6.SiO2の構造変形とガラス構造         このページや、下層のHTMLファイルに直接リンクされた方は、このボタンをクリックして下さい。

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  前章の冒頭でも述べたが、天然石英の結晶構造内にはAl3+Ti4+を始めLi+Na+K+などの金属陽イオンや、OH-などの陰イオンが均一に含まれている場合が多い これらの不純物は、通常の物理選鉱や化学処理では除去することができず熱処理や高電圧処理など高度の精製技術が必要となる それでも、Al-同形置換などでSiO4四面体そのものと入れ替わっている金属イオンは、分離が不可能に近く水熱合成のような構造自体の再構築が必要となることもある
  しかし、これらの不純物は、高純度のシリカガラス(石英ガラス)にとっては不純物であるが、逆に一般のガラス(ソーダ石灰ガラス)や珪酸ソーダ(水ガラス)などでは副原料として重要な役割が与えられているのである 本章では、これらの不純物が石英やガラスの構造内にどのような形で取り込まれているのかまた高温・高圧下ではどういう挙動を示すのかを見極めあわせて、温度変化に伴う石英やシリカガラスの構造変化についても触れてみたい

  
6−1.石英の構造変形と温度・圧力の影響

  α-石英を加熱して徐々に温度を上げていった場合、573℃でβ-石英に転移するが、867℃を越えてもトリジマイトに転移することなく、約1550℃で溶融し始めることや、1550℃付近で長時間放置した場合、クリストバライトへの転移も同時に起こることは5-1(1)で既に触れた ここでは温度や圧力が、石英の構造にどのような変化を与えるのかについて考えてみたい このことは取りも直さず、超高温・高圧状態から温度が低下することによって形成された高温変成による石英の不純物の取り込み方法を検証することにもつながる

図 6-1 超高圧・低温下における極限状態のα-石英型構造

(1)低〜中温域における石英のα-β転移と圧力の影響
  図 6-1 に、α-石英の3回らせん軸対称構造を、極限まで押しつぶした状態(側面図で同じ斜線の酸素イオン同士が接触している)を示したが、この構造は、−273℃の極低温でも形成することはできず3万気圧もの大きな圧力が必要と考えられる この極限状態における Si-O-Si結合角は、SiO4らせん体の中心線に対する SiO4四面体の傾斜角:θを用いて、下記のように表すことができる(但し、酸素イオンの半径をRとし、他の記号は図中にオレンジ色の太線で表した補助線,,及びA,B,Cなどを参照
  cosθ=21/2R・cosθ,sinθ=21/2R・sinθ,
  A={31/2()+}/4,B={(3)+31/2}/4,
  C=より、各々の格子定数は、
  +31/2≒2.45R(0.577+cosθ)   ・・・・・・・ (6-1a)
  =3≒4.24R・cosθ       ・・・・・・・・・・ (6-1b)
 SiO4四面体の Si-Oの距離は (3/2)1/2Rで、側面図に示した Si-O-Siαは、(3/2)1/2Rを二辺とする二等辺三角形の頂角を成すため
  cosα={3R2−(A2+B2+C2)}/3R2
     ≒0.667−cos2θ−0.577・cosθ    ・・・・・・・ (6-1c)
 次に側面図に細かい斜線で示した2個の酸素イオン間の距離は、2Rであるから
  {3−()}2+()2=(2R)2 より
     cosθ(cosθ−2sinθ)=0 ∴ cosθ=2sinθ
 つまり=2でθ≒26.5°、(6-1c)式よりα≒130.5°となる
 そしてこのα角は、図 3-4 で示した Si-O-Si結合角の、極限値のひとつであることが分かる
 同様に、Si-O-Si結合の水平投影角βは
  cosβ≒(0.5・sin2θ−0.866・cosθ)/(sin2θ+cos4θ)1/2 ・・・・・・・(6-1d)
  これらの式は、傾斜角θが−26.5〜26.5°の範囲であれば適用できるがθ=0°を挟んで面に対して対称関係となっているためθの極小値は0°である この時、(6-1c)式のcosαは極小値をとり、α角の極大値はα≒155.5°となる つまり、下表に示したように、θ=0°でβ-石英型構造となりθ≒14.0°で常温におけるα-石英型構造になるわけである

θ 角 α β 角 (注2) (注2) 温度・圧力条件 適 用
    0°
 14.0°
 26.5°
155.5°
146.5°
130.5°
150.0°
146.5°
137.5°
5.0Å
4.9Å
4.7Å
5.5Å
5.4Å
4.9Å
573℃, 1気圧
  0℃, 1気圧
  0℃,3万気圧
β-石英
α-石英
(注1)
注1)コーサイトに転移する直前の構造  注2)格子定数の計算はR=1.3Åとした
表 6-1 α-石英型構造におけるθ角とその極限状態

  このように、α-石英型構造は、温度・圧力によって変化する Si-O-Si結合角を、SiO4四面体の傾斜角θを変えることによって調節できるというかなりフレキシブルな構造となっているのである そしてこの傾斜角θは常温・常圧において14°前後であったものが温度が上昇するにつれて徐々に縮小し(逆に Si-O-Si角が拡大し)、573℃付近で加速度的に極小値の0°に近づいてβ-石英型構造に変わる この間の傾斜角θの変化(すなわち Si-O-Si角の増大)は熱膨張となって現れるため、α-石英からβ-石英への転移は、構造の転換を伴わない単なる膨張率の急激な変化と見ることができる(図 6-2 参照)
  また、α-石英の線膨張率(実測値)は、軸方向より軸方向の方が約2倍と大きくなっているが、(6-1a)式と(6-1b)式を比較すると、cosθの変動が与える影響は (6-1b)式の軸方向の方が大きいことが分かる この原因として、実際のα-石英(水晶)は、長さがまちまちな軸方向に伸びたSiO4らせん体が連結して成長するため、軸方向の切断箇所が多くなっていることが考えられる 切断箇所の多い結晶構造では、Si-O-Si角の拡大による歪みが切断部分に集中し、ほぼ完全なネットワークを形成している軸(面)方向よりも、歪みを吸収し易い軸方向の膨張率の低下となって現れているに違いない
  更に、下の図 6-2に示したβ-石英の膨張率(5731050℃の間でゼロ)は、実測値ではマイナスに転じる傾向もあり、それも軸方向に顕著である 理想的なβ-石英型構造では起こりにくい構造変形も、実際の結晶中では歪みの逃げ場があるために温度上昇によって引き続き Si-O-Si角の拡大や結合軸の回転が生じβ-石英型構造が変形してマイナス膨張につながったものと考えられる
  一方、高圧下におけるα-石英型構造は、圧力が増大するに従って Si-O-Si角(α角)が縮小し、逆に SiO4四面体の傾斜角θが増大していく そして、3万気圧に達すると α=130.5°(θ=26.5°)となってそれ以上縮むことができず、ついにSiO4四面体同士の連結が切断され、長石型で長石よりも密な構造を持つコーサイトに転移するのである また、圧力が高くなればなるほどθ角が増大するため、θ角がゼロになる温度、すなわちα-石英からβ-石英への転移温度も上昇し、1気圧において573℃であったものが、5千気圧では700℃以上、3万気圧では1000℃を遙かに越えるようになる しかし、このα-β転移温度の変化は、SiO4四面体の連結の切断を伴わないため、水分による影響はほとんど受けていない

