Na+)がイオン結合しているものと考えられる
  このような珪酸ソーダ水溶液を原料とし、ゾル・ゲル法でシリカガラスを製造する方法としては、pH1以下に保って酸で中和する方法、イオン交換樹脂でナトリウムイオンを除去する方法更には半透膜やイオン交換膜を用いた電気透析法などがある これらの製法で最も一般的な硫酸による中和法は比較的粘性の高い水ガラスを硫酸溶液中に直接注入しナトリウムイオンを硫酸塩として溶液中に溶解させると同時に遊離したポリ珪酸の脱水縮合によるゲル化反応も行っている
  mNa2OnSiO2mH2SO4mNa2SO4SinO2n-m(OH)2↓[ゾル] ・・・(6-4o)
  xSinO2n-m(OH)2 → (SiO2)nxmxH2O [ゲル化反応]         ・・・(6-4p)
  一方、イオン交換法や電気透析法は、水で希釈した粘性の低い水ガラスから、主にナトリウムイオンを除去することによって一旦 シリカゾルを形成し、その後のpH調整と攪拌などにより前項のアルコキシド法とほぼ同様のゲルを得ることができる
  mNa2OnSiO22mH2O2mNaOHSinO2n-m(OH)2↓[ゾル] ・・・(6-4q)
この反応式では分かりにくいがシリカ微粒子の表面付近でイオン解離しているナトリウムイオン(Na+)を、イオン交換樹脂に吸着させたり、電気分解の手法で半透膜を通して分離してしまうのである 従って、シリカの粒子面には、除去されたナトリウムイオンと同数の水素イオン(H+)が付加されて、シラノール(≡Si-OH)が形成される
  このように、珪酸ソーダ(水ガラス)からゾル・ゲル法で生成したシリカガラスの構造は、アルコキシド法によるものと非常に似かよっているが、その構造内に含まれる不純物は大きく異なっている それは、珪酸ソーダが不純物の多い天然の石英から作られるためである 珪酸ソーダを水蒸気で溶解して水ガラスとした後、一旦水で希釈して粘性を低下させると強アルカリ性の珪酸ソーダ水溶液中ではアルカリ溶液に対する溶解度の小さい金属水酸化物は沈澱してくるので、かなりの金属イオン(Fe3+Fe2+Mg2+Ca2+ など)は濾過によって除去できる しかし、チタン(Ti)や一部のアルミニウム(Al)は珪素(Si)との置換型として、ポリ珪酸イオンの構造中に取り込まれる場合が多く濾過によって除去することは不可能である また、これらの金属酸化物が単独で存在する場合でも、各々チタン酸ナトリウム(Na2TiO3Na4TiO4)やアルミン酸ナトリウム(NaAlO2Na3AlO3) となって、アルカリ溶液に溶けてしまうと考えられる 従って、イオン交換法や電気透析法ではこれらのナトリウムイオンをほぼ完全に除くことができても珪酸イオンと行動を共にするチタン酸イオンやアルミン酸イオンを除去することは難しい
  ただ唯一、これらの金属不純物の平均的な除去が可能なのは、珪酸ソーダ水溶液を十分に濾過してから、硫酸などでpH1以下に調整しながら中和する方法であろう これらの不純物は、ほとんどが強酸に溶解するためで特にチタン酸イオンは硫酸によく溶けることが知られている もちろん、生成したゲルの洗浄は付着液に溶解しているナトリウムイオンやその他の金属イオンを除くためにキレート剤(EDTA)や過酸化水素(H2O2)を含んだ酸で十分に洗浄する必要がある
  ここまで精製されたシリカゲルは、アルコキシド法によるものとほとんど変わることはなく、その後の乾燥・焼成工程を経て焼成ゲルとなる しかし、中和法における唯一の欠点は、ゾルないしゲルを形成する反応速度が非常に速いため大きな空隙を内包する傾向が強いことである 空隙を埋めていた液体は乾燥工程で除くことができるが焼成工程においても空隙自体を除くことはできない もちろん、アルコキシド法でも見られた無数の毛細孔は、ガラス化の際に閉塞させることはできるがこの大きな空隙は完全に閉塞できず気泡として残るために珪酸ソーダの中和法によるシリカガラスは不透明になり易い
  以上のごとく、珪酸ソーダからのゾル・ゲル法によるシリカガラスの構造は、アルコキシド法によるものと似かよってはいるが、その構造内の不純物にはかなりの差異がある つまり、イオン交換法や電気透析法ではチタンやアルミニウムが残り中和法でも後処理の洗浄が完全に行うことはできずこれらの金属の他にナトリウムが残留する傾向にある またゾルやゲルを形成する過程で、終始一貫して過剰の水分の下に反応が進むため水分濃度をコントロールできるアルコキシド法よりもOH基が増加する傾向にある 結果的に、その構造内には約1/50(モル比で約3ppm)の確率でOH基が含まれていることと、アルミニウムとチタン及びナトリウムが、各々モル比で、Al:10,Ti:3,Na:5ppm程度、図 6-7の(a)(c)(f)(d)の形で均一に分散しているものと考えられる

 参考書・文献:
  1)「鉱物工学」(第五版) 吉木文平・著/技報堂/1968.9.15
  2)「化学便覧」(改訂3版) 日本化学会・編集/丸善
  3)「セラミックス」(シリカ特集・シリカガラスの現状と将来) 林瑛/窯業協会/1985.4.1
  4)「   〃   」( 〃 ・アモルファスシリカとその応用) 守山逸郎/ 〃
  5)「   〃   」( 〃 ・人工水晶の現状) 滝貞男・保坂正博/   〃

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