4.SiO2と珪酸塩鉱物の結晶構造(つづき-1)   このページや、下層のHTMLファイルに直接リンクされた方は、このボタンをクリックして下さい。

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4−3.環状珪酸塩鉱物の結晶構造

  環状の珪酸塩鉱物は、主に6個のSiO4四面体が正六角形環状に連結した、無数のSiO4六角環(Si6O18)12-を積み重ね2価以上の金属イオンとのイオン結合によって引き締められた構造となっている その主な例としては、電気石Na(Mg,Fe)3Al6(BO3)3(Si6O18)(OH)4や緑柱石Be3Al2(Si6O18)の他にも、キン青石Mg2Al3(AlSi5O18)などがある これらの環状珪酸塩鉱物の大きな特徴は、SiO4六角環内に形成される大きな空隙のために、比重は2.63.1とかなり小さく、比較的低圧条件下で晶出したにもかかわらず、SiO4六角環のしっかりした構造から、モース硬度は78と非常に高いことである またSiO4六角環のほか、さらに高圧(低温)下で形成されたと思われるSiO4四角環を成すものもあり、オノ石Ca2(Fe,Mn)Al2(BO3)(Si4O12)(OH)などはその良い例となっている
  このように、環状珪酸塩鉱物は硼素(B)やベリリウム(Be)などの希元素を含むことが多く、主に花崗岩やペグマタイト中に産出している 特に、低融点の硼酸イオン(BO3)3-を含む電気石やオノ石は、3-4(1)で述べたようにペグマタイト形成末期のガス状物質を含む熱水から形成された 気成鉱床や接触交代鉱床に多く見られるが、その量は非常に少ない これは環状珪酸塩鉱物が専ら熱水中に残留したわずかな珪酸イオンを原料として晶出するためと考えられる しかし、この豊富な熱水こそが、バラバラになっている珪酸イオン(SiO4)4-の環状連結を可能とし、熱水中にベリリウムイオン(Be2+)が多かった場合は、緑柱石(エメラルド)をも晶出するのである

キン青石(加藤氏提供) オノ石(加藤氏提供)

◇ 上の2枚は「鉱物の加藤さん」提供のキン(菫)青石とオノ(斧)石の写真で緑柱石の仲間のキン青石は本来の六角柱状結晶が割れて断口面が出ています また、オノ石は三斜晶系に属し名前のごとく鋭く尖っています


注)、円(酸素イオン)や四面体の太線は、
円の重なりや四面体の面を横から見た状態
図 4-9 SiO4六角環の各種基本形

(1)環状(リング)珪酸塩の構造的特徴
  図 4-9 に、様々な珪酸塩鉱物が形作っているSiO4六角環の基本形を示したが、(a)は雲母型、(c)はクリストバライト型である そして緑柱石や電気石のように、独立したSiO4六角環から形成される環状の珪酸塩は比較的低圧(あるいは中圧・高温)下で 生成する場合が多く(b)ないし(b)と(c)の中間型に属すものと考えられる
  環状珪酸塩鉱物の構造は、SiO4六角環が軸方向に積み重なって六角環柱となり、軸方向に接した六角環柱との間に形成される八面体空隙や四面体空隙に入った 各種金属イオンによって、SiO4六角環が糊付けされている 図 4-10 の緑柱石の構造は、低圧cis型のSiO4六角環が少しずれた位置関係で交互に積み重なるため有効な空隙は隣の六角環柱との間に形成される小さな四面体空隙とさらに3つの六角環柱同士で形成する 比較的大きな八面体空隙の合わせて2種類となっている つまり、図 4-10 の断面図にも示すようにこれらの空隙ではSiO4六角環を軸方向のほか軸方向にも糊付けできるが、面(軸断面)上で接した六角環同士で形成する三角柱と四角形の空隙(点線円の空隙)では、SiO4六角環を軸方向に糊付けすることはできない(キン青石も緑柱石によく似た構造で唯一異なるのはSiO4六角環内でAl-同形置換が起こっていることである
  一方、図 4-11 の電気石の場合は、SiO4六角環の層間に3個の硼酸イオン(BO3)3-を挟んでいるため、非常に複雑な形になっているが基本的には4-2(1)で述べた表 4-2 の面空隙A及びBと点空隙Dが最も重要な八面体空隙を形成している つまり、SiO4四面体の底面とBO3三角形の面に挟まれた面空隙Aと、SiO4四面体の側面と他の四面体やBO3三角形の頂点などによって囲まれた面空隙Bそして3つの六角環柱によって囲まれた位置で らせん状に連続した点空隙Dである もちろん、硼酸イオンの中心(3個の酸素イオンで囲まれた正三角形の中心)の小空隙や図 4-10 と共通のSiO4六角環内の大空隙Gなどもあるが、これらは、小さな硼素イオン(B3+)と、大きな水酸イオン(OH-=イオン半径1.3Å)やアルカリイオンなどの指定席となっている 電気石における面空隙Aには、独立型のザクロ石と同様にイオン半径の小さい3価のAl3+が入り、面空隙BにもAl3+が入っている そして、比較的大きな点空隙Dには、2価の金属イオンであるMg2+Fe2+が入ることになる しかし、面空隙Bの他に、図 4-11 の平面図に小円で示した同等の面空隙B’もあるが隣接している点空隙Dが2価の金属イオンでふさがっている場合は負のイオン価が不足するため、面空隙B’には3価の金属イオンは入れない