図 6-2 常圧下における石英の膨張率とSi-O-Si結合角


(2)高温域での石英の残存性膨張と島状クリストバライト構造
  石英の結晶空隙の有効半径は、常温におけるα-石英の0.7Åから、573℃におけるβ-石英の0.8Åまで、温度が上昇するにつれて 徐々に拡大するものの差程大きいとは言えない 従って、Al-同形置換などに起因する 1価のアルカリ金属イオンの取り込みは空隙の大きさからすると 専らリチウムイオン(Li+)に限定され、Li+が不足する場合は水素イオン(H+)がその代役を担っている
  ところが、図 6-2 に示した石英の膨張率のように、573℃を越えてβ-石英に転移した後は、867℃(トリジマイトへの転移温度)を過ぎても 変化しなかったものが、1050℃付近から緩やかな増加に転じ、Si-O-Si角も増大して空隙が拡がり始めるのである これは、石英型構造の骨格を成しているSiO4らせん体(3回らせん軸対称)が温度上昇によるSi-O-Si結合角の増大に耐え切れず部分的にクリストバライト型のSiO4らせん体(4回らせん軸対称)に 変わり始めたためと考えられる この時、らせん体を構成しているSiO4四面体の軸(面)方向の連結は切断され、別のSiO4四面体と再結合するため部分的に“しわ”の寄ったような状態になっている
  いま仮に、α-石英を1050℃以上に加熱した後、放冷(急冷)した場合、この“しわ”がそのまま残ってしまうことが考えられる そして、図 6-2 に示したように1350℃まで加熱した場合は、573℃でα-石英に戻るものの、常温まで温度が下がっても約0.5%もの残存膨張を示すことが多い つまり、温度が低下しても、α-石英の構造内に島状のクリストバライト構造が取り残され、クリストバライト構造部分の結晶空隙が半径1.7Åにも拡大しているため、完全なα-石英の構造には戻れないのだ 従って、3-4 (3) b)で述べたような比較的低圧の下でα-石英がマグマの貫入を受け、温度が1050℃以上に上昇するようなことがあった場合には、α-石英の内部に部分的なクリストバライト型構造が形成されたと考えることができる そして、拡大された結晶空隙内には、イオン半径の大きいカリウムイオン(K+)やナトリウムイオン(Na+)はもちろん、カルシウムイオン(Ca2+)や通常の金属イオンでさえ取り込まれる可能性がある つまり、低圧下では高温変成の純化作用は期待できず逆に不純物の取り込みで純度が低下する場合も起こり得るのである
  その機構としては、次のようなことが考えられる 石英を加熱して1050℃以上にしばらく保っておくと、上述のごとくクリストバライト型構造の“しわ”が形成され、SiO4らせん体同士の軸(面)方向の連結が、切断と再結合を繰り返しながら、“しわ”が波打つように軸方向に移動し始める この時、石英結晶の外部にイオン半径の大きいアルカリ金属イオンなどが存在すると結晶面に顔を出した“しわ”の内部に金属イオンが閉じ込められ“しわ”の移動と共に石英結晶の奥深く金属イオンが進入していく そして、2価以上の金属イオンは、主に SiO4らせん体の(軸方向の)切断部分に、また、1価のアルカリ金属イオンは Al-同形置換の部分に、それぞれ取り込まれている水素イオンと置換され温度の低下と共にこれらの近傍に固定される 水素イオン(陽子)は自由に結晶内を移動できるため、結晶外に排出され電気的中性が保たれるのである
  このように、石英を1050℃以上に加熱すると、Si-O-Si結合角の拡大に抗し切れず、部分的に島状クリストバライト構造が出現するため、膨張率が再び増加に転じる そして、クリストバライトへの転移温度である1470℃を、瞬時でも越えてしまうと、冷却しても残存膨張が1%以上となり、もはやα-石英とは言えなくなる 更に温度を上げて1550℃に達すると、SiO4らせん体は全てクリストバライト型のらせん体に変わり、Si-O-Si結合角はほぼ180°になるが、軸方向の連結がほとんど切断されているため、次第に流動性を増して溶融状態となる 高温であるがゆえに、一旦切断されたSiO4四面体は、なかなか再結合することができない しかし、14701550℃の間でしばらく(1日以上)放置した場合は、まるでアイロンでもかけるように“しわ”が引き伸ばされ全体としてはその時の温度・圧力に見合ったSi-O-Si結合角を取りながら、ほぼ完全にクリストバライトに転移することができる