(2)緑柱石の六方晶系“亀の子”構造
  緑柱石の結晶構造は下の図 4-10 にも示したように、SiO4六角環が図 4-9(b) の低圧cis型を成し、青色(実線)と空色(点線)の六角環が約25度ずれた位置関係で、軸方向に交互に、まるで“亀の子”を積み重ねたような円柱状の六角環柱を形作っている 従って、この円柱を軸方向に束ねた場合、六方晶系の六角柱状結晶になることは改めて言うまでもない そして、次項で述べる電気石とは異なり、軸方向へのSiO4六角環の連結が平面(面)上で行われているため、主軸(軸)の上下両端には菱形の錐面が現れず、平坦になっているのが大きな特徴である
  また、SiO4六角環の軸方向と軸方向の接着は、円柱状の六角環柱を束ねた時に生じる4配位の四面体空隙S(半径約0.4Å)と6配位の八面体空隙D(=点空隙D:半径約0.6Å)に、2価以上の金属イオンが入って行われるが同時に青色(実線)で示した隣接六角環同士で形成する空隙にも配慮しておかなければならない つまり、図中に一部点線の小円で表した、4配位の四角形空隙(半径約0.6Å=面空隙Aの変形したもの)と6配位の三角柱空隙(半径約0.8Å)である もちろんSiO4六角環の内部には、六角環同士の重なりによって巨大な空隙Gも形成されているがこの空隙Gは大き過ぎて金属イオンの収まりが悪いため、通常は空席となっている
  緑柱石Be3Al2(Si6O18)を構成している接着剤としての金属イオンは、イオン半径の小さいベリリウムイオン(Be2+)とアルミニウムイオン(Al3+)である イオン半径が0.4ÅのBe2+は四面体空隙Sに入るが、イオン半径が0.6ÅのAl3+は、上述の四角形空隙では負のイオン価が不足するため、専ら八面体空隙Dを占めている そして、少し大きめの三角柱空隙は、SiO4六角環で一部Al-同形置換が起こった場合不足する正の電荷を補うために取り込まれる イオン半径0.8ÅのLi+の指定席になっていると考えられる(全てのSiO4六角環でAl-同形置換が起こっているキン青石では、2価の金属イオンの代わりにAl3+が1個増えて3個となり、四面体空隙Sを埋めている) 結果的に、これらの接着剤は図 4-10 に示したように、SiO4六角環1個当たり3個の四面体空隙Sと2個の八面体空隙Dを全て埋め尽くし、SiO4六角環を軸方向と軸方向に満遍なく糊付けされて、非常に強固な結晶構造を形作っている
  従って、緑柱石は六方晶系の六角柱状結晶を成し、部分的に弱い結合が無いためへき開はほとんど見られず、モース硬度も7.58と非常に高いが、大空隙Gが空席となっているために比重は2.7とかなり小さい また、微量のクロムイオン(Cr3+)がAl3+と置換され緑色(透明)を呈したものはエメラルド(Emerald)として珍重され、青色(透明)を 呈したものはアクアマリン(Aquamarine)としてやはり貴重な宝石となっている

注)(1)の六角環は酸素イオンの中心を結んだ正四面体で、                
(2)の六角環はSi-O-Si結合を線で表した。(但し、珪素イオンは省略してある)
図 4-10 緑柱石の六方晶系“亀の子”型結晶構造

 

エメラルド原石(加藤氏提供) アクアマリン原石(加藤氏提供)
レッドベリル原石(加藤氏提供) ヘリオドール原石(加藤氏提供)

上の4枚は、「鉱物の加藤さん」提供のエメラルドとアクアマリン、そしてレッドベリルとヘリオドールの写真で、いずれもきれいな六角柱状結晶で高価な宝石になります 特にレッドベリルとヘリオドールは頂部が平らで緑柱石の特徴が顕著に出ています また、ヘリオドールは微量のウラニウムを含み日光の下では黄色ですが電灯の下では青緑色に変わる珍しい石です

(3)電気石の六方晶系“らせん階段”構造
  電気石のSiO4六角環は、図 4-9(b) の低圧cis型と (c)の高温trans型の中間型で、3個で1セットの硼酸イオン(BO3)3-と、交互に軸方向へ積み重なっている また、軸方向には下の図 4-11 に示した六角環の番号(カッコ内)順に酸素イオンが一層分だけずれた位置関係でまるで無数の“らせん階段”のようにつながっているのである 結果的に緑柱石と同様、六方晶系の六角柱状結晶となるわけであるが緑柱石と大きく異なる点は、主軸(軸)の上下両端(六角柱の頂部)に菱形の錐面が現れることと図 4-11 の左上の図(“六角柱の両端に現れる菱形の錐面”)に点線で示したような変形六角柱との組合せから九角柱(稀に三角柱)の結晶も見られることである
  図 4-11 には、八面体空隙の位置がよく分かるように、SiO4六角環を高温trans型で表してあるが、実際は断面図に示した矢印の方向に、SiO4六角環の結合触手となっている12個の酸素イオン(Si-O-:シラノエートとも言い、図中では太線の円で表してある)がずれることによってそれぞれの金属イオン(接着剤)の大きさに対応した、非常に複雑な八面体空隙を形作っている しかし、基本的にはSiO4六角環と3個の(BO3)3-が、面空隙Aに入った3個のAl3+によって強固に糊付けされた原子団 [(Si6O18)Al3(BO3)3]12-軸方向に積み重ね、軸方向にも“らせん階段”状に連結したのが電気石であると言える つまり、この電気石型の原子団は3層に積み重なった酸素イオンからなり酸素イオンの少ない第1層目には水酸イオン(OH-)が入って八面体空隙の形成を助けている そして、酸素イオンを1層ずつずらしながら六角環柱を束ねた時に生じる少し小さめの面空隙Bと大きめの点空隙Dに2価以上の金属イオンが入ることによって、軸方向と軸方向の接着が行われるのである
  電気石Na(Mg,Fe)3Al6(BO3)3(Si6O18)(OH)4を構成している接着剤としての金属イオンは、イオン半径の小さなアルミニウムイオン(Al3+)が6個と、イオン半径の比較的大きいマグネシウムイオン(Mg2+)や鉄イオン(Fe2+)が3個ある しかし、3個のAl3+は既に原子団の形成に使われているので、結果的に、1個のSiO4六角環(原子団)につき3個ずつの面空隙B(B’は 空席)と点空隙Dに、それぞれAl3+Mg2+(またはFe2+)が入ることになる そして、Al3+の入った面空隙Bによって原子団を軸方向にしっかりと糊付けし、Mg2+Fe2+の入った点空隙Dによって軸方向のほか軸方向にも接着されている さらに、大空隙Gは緑柱石よりはかなり小さく、ちょうどナトリウムイオン(Na+)と水酸イオン(OH-)がペアで入れる大きさである
  従って、電気石は六方晶系の六角柱状結晶を成し、平面状の弱い結合が無いためにへき開はほとんど見られず、モース硬度も77.5とかなり高いが、大空隙Gがふさがっているために比重は3.1と緑柱石よりは大きい そして、ペグマタイト形成末期の熱水(高密度水蒸気)の作用によりSiO4六角環が形成されたこともあり、熱水中に溶解しているNa+と共にOH-をも引き込んでいる