(3)超高温域での石英の溶融と融液中の結晶型微細構造
  石英を急速加熱して、15501713℃の間で溶融したものをそのまま冷却しても、非晶質(アモルファス状)のシリカガラスにすることはできない 融体内部にはまだ多量のクリストバライト型(4回らせん軸対称)のらせん構造が残っていて粘性もかなり高いからである 更に昇温を続けて1713℃を越えると、今度はクリストバライト型のらせん構造自体が酸素イオン同士の反発力で切断を開始し、より重合度の低い(短い)らせん体に変わるため更に流動性を増して水あめ状となる そして、2000℃を越えると、重合度が一層低くなって粘性も低下し、ようやくガラス成形がし易い状態になる このように石英の溶融体は、温度の上昇と共に連続した粘性の低下を示すため氷から水に相転移するような明確な変化は期待できず、ある一定の粘性率(約107 poise)を以て、石英(あるいはシリカガラス)の融点を決めている
  そして、この状態から冷却して製造した一般のシリカガラス(石英ガラス)は、一旦、バラバラになったSiO4四面体がランダムに連結している、完全なアモルファス状のガラスとは言えない 実際には、微細なSiO4らせん体がまだかなり残っているのである 通常のシリカガラスは、この“微細(結晶)構造”が最小単位となってランダムに結合し、温度の低下と共にSi-O-Si結合が様々な方向に折れ曲がりながら、ガラス状の固体になったものと考えられる つまり、シリカガラスの構造は、細切れとなったクリストバライト型SiO4らせん体や、低温下で石英型(3回らせん軸対称)に転じたSiO4らせん体など、結晶型微細構造のランダムな集合体と見ることもできる
  また、トリジマイトやクリストバライトを溶融してガラス化するためには、石英よりも大きなエネルギーを必要とする 高温においてより安定な、高温trans型あるいは高温cis型で連結し合っているSiO4連結体(図 3-5 参照)は、石英の場合よりも高温状態でないと切断が開始されない このうち、高温cis型の結合を含むトリジマイトを急速加熱した場合、1703℃でcis型結合がtrans型に転換しながら切断が進み、流動性を増すものの、高温trans型結合のみから成るクリストバライトは、1713℃にならないと切断が開始されないのである そして、両者共に2000℃以上で、低重合度の“微細構造”にまで切断され、石英の溶融体と同様に粘性が低下する
  このように、結晶型シリカの溶融(開始)温度は、結晶を構成するSiO4連結体の構造によってかなりの差があり、融体内部には、主にクリストバライト型(4回らせん軸対称)になったSiO4らせん体の微細構造を留めていることから、著しい粘性の低下は見られない そして温度が低下するにつれて近傍の切断部分同士がランダムに再結合し始め、空隙率が非常に大きい SiO4連結網を形成して、固化した後もSi-O-Si結合角は縮小し続けるのである 常温におけるシリカガラスのSi-O-Si結合角は、α-石英と同様、145°前後まで縮小しているものと思われるが大部分がランダムな結合をしているためバラツキが大きく実際には、145±10°の範囲にあるとされている また、前項でも述べたように、温度変化に伴うSi-O-Si結合角の変化は、石英ではそのまま熱膨張となって現れるが、シリカガラスのSi-O-Si結合には上記した微細構造以外はほとんど方向性が無く発生した歪みを互いに打ち消し合うため、シリカガラスの熱膨張率を非常に小さなものにしている
  シリカガラスは、その構造内の空隙が非常に大きく、かつ連続しているものと考えられる その大きさは、原子半径1.5Åのヘリウムガス(He)が、常温でもわずかではあるが通過できる程で、1000℃以上に加熱すると、イオン半径1.1Åのナトリウムイオン(Na+)はもちろんのこと、イオン半径1.6Åのカリウムイオン(K+)もかなり自由に動き回ることができる 高温状態における不純物の移動については、次節でも詳しく述べるがシリカガラスを高温下で長時間使用した場合に発生する失透現象(クリストバライト化)にも深い関係がある

  
6−2.石英の構造変形と水分やアルカリの影響           目次:

図 6-3 高圧下における石英の高密度水蒸気に対する溶解度
図 6-4 各種化合物の解離エネルギーと気相における熱解離度

  水分が珪酸塩鉱物の晶出に与えた影響については既に何度も触れたが、中でも石英が高温・高圧の水蒸気(熱水)によって 著しい融点の低下を起こすことは前章の 図 5-1 にも示した通りである そして、この高圧の熱水による融点の低下は花崗岩やペグマタイト石英の形成にも 大きな影響を与えている
  一方、高圧の熱水(高密度水蒸気)に対する石英の溶解度は図 6-3 にも示すように温度・圧力が高いほど大きくなる つまり、図中に太い実線で表した 圧力ごとの溶解度曲線からも分かる通り、750気圧以上の圧力では温度が高くなるにつれて 溶解度が増加している この溶解度特性を利用して人工水晶の育成は温度350400℃、圧力10001500気圧の条件下で行われているが実際には 石英の溶解度を増すためにアルカリ性(NaOHNa2CO3)の溶液を 使用しているのが実情である また、天然水晶の成長では、NaCl(海水)を溶かした熱水が関与したと考えているがアルカリ溶液と比べると 石英の溶解度はかなり小さい 天然水晶は 人工水晶よりも高圧条件下で非常に長い時間をかけて 晶出したものと思われる
  いずれにせよ、アルカリ金属イオンを含んだ高温・高圧の熱水が石英を溶解しやすいことは事実でありここでは高温・高圧下における水分やアルカリ金属イオンの挙動を探究し石英の構造変化に与える 影響について考えてみたい このことは取りも直さず高温・超高圧状態から 圧力が低下することによって形成された高圧変成型石英の不純物の 取り込み方法を検証することにもなる また、高温変成作用において水分の影響で融点が低下し部分溶融と再結晶化が行われた 高温変成型石英の不純物の放出(純化)方法についても併せて考えてみたい

(1)原子の結合(解離)エネルギーとイオン解離エネルギー
  高温・高圧の水蒸気(熱水)による石英の融点低下や溶解度の増加は高温の下で水蒸気から解離した 水素(H)が大きな役割を担っている しかし図 6-4 に各種化合物(あるいは元素分子)の熱解離度をそして表 6-2 にはその結合エネルギーを示したが、図 6-4 からも分かるように結合エネルギーの大きい化合物を分解してバラバラの原子にするためにはかなり大きなエネルギーが必要である また、これらの化合物を気相でイオン解離(電離)させるには表 6-3 に示したようなイオン化エネルギーがプラスされるため、膨大なエネルギーを必要とするのである 実際の例として、化合物(塩化物など)を原子化して分析する原子吸光法では、3000℃前後の温度で十分であるが一部の元素をイオン化(プラズマ状態)して分析するプラズマ発光法(ICP)は太陽の表面温度に匹敵する、約6000℃もの超高温下で行われている 従って、低温でイオン解離させるためには、宇宙空間のような超真空状態にするかあるいは、有極性分子から成る液体(水、アルコールなど)中に分散させるしか方法は無い