6個のSiO4四面体に対する八面体空隙数=面空隙A:3個,面空隙B:6個,点空隙D:3個
図 4-11 電気石の六方晶系“らせん階段”型結晶構造


リシア電気石+リシア雲母(加藤氏提供) 鉄電気石(加藤氏提供)

上の2枚は「鉱物の加藤さん」提供の電気石の写真で、特に薄い緑色を帯びたリシア電気石(FeMgが少なく、代わりにLiAlがセットで入る)は頂部に五角形の錐面が現れたきれいな結晶です また、黒色の鉄電気石(Mgが少ない)は珍しい三角柱状結晶で、頂部に三角形の錐面が現れています 電気石という名前は、加熱してから冷却すると分極帯電することから付けられました

  
4−4.鎖状珪酸塩鉱物の結晶構造                   目次:

  鎖状の珪酸塩鉱物は、SiO4四面体が直鎖状に連結してSiO4チェーンを形成し、これらを束ねて2価以上の金属イオンのイオン結合によって引き締められている そして、鎖が1本から成る単鎖状と、2本平行に連結した複鎖状に分けてはいるがその結晶構造は非常に似かよっていて、外観上は区別がつけにくい 両者の基本組成は、単鎖状が[(SiO3)2-]n 複鎖状が[(Si4O11)6-]nで表され進化の度合が異なるものの、その生成条件は紙一重の差と言える


図 4-12 複鎖状SiO4チェーンの各種基本形

  鎖状の珪酸塩鉱物の主な例として、単鎖状の輝石(Ca,Na)(Mg,Fe,Al,Ti)[(Si,Al)2O6]と、複鎖状では角閃石Ca2Na(Mg,Fe)4(Al,Fe,Ti)[(Si,Al)8O22](OH)2が挙げられる 両者共に、単鎖状や複鎖状に連結したSiO4チェーンが、カンラン石やザクロ石の晶出後に残った 様々な金属イオンを抱き込み高圧でプレスしたような晶出形態を取っているため、比重は3.23.4とかなり大きいが、モース硬度は56で柔らかく、繊維状の結晶を形作っているのが特徴である

(1)鎖状(チェーン)珪酸塩の構造的特徴
  図 4-12 にSiO4チェーンの基本形を示したが、()はクリストバライト型で高温・低圧の極限状態でしか生成せず、()は長石型の原形(図 4-19 参照)でやはり、かなりの高温・低圧下でないと形成されない 従って、高圧下で生成する輝石や角閃石のSiO4チェーンは、専ら()の雲母型に属しているものと考えられる このように鎖状の珪酸塩鉱物は、SiO4四面体がジグザグに連結したSiO4チェーンを束ねて形成されるため独立型と比較してかなり空隙の多い結晶構造を取らざるを得ない 特に、SiO4六角環を有する複鎖状の場合は六角環の内部に大空隙を抱えその傾向に拍車をかけている また軸方向に伸びたSiO4チェーンはそれ自体で構造的な強度を増しているため何ら糊付けの役を成さない1価のアルカリ金属イオン(Na+など)が、大きくなった結晶空隙に取り込まれる場合も多くなり特に複鎖状の角閃石ほど顕著である
  図 4-13図 4-14 に、単鎖状の輝石と複鎖状の角閃石の結晶構造を示したが、SiO4四面体が高圧cis型で軸方向に連結したSiO4チェーンを、裏表逆にしながら軸方向と軸方向に交互に並べイオン結合で引き締めたのが鎖状珪酸塩鉱物の基本構造である 従って、この時に形成される空隙は、SiO4四面体の頂点の 酸素イオンのみで構成する八面体の点空隙Dと、SiO4四面体の面同士が接しているSiO4チェーンの両脇に、頂点と稜で構成する 擬八面体の点空隙Cである(表 4-2 参照) もちろん、点空隙Dの周辺には数が2倍の四面体空隙があり、SiO4四面体の面で挟まれた位置には変形した三角柱空隙などもあるがこれらの空隙は相対的に少なくなった金属イオンにとって糊付けの効率が悪いことと空隙が小さすぎるため利用されることはほとんどない
  また、これらの八面体空隙の中で最も重要な空隙は、SiO4チェーンを軸方向に糊付けすると同時に、SiO4四面体の面同士でチェーンを軸方向にも接着している点空隙Cである 点空隙Cは、複鎖状のSiO4六角環内の大空隙と同様、4-6(2)の雲母の構造でも述べるように、最大有効半径1.6Åまで拡がる可能性を持っている しかし、存在度の高い2価以上の金属イオンで最も大きいのは、イオン半径が1.2Åのカルシウムイオン(Ca2+)であるから、図 4-13 の平面図でも、SiO4四面体の面同士で接している2本のチェーンが 軸方向に互いにずれたり、チェーンを蛇行させたりして空隙のサイズ調節に苦労している跡が見受けられる 従って、点空隙Cに最もふさわしいのはCa2+であると考えられるが、Ca2+が少ない場合はイオン半径のさらに小さいMg2+Fe2+が入れるよう、さらにチェーンのずれを大きくして空隙を縮めている場合もある
  いずれにしても、点空隙Cは非常に効率の良いフレキシブルな空隙であり、接着剤としての2価以上の金属イオンが点空隙Cのみを埋めるだけで、SiO4チェーンをa,b両軸方向に糊付けすることができるのである しかしその反面、イオン結合の結合力が分散して弱くなるという弱点も持っている そして、この弱点を補っているのが、チェーンを構成しているSiO4四面体の頂点同士が形成する点空隙Dである 点空隙Dには、比較的イオン半径の小さい2価以上の金属イオンが入り、SiO4チェーンの“背中(頂点)”同士を強固に接着すると同時に一部軸方向へも糊付けし、点空隙Cの弱い結合力をカバーしている