 
共 有 結 合 結合力 中 間 の 結 合 結合力 イ オ ン 結 合 結合力
Br−Br(Br2
Cl−Cl(Cl2
H−H (H2
O−O (O2
Si−H (SiH4
H−I (HI)
H−Br (HBr)
H−Cl (HCl)
C−Cl (CH3Cl)
B−Cl (BCl3
C−O (OC=O)
  〃  (C≡O)
  〃  (CH3-OH)
Fe−Cl(FeCl3
Cu−Cl(Cu-Cl)
Si−Cl(SiCl4
 45
 57
103
118
 76
 70
 87
102
 80
106
127
255
 85
 82
 89
 95
H−O (H-OH)
 〃  (CH3O-H)
Na−Br(NaBr)
K−Br (KBr)
Ca−Br(CaBr2
Mg−Cl(MgCl2
Al−Cl(AlCl3
Ca−Cl(CaCl2
Cu−O (CuO)
Al−O (Al-O)
Ba−O(BaO)
Ti−O (TiO2
Si−O (SiO2
 〃  (SiO)
B−O (B-O)
H−F (HF)
120
104
 84
 91
 92
 93
101
109
 81
115
132
145
150
105
190
135
Na−O (NaOH)
K−O (KOH)
Li−O (LiOH)
Mg−O (MgO)
Ca−O (CaO)
Na−Cl(NaCl)
K−Cl (KCl)
Li−Cl(LiCl)
Na−F (NaF)
K−F (KF)
Cu−F (CuF2
Fe−F (FeF2
Mg−F (MgF2
Ca−F (CaF2
Al−F (AlF3
Si−F (SiF4
 86
 90
105
 88
 91
 97
101
112
113
117
 94
114
122
133
140
142
注)カッコ内はその化合物(あるいは元素)の分子式を表す。単位:kcal/mol
表 6-2 各種化合物の結合(解離)エネルギー
原子
の種類
原子
半径(Å)
電子※
親和力
金属原子のイオン化エネルギー ※ イオン半径
(Å)
水和エネ
ルギー※
第1 第2 第3 第4 第5
  K
  Na
  Li
  Ca
  Mg
  Cu
  Fe
  Al
  B
  Zr
  Ti
  Si
  H
  2.3
  1.85
  1.5
  1.95
  1.6
  1.25
  1.25
  1.4
  0.9
  1.6
  1.45
  1.15
 (0.37)
 12
 13
 14
 <0
 <0
 28
  6
 11
  6
 12
  5
 32
 17
 100
 119
 124
 141
 176
 178
 181
 138
 191
 158
 157
 188
 314
  729
  1090
  1744
 274
 347
 468
 373
 434
 580
 303
 313
 377
  −−
  1054
  1652
  2824
  1174
  1848
  849
 707
 656
 875
 530
 634
 772
  −−
  1405
  2281
  −−
  1547
  2519
  1273
  1264
  2767
  5981
 792
 998
1041
  −−
 1906
 3191
 −−
 1947
 3258
 1843
 1730
 3544
 7845
 1879
 2288
 3845
 −−
 K+
 Na+
 Li+
 Ca2+
 Mg2+
 Cu2+
 Fe3+
 Al3+
 B3+
 Zr4+
 Ti4+
 Si4+
 H+
 1.6
 1.1
 0.8
 1.2
 0.8
 0.8
 0.7
 0.6
 0.2
 0.8
 0.7
 0.4
 0.0
  76
  97
 120
 377
 456
 499
1050
1121
  Br
  Cl
  F
  O
 (OH)
  1.15
  1.0
  0.7
  0.6
 (0.96)
 78
 83
 78
 34
 42
参考)イオン化エネルギーは原子から電子を取り去るのに必要なエネルギーで電子親和力とは正負逆のエネルギーである。 水和エネルギーはイオンが水和する際、発生するエネルギーである。  Br-
 Cl-
 F-
 O2-
 OH-
 1.9
 1.7
 1.2
 1.3
 1.3
  81
  65
 123
注)単位はkcal/mol(但し、水和エネルギーはガス状のイオンが水で無限希釈された時の値)
表 6-3 個々の原子における電子の脱着エネルギーとイオンの水和エネルギー

〔計算例〕特記無しは気体とし、エネルギーの+は吸熱、−は発熱とする。
◇反応生成エネルギー = (左項の解離エネルギーの和)
          −(右項の結合エネルギーの和)−(凝縮熱)[kcal/mol]
  H2Cl2 → 2HCl    103+57−102×2=−44 kcal/mol
  2H2O2 → 2H2O(液) 103×2+118−220×2−0.6×18×2=−138〃
◇電離エネルギー=(ABの解離エネルギー)+(Aのイオン化エネルギー)
          −(Bの電子親和力)−(A+,B-の水和エネルギーの和)
  HClH+Cl-     102+314−83= 333 kcal/mol
  H2OH+OH-     120+314−42= 392 〃
  NaOHNa+OH-   86+119−42= 163 〃
  NaClNa+Cl-   97+119−83 = 133 〃
          (水中)  97+119−83−97−65=−29 〃
     注)A,Bは AB→A++B- の反応における各元素
  計算例の結果は、必ずしも実際の値と一致するわけではないが、大体の目安にはなると思われる 特に、塩化ナトリウム(NaCl)などは、水に溶解すると発熱するというわけではなく水中では容易にイオン解離するという意味である また、反応式からも分かるように、気相中における熱解離反応ではモル数が増加した分 体積も増えるため、圧力が高い場合は熱解離度が低下する傾向にある 上の図 6-4 には、水蒸気(H2O)の高圧下(約3千気圧)における熱解離曲線を太い点線で示したが温度にはほとんど関係なく熱解離度が一様に低下(平行移動)しているのが分かる
  いずれにしても、水蒸気を完全な原子に分解するためには、H-Oの結合エネルギー(平均110kcal/mol)の約2倍のエネルギーを必要とし、熱解離度はかなり低い しかし、水蒸気をHOH に解離するエネルギーは120kcal/molで済むため、酸素(O2)の熱解離曲線に非常に近くなるが、石英内部で酸素原子に結合している水素原子(≡SiO-H)の解離エネルギーもほぼ同程度と考えられる つまり、高温になればなるほど水蒸気や石英中のOH基が分解して、極めて反応性の高い活性水素(H)を発生し、石英の熱水に対する溶解度や石英の融点ひいては、後述する石英ガラスの粘性低下などにも大きな影響を与えているのである
  一方、上の表 6-2 からも分かるように、金属原子と酸素原子の結合エネルギーは、アルカリ金属(NaKLi)やアルカリ土類金属(CaMg)、そして銅(Cu)が比較的小さく、珪素(Si)やチタン(Ti)などの4価の金属は非常に大きい(4本の結合手で、更に4倍の結合力となる) また、アルミニウム(Al)はH-OH結合とほぼ同じであり、鉄(Fe)はアルミニウムよりもかなり小さいことが予想される これらの金属と酸素の結合力の差は下の第(3)項で述べる石英中の不純物の移動に決定的な影響を与えることになる

(2)高温・高圧下で熱水が石英の溶融や溶解に与える影響
  水蒸気や石英中のOH基は、3-3(1)で述べたような、触媒としての遊離金属が全く関与せずとも、高温になればなるほど熱解離反応が進んで、より多くの活性水素を発生することになる 活性水素は水素原子そのもので、原子半径が0.37Åと非常に小さいため、石英の結晶空隙(軸方向に連続している半径0.60.8Åの穴)内を自由に動き回ることができる その上、非常に強力な還元力を持っているため、一時的ではあるがSi-O-Si結合の酸素原子と反応し、結合を切断してOH基を形成する つまり、SiO2の部分的かつ一時的な還元反応が成立するのである しかし、生成したOH基は解離してすぐ元の状態に戻ると考えられる
  ≡Si-O-Si≡ + H ⇔ ≡Si-OHSi≡  〔可逆反応〕    ・・・・・・・・(6-2a)
 ところが、(6-2a)の反応式で、水素原子のみが気体で存在していることから、水素原子の分圧を大きくしてやれば反応が右に進むことが分かる すなわち、
 a)水素原子の元となる、水蒸気(水分)の量を増やすこと
 b)温度を上げて、水蒸気の熱解離度を大きくすること
 c)圧力を上げて、発生した水素原子の分圧を大きくすること
の3条件がそろって初めて、シリカを構成しているSi-O-Si結合の切断が進み、1713℃以下の温度領域でも溶融を開始したりまた、熱水が豊富に存在する場合は、分子単位に切断されたものから順に熱水中に溶解し始めることになる
  これらの反応を、熱や圧力というエネルギーの観点から追ってみると次のようになる
〔高温下〕≡Si-O-Si≡(s) → ≡Si-O(s) + Si≡(s) [150kcal/mol]    ・・・(6-2b)
〔 〃 〕 HO-H(g) → H(g) + O-H(g)        [120kcal/mol]    ・・・(6-2c)
〔高圧下〕≡Si-O(s) + H(g) → ≡Si-OH(s)   [−120kcal/mol※]   ・・・(6-2d)
〔 〃 〕≡Si(s) + O-H(g) → ≡SiO-H(s)    [−150kcal/mol※]   ・・・(6-2e)
        注)s:固体 g:気体、※は結合エネルギーの推定値
  中でも、(6-2b)の反応は温度が高くなるほど右に進むため、熱解離度が大きくなって、シリカが1713℃あるいはそれ以下で溶融することを意味している シリカの溶融温度は圧力の影響を受けにくいが(高圧下ではわずかに上昇)溶融温度に幅があるのは、石英におけるSiO4らせん体同士の横(軸)方向の結合と、らせん体内部の縦(軸)方向の結合とでは、その結合解離エネルギーに大きな格差があるためと考えられる
  また、(6-2c)の水蒸気の熱解離反応は、圧力が高くなるほど熱解離度が低下するものの、圧力P(気圧)に対して−0.5logPだけ、図 6-4(7) の熱解離曲線が下方に平行移動する程度である 従って、その分、温度を上げてやるか水蒸気の量を増やしてやれば減少分を容易にカバーできると考えられる いずれにしても、熱解離によって発生した活性水素(H)は、石英の酸素原子に直接アタックして(6-2b)の反応を促進する働きを持っている
  (6-2d)と(6-2e)の反応は、高温下においては左向きに進むが、圧力が高くなればなるほど右向きの反応に変わる 特に(6-2d)の場合は、活性水素の原子半径が非常に小さく石英の結晶内部に自由に侵入できることと侵入後は希薄な状態になり長時間活性を維持できるために右向きの反応が促進されるものと考えられる しかし、(6-2e)の場合は、OHの原子半径(約1.3Å)が大きいために石英の内部には自由に入ることができず、自ずと水蒸気(熱水)と行動を共にしながら分子単位に切断されて熱水中に溶出したSiO4らせん体との反応を待つことになる
  従って、石英の融点低下に直接関係する反応は(6-2b)〜(6-2d)であり、これらの反応に必要な熱エネルギーの合計はおおよそ150kcal/molとなり、(6-2b)のみの反応とほとんど変わらない このことは、いかに水分が豊富に存在していても、石英の溶融には正規の熱エネルギーが必要となり融点の低下はほとんど起こらないことを意味している つまり、高圧状態になって初めて(6-2d)の反応が右に進み結果的に(6-2b)と(6-2c)の右向きの反応を促進しているのである 石英の融点低下には水分はもちろんのこと圧力がいかに大きな役割を果たしているかがよく分かる(図 5-1 参照)
  一方、石英が高密度水蒸気(熱水)に溶解する場合の反応式は(6-2b)〜(6-2e)で、熱エネルギーの合計はほぼゼロに近い つまり、熱エネルギー(温度)のみでは石英の熱水に対する溶解度は差程上昇せずむしろ、高温になればなるほど水蒸気密度が低下するために、溶解度は減少する傾向にある 図 6-3 を見ると、750気圧以下の低圧領域では温度の上昇と共に、ある一定の温度(水の臨界温度である374℃)付近から急激に石英の溶解度が減少していることが分かる そして低温領域では、圧力のみ上昇しても 差程溶解度が増加しないことも理解できる 従って、熱水に対する石英の溶解度は温度と圧力がバランス良く上昇して初めて著しい増加を示すのである
  このように、石英の融点低下と熱水に対する溶解度の増加は、表裏一体の反応機構からなり、両者共に圧力が高くなるほど、(6-2d)あるいは(6-2e)の反応が右に進むため(6-2b)と(6-2c)の平衡関係が崩れて右向きの反応が進むことになる しかし、シラノール(≡Si-OH)として、もともと石英中に含まれていたOH基から水素原子が解離する現象は、(6-2d)と逆向きの反応でありかなりの高温下でも圧力が高いと ほとんどが抑制されると考えられる