(2)輝石型単鎖状珪酸塩の“鼓(つづみ)状”断面構造
  単鎖状珪酸塩鉱物の例としては、普通輝石(Ca,Na)(Mg,Fe,Al,Ti)[(Si,Al)2O6]や珪灰石Ca(SiO3)などが挙げられる 結晶構造は図 4-13 に示したように六方にも立方にも属さないが独立型に次ぐ高圧状態で晶出したため、それなりに密な充填構造を形成し後述する複鎖状や層状の珪酸塩鉱物も、同じような結晶構造となっている 単鎖状珪酸塩の代表としての輝石は上述の複雑な化学組成を持つ普通輝石が最も一般的であるが、中には単純な組成のものもある 例えば、透輝石CaMg(SiO3)2や灰鉄輝石CaFe(SiO3)2などは、接着剤がイオン半径の大きいCa2+と他のイオン半径の小さい2価の金属イオンとの組合せからなり上述の普通輝石と共に単斜晶系に属すため、単斜輝石と呼ばれている 一方、イオン半径の小さい2価の金属イオンのみが接着剤となっている、ガン火輝石Mg2(SiO3)2やシソ輝石(Mg,Fe)2(SiO3)2などは斜方晶系に属し、斜方輝石と呼ばれている
  輝石の結晶構造は、図 4-12(a) に太線で示した高圧cis型の単鎖状チェーンが2本、SiO4四面体の頂点が並ぶ“背中”同士で糊付けされた断面が“鼓(つづみ)”状の構造が基本となっている つまり、図 4-13 からも分かるように、“背中”合わせの少し蛇行した単鎖状チェーンを酸素イオン約半個分程度軸方向にずらすことによって生じる(未完成の)空隙Dに2価以上の金属イオンが入ってしっかり糊付けされると側面図に破線で表したように、中央部が少し凹んだ断面が“鼓”状の棒ができあがる そしてこの棒を、単鎖状チェーンのSiO4四面体の面が並ぶ“鼓の腹”同士を合わせるように、やはり酸素イオン半個分ほど軸方向にずらしながら軸方向に積み重ねると、この時生じる(未完成の)空隙Cに2価の金属イオンが入って接着し、面(軸断面)に平行な“洗濯板”状の凸凹シートになる 最後に、この“洗濯板”を凸凹の部分をぴったりと合わせて軸方向に積み重ねると、今まで未完成となっていたCとDの空隙が完全に閉じ両空隙に入っている金属イオンによって軸方向へも接着されるのである
  単斜輝石Ca(Mg,Fe)(SiO3)2における八面体空隙は、単位格子内の8個のSiO4四面体に対し、大きな点空隙Cが4個と比較的小さな点空隙Dが4個あり通常はこれらの全てが2価の金属イオンで埋まっている つまり、イオン半径の大きいCa2+は点空隙Cに、また、イオン半径の比較的小さいMg2+Fe2+は点空隙Dに入ることになる 単斜輝石は、図 4-13 の平面図に示したように空隙Cに大きな金属イオンを抱えているため面同士で接している2本のチェーンのずれが比較的小さくかつチェーンが蛇行して空隙Cを大きく包み込んでいる 従って単鎖状チェーンが軸方向に積み重なる際、軸方向に少しずつずれて軸が約15°傾き、結晶系は単斜晶系となるわけである
  一方、斜方輝石(Mg,Fe)2(SiO3)2の場合は、空隙Cに小さな金属イオンが入るのでチェーンのずれが大きくなっている そして、このずれがちょうど酸素イオンの半径分に相当することから図 4-13 に示した3層目の酸素イオンの間に2層目の酸素イオンがはまりチェーンの蛇行が消えて空隙Cを抱える懐も浅くなる 結果的に、軸方向へのずれはチェーン4層分で元に戻る(単斜輝石を2層ごとに面を鏡面として繰り返す)という軸方向の繰り返し性が出てくるため、結晶系はa,b,c軸が互いに直交した斜方晶系に変わるのである
  ここで、各々の八面体空隙に2価の金属イオンが入った時の結合力を比較してみると、軸方向へのイオン結合の確率は空隙Cの位置で2/4空隙Dの位置で2/6となり、平均は5/12とかなり小さい また、軸方向へのイオン結合のうち、単鎖状チェーンを“腹”同士で接着している空隙Cの確率が2/4“背中”同士で接着している空隙Dでは4/6となっている そして、これら3通りの結合に関与している八面体空隙数は同数でかつ、その全てが2価の金属イオンで埋まっていることから側面図に破線で示した部分の結合力が比較的弱いことがよく分かる