(3)高温時の水分による石英の構造再編成と石英中のOH基の減少
  石英あるいはシリカガラス中のOH基は、温度が上昇すると熱解離によって活性水素(H)が発生し、石英やシリカガラスの構造に様々な影響を与えている 石英を常圧にて1050℃以上に加熱すると、石英型のSiO4らせん体は軸方向の連結が一部切断され、部分的にクリストバライト型のらせん体構造に変わることはこの章の6-1(2)で既に述べた そして、切断と再結合を繰り返すことにより、この島状のクリストバライト構造が移動しその内部に形成された大きな空隙も移動する この時、石英中のOH基あるいは周囲の水蒸気から発生した活性水素がこれらの現象を助長して切断の開始温度をも低下させるのである
  ≡Si-O-H 〔シラノール〕 → ≡Si-OH(g)   [120kcal/mol]      ・・・(6-2f)
  ≡Si-O-Si≡ + H(g) → ≡Si-O-HSi≡   [30kcal/mol]      ・・・(6-2g)
  ≡Si-OSi≡ → ≡Si-O-Si≡        [−150kcal/mol]      ・・・(6-2h)
  つまり、石英中に点在するシラノール基から活性水素が飛び出し、自ら新たなSi-O-Si結合のための結合手を提供すると共に、隣接するSi-O-Si結合(比較的結合力の弱い軸方向の連結)をアタックして切断する この時新たに発生した結合手が、シラノール基から生成した結合手と近ければ再結合し石英の構造がわずかに変化する ここで、再結合する相手が隣接したもの同士でなければならないという理由は結晶型石英の規則的なSi-O-Si結合が、ランダムな再結合を妨害しているからである そして、(6-2g)式で生成したシラノール基が再び熱解離することによって、活性水素が更に隣のSi-O-Si結合を切断し、再結合を繰り返すことになるが、あたかもボタンのかけ違いを修正するような要領でクリストバライト構造の“しわ”が少しずつ移動していくのである
  従って、3-4(3a)で述べたような高度の高温変成作用が行われた場合には、高圧下にもかかわらず、水分の助けを借りて発生する活性水素の量が多くなり島状クリストバライト構造の移動が活発化したに違いない そして、切断と再結合を繰り返している内に、天然石英に多く見られる、部分的なSi-O-Si結合の乱れ(SiO4らせん体の軸方向の切断部分)である点欠陥が修復され、点欠陥をおおっていたOH基が不要になり、結晶外に排出されてしまったと考えられる 結果的に(6-2f)〜(6-2h)の反応は、次のような一連の反応式に入れ替えることができる
  ≡Si-O-H 〔シラノール〕 → ≡Si-OH(g)   [120kcal/mol]      ・・・(6-2f)
  H(g) + H-O-Si≡ → H-O-H(g) + Si≡     [30kcal/mol]     ・・・(6-2g')
  ≡Si-OSi≡ → ≡Si-O-Si≡         [−150kcal/mol]     ・・・(6-2h)
  つまり、結晶欠陥(点欠陥)に取り込まれているOH基(シラノール)は、島状クリストバライト構造の移動に遭遇すると、(6-2g')のように活性水素によって還元されて水の分子に変わると共に、(6-2h)の反応で欠陥(切断)部分が修復されるのである 水(H2O)分子は、その半径が約1.3Å(図 3-3 参照)と比較的小さく、島状クリストバライト構造の空隙内(半径1.7Å)に閉じ込められ、その移動と共に運ばれて結晶外に排出される
  このように、3-4(3a)で述べた、高温変成作用に伴う「部分溶融」と「純化作用」とは、高温の熱水から多量に発生した活性水素による、Si-O-Si結合の切断の助長と、大量に発生した島状クリストバライト構造による、OH基(水分子)や次項で述べる不純物の運搬作用と言うことができる この場合、部分溶融によってアモルファス状のシリカガラスに変化することなく石英型構造を維持できるのは、かなりの高圧下で変成が行われたためと考えられる もちろん、3-4(4a)の高圧変成作用においても、部分溶融と純化作用が起こっているわけであるが超高圧下で変成が行われるために、(6-2g')よりも(6-2g)の反応の方が優先され易い つまり、超高圧下においては (6-2g)の反応が右向きに進みやすくそれほど温度が高くなくても (6-2f)の反応や水蒸気の熱解離反応が促進される そして、島状クリストバライト構造の運搬作用が活発化するものの(6-2g')の反応が進まないために、結晶欠陥中のOH基が移動できないのである (6-2g')絡みの反応は、高温下でないと起きにくいと考えられる 従って、高度の高圧変成作用においては、次項で述べる不純物の除去は進んでも、OH基の除去は効率的には行われないと言うことができる
  一方、シリカガラス中にOH基が多く含まれている場合は、話ががらりと変わる シリカガラスの Si-O-Si結合には何ら規則性が無いからである 多少無理な位置関係にある結合手同士でも、かなり自由に再結合できるため、1000℃以上の高温下では粘性の低下となって現れ、OH基の量が著しい場合には、融点までも低下させることがある
  また、水分の多い環境下でシリカガラスが形成(溶融)された場合、その構造内には多量のOH基を取り込むことができる これは、本節の(2)項で述べた一連の反応式と深い関係がある つまり、石英を加熱すると (6-2b)の反応が右に進み溶融状態となるが同時に共存する水分から (6-2c)の熱解離反応が右向きに進み、両者がこん然一体となっている そして、温度が低下するにつれて、(6-2b)式が左向きに変わり、SiO4四面体がランダムに連結してシリカガラスになるわけである この時 (6-2c)も左に進み、かなりの量が水蒸気となって分離するものの降温過程では (6-2d)と(6-2e)の反応も右向きに起こり始め、シリカガラス中のOH基となって残留するのである 従って、シリカガラスからOH基を除くには、真空下で加熱溶融して(6-2d)と(6-2e)の反応を左に進めればよいが降温過程でその一部が元に戻ってしまうため、この方法にも限度がある

(4)高温時の水分による石英中の金属不純物の除去作用
  話を結晶質の石英に戻すと、石英の結晶構造内に不純物の金属イオンが取り込まれていた場合、活性水素(H)はSi-O-Si結合をアタックすると同時に、この金属原子と酸素の結合をも切断してしまうのである そして、その結合エネルギーの大きさにもよるが結合手(イオン価)の少ない金属ほど切断され易いことは言うまでもない 温度が高い場合、金属原子は自ら熱解離することができるもののすぐ再結合してしまうため、水素原子と置換させてしまった方が確実に切断できる
  ≡Si-O-KH → ≡Si-O-HK     [90-120=−30kcal/mol]    ・・・(6-2i)
  ≡Si-O-Mg-O-Si≡ + 2H → 2(≡Si-O-H) + Mg             ・・・(6-2j)
  (≡Si-O-)3Al + 3H → 3(≡Si-O-H) + Al                  ・・・(6-2k)
  つまり、1価のアルカリ金属は1個の活性水素で切断できるが、2価以上の金属は、2個以上の活性水素が同時にアタックしないと切断されないため、確率が非常に悪くなる これらの反応で生じたシラノール(≡Si-OH)は、時間が経つと熱解離してまた元の状態に戻ってしまうためである また、同じ1価のアルカリ金属でも酸素原子との結合力の差により、NaKLi の順に、2価の金属では CuFeMgCa の順に切断されにくくなることは、表 6-2 に示した結合エネルギーの値からも予想できる そして、遊離した金属原子は前項で述べたと同様に島状クリストバライト構造によって石英結晶外に持ち出される
  しかし、島状クリストバライト構造内の空隙の大きさ(半径約1.7Å)からすると、切断されて遊離した金属原子がこの空隙に入って移動するには、かなりの制限があると考えられる 表 6-3 に各種金属原子の原子半径を示したが、原子半径が1.7Åを越えるKNa(あるいはCa)は、このままでは移動できない ところが、表 6-3 のイオン化エネルギーを見ても分かるようにこれらの金属は比較的低いエネルギーレベル(約1200℃程度で、水蒸気の熱解離よりは低い温度)で、容易に電子(-)を放出してイオン化できるのである
  ≡Si-O-KH → ≡Si-O-HK+- [90-120+100=70kcal/mol] ・・・(6-2l)
  ≡Si-O-NaH → ≡Si-O-HNa+-  [86-120+119=85 〃 ] ・・・(6-2m)
  ≡Si-O-LiH → ≡Si-O-HLi+-  [105-120+124=109 〃 ] ・・・(6-2n)
また2価以上の金属の最後の結合手が切断される場合、第1イオン化エネルギーだけでも、Li+の生成エネルギーを上回り、かなりの高温下でないとイオン化しにくいことが分かる
  ≡Si-O-CaH → ≡Si-O-HCa+- [91-120+141=112 〃 ] ・・・(6-2o)
  いずれにしても、電子を1個失った金属は、その半径がかなり小さくなるため、無理なく島状クリストバライト構造内の空隙に捕らえられ、石英の結晶外に排出されるものと考えられる しかし、活性水素による結合の切断が伴わない場合にはイオン化に要するエネルギーが非常に大きなものとなって容易に石英の結晶構造から抜け出すことはできない
  それでは、石英結晶の外に運び出されたこれらの金属不純物は、どのようにして固定されるのかを考えてみたい もし、活性水素の発生源が石英の結晶粒界を埋めている高密度水蒸気(熱水)であったとすると水蒸気の熱解離によって生じたOHは原子半径が大きいために、容易には結晶内に入ることはできず結晶粒界に滞留して次第にその濃度を増していったはずである 更に、高圧の熱水中には、多量の珪酸イオンが溶解していたことも考えられる そして、金属不純物が金属原子として排出された場合は、熱水中のOHと結合して一旦水酸化物として固定されるが高温下では次第に脱水反応が進み、金属酸化物として析出したに違いない また、金属イオンとして排出された場合には、熱水中の珪酸イオンと容易に反応しその時の温度・圧力に見合った、様々な珪酸塩鉱物を晶出するのである
  2Fe + 6OH → 2Fe(OH)3Fe2O3〔赤鉄鉱〕 + 3H2O       ・・・・・・(6-2p)
  3Ca2+ + 2Fe3+ + 3(SiO4)4-Ca3Fe2(SiO4)3 〔鉄ザクロ石〕    ・・・・・(6-2q)
  但し (6-2o)式のように、金属イオンが不完全なイオンの形で排出された場合でも、石英の粒界を埋めている熱水中では、金属イオンの水和エネルギーが加味されるため次式のごとく、容易にイオン化が進行するものと考えられる そして、完全にイオン化して排出され易いアルカリ金属イオンは一部の珪酸塩鉱物に消費されるものの、そのまま熱水中に溶解し、OHのイオン化によって水酸化アルカリの水溶液として安定化される場合が多い
  Ca+Ca2+- (水中)   [274-377=−112kcal/mol]        ・・・・・・(6-2r)
  Fe+Fe3+ + 2- ( 〃 )   [373+707-1050=30 〃 ]          ・・・・・・(6-2s)
  K+(/Na+) + -OHK+(/Na+) + OH-               ・・・・・・・(6-2t)
  高密度の水蒸気は、活性水素を発生させる気体としての性質と、金属イオンや珪酸イオンを溶解する液体としての性質を兼ね備えた不思議な媒体である 従って、このような媒体が石英結晶の粒界に存在しない場合は排出された金属不純物が固定されることなく、再び石英の結晶内に逆戻りしていくと思われる

条 件 水素濃度 温 度 圧 力 所要時間
高圧変成
高温変成
実験(A)
実験(B)
 1ppq
100ppt
 1ppm
100ppm
600℃
1000℃
1250℃
1450℃
1〜2万atm
0.5〜1万〃
1 〃
0.01 〃
10万年
1 年
1時間
1 分
注)1ppm=103ppb=106ppt=109ppq (mol/SiO2
表 6-4 活性水素による純化作用に必要な諸条件

  最後に、天然の高温変成作用と高圧変成作用あるいは室内実験における純化作用に必要な各種条件を一覧表にまとめてみた 表中の水素濃度とは水蒸気などから熱解離で発生する活性水素と石英のモル比で各々の温度・圧力条件はもちろんのこと介在する水分の量によっても大きく影響される また所要時間はこの活性水素の濃度によって決まる因子であるが水素濃度があまり高過ぎても純化作用の効率が低下するものと思われる 更に実験例では、高温・低圧であるがゆえに水分量を増やすことができず何らかの触媒が必要となったことは言うまでもない
  これらのうち温度条件は、移動できる金属不純物の種類に直接影響を与えるため、最も重要な因子となっているが、温度が十分に高い場合、今まで述べてきたことを総括すると金属不純物が移動し易い順位は次のようになる
  NaKLiCuFe(2) >MgCaFe(3) >AlBTi
  しかし、天然における高温・高圧の変成作用は、1200℃以下の比較的低温条件下で行われたため、金属不純物は専ら金属原子として移動したものと考えられ、原子半径が1.7Å以下の LiCuFe(2),Mg などの除去作用が優先したに違いない 実際に、高度の高温・高圧変成作用を受けて高純度化されたと思われる天然石英にはこれらの金属不純物の他にも、原子半径の小さい MnCoNi などの重金属はほとんど含まれていない もっとも、通常の分析でFe(2)とFe(3)を区別することは不可能であるが高度の純化作用を受けた石英結晶内に含まれている鉄分は、主に3価のFe(3)であると考えられる

(5)高圧下におけるアルカリ水溶液が石英の溶解に与える影響
  本節の(2)項では、高温・高圧下において石英が熱水に溶解する機構について詳しく述べた また、低温領域においても、圧力が高くなればなるほど (6-2d)や(6-2e)の反応が右に進み自ずと水蒸気の熱解離反応(6-2c)も右に進んで、石英の水に対する溶解度が増加することは図 6-3 からも容易に理解できる そして、(6-2d)や(6-2e)の反応で生じたシラノール(≡Si-OH)が、イオン解離することによって、石英が有極性液体である水に溶解すると考えれば温度が高いほど溶解度が増加することも十分にうなずける しかし、水中における (6-2t)式のエネルギー計算は各イオンの水和エネルギーのデータが無いので、はっきりしたことは言えないが水素原子のイオン化エネルギー(314kcal/mol)があまりにも大きくシラノールがイオン解離するための大きな障壁になっていると考えられる 従って、約600℃以下の低温領域では、いかに圧力が高くても溶解度が1%を越えるのは難しい
  ≡Si-O-Si≡ + H2O → 2(≡Si-O-H)          ・・・・・・・・・(6-2b+c+d+e)
  ≡Si-O-H → ≡Si-O-H+   [120-34+314=400kcal/mol]     ・・・・・・(6-2u)
  ところが、天然における高圧変成作用は、温度が600℃以下で行われたにもかかわらず、海水が関与していたために石英の溶解度がかなり増加したものと思われる つまり (6-2u)式と同様、各イオンの水和エネルギーを無視すればエネルギー収支は
  ≡Si-O-HCl- → ≡Si-O-HCl  [120+83-34-102=67kcal/mol] ・・・(6-2v)
となり、かなりの低温条件下でも溶解度が増加することが予想される 海水に含まれているNaCl(塩化ナトリウム)は、一種の触媒の役目をしているものと考えられる 一方、人工水晶の育成に用いられるアルカリ水溶液は、更に石英の溶解度を増大させるため短期間で大きな結晶を得るのに役立っている
  ≡Si-O-HOH- → ≡Si-O-H2O  [120+42-34-120=8kcal/mol] ・・・(6-2w)
  しかし、塩素原子(あるいはOH)の電子親和力が酸素原子よりも大きいことから、このままでは(6-2v)と(6-2w)の反応は起きにくい 従って、これらの反応式を更に詳細に分解すると次のようになりアルカリ金属が触媒として関与していることがよく分かる
  ≡Si-O-H → ≡Si-OH 〔ゆっくり〕              ・・・・・・・・・・・(6-2f)
  ≡Si-ONa+Cl-(/OH-) → ≡Si-O-NaCl(/OH)     ・・・・・(6-2x)
  HCl(/OH) → HCl(/H2O)                   ・・・・・・・・・・・・(6-2y)
  ≡Si-O-Na → ≡Si-O-Na+ 〔熱水中ではかなり速い〕      ・・・・・・・(6-2z)
  もちろん、(6-2u〜w)式の結合エネルギーの計算はあくまでも目安であり、具体的な実験例によると、純水と1M(約6%)NaCl水溶液、及び1M(4%)NaOH水溶液における人工水晶の成長速度は、Z軸(軸)方向でおおよそ110100であった この実験における人工水晶の育成法は水熱温度差法と言って、オートクレーブ(約350℃・1500気圧)内で、原料(天然水晶)の充填された底部の温度を、上部よりも3050℃高く保ちアルカリ水溶液の対流と上部(低温部)の過飽和度をコントロールしながら、急速育成を行っている しかし、天然における水晶の晶出条件は、圧力は高いもののNaCl濃度は低く、対流も起こらなかったと推測される そして、海水を満たした空洞内の温度がゆっくりと降下することで圧力も次第に低下し石英の過飽和水溶液から非常に遅い速度で水晶の結晶が成長したものと思われる
  また、触媒役のアルカリの有無にかかわらず、石英が水に溶解する際は、必ずしも独立型の珪酸イオン(SiO4)4-に至るまで分解されるわけではない 本節の(2)項でも述べたように、石英の結晶を構成するSiO4らせん体同士の軸方向の結合は、軸方向の結合よりも弱いために、活性水素によるSi-O-Si結合の切断は専ら軸方向で起こり、石英は単鎖状のSiO4らせん体として水に溶けるものと考えられる つまり、軸方向に長く伸びたSiO4らせん体が、軸方向の結合手を全て酸素イオンで取り囲み表面を親水化してしまえば水中を自由に移動することができるわけでアルカリ金属イオンは単なる触媒に過ぎないことがよく分かる 実際に、アルカリ水溶液を使用した人工水晶の育成でも、水晶の結晶中にはアルカリ金属が12ppm程度しか含まれていない 更に、水晶が晶出する際、水に溶解した石英が軸方向に伸びたSiO4らせん体の形で、石英の結晶面上に析出するであろうことは、水晶の成長速度がZ軸(軸)方向に著しいことからも説明がつく
  最後に余談ではあるが、トンネル工事などの凝固剤に使用される水ガラスは、石英とカセイソーダ(NaOH)を一緒に溶融してガラス状にし、一旦、珪酸ソーダのカレットにしてから高圧の水蒸気で水に溶解した高粘性の液体である 代表的な化学組成は Na2SiO3nH2O であるが、実際には、珪酸はイオン化してアルカリ溶液中に溶けているものと考えられる 水分は非常に少ないが、まさに人工水晶のオートクレーブ内で石英がアルカリ水溶液に溶解する反応そのものと言える 水ガラスから水分が失われると、容易に固化して網の目状のSiO4連結体を形成し、軟弱な地盤を強固なものに変えている

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