8個のSiO4四面体に対する八面体空隙数=点空隙C:4個,点空隙D:4個
図 4-13 輝石の“鼓状”断面(側面図)と単斜輝石の結晶構造

  つまり、輝石のへき開は、図 4-13 の側面図に示したように、約90°に交わる二つのギザギザの面{110}で起き易いのである さらに、普通輝石の場合は、大きな空隙Cに入っているCa2+がイオン半径のほぼ同じNa+で置換されたり、チェーンのごく一部でAl-同形置換(4-5節参照)が起きることもあり、不足する正の電荷は隣接する小さな空隙Dに3価や4価の金属イオン(Al3+,Fe3+,Ti4+)が2価のMg2+Fe2+の代わりに入って補われるが、この傾向は上記のへき開をより完全なものとしている 従って、普通輝石を初めとする単斜輝石は、これらの直角に近いへき開面と 面(“背中”や“腹”の裂開面)や 面(“洗濯板”の面)を柱面とする、八角柱の柱状結晶になり易いものの細い繊維状の結晶が寄り集まった形状になり易く、後者は特に斜方輝石において顕著である

リシア輝石(加藤氏提供) バラ輝石(加藤氏提供)

「鉱物の加藤さん」提供の輝石の写真です 単斜輝石の一種であるリシア輝石は、Ca2+の代わりにLi+が (Mg,Fe)2+の代わりにAl3+が入り、四角(一部八角)柱に結晶しています また、バラ輝石はマンガン鉱床中に産し単斜輝石に属するものの、Ca2+の大半と(Mg,Fe)2+Mn2+に代わり、結晶系も三斜晶系の板状結晶になります

(3)角閃石型複鎖状珪酸塩の“小太鼓状”断面構造
  複鎖状珪酸塩鉱物の例としては主に角閃石が挙げられ、前述の単鎖状の輝石と同様、単斜角閃石として、普通角閃石Ca2Na(Mg,Fe)4(Al,Fe,Ti)[(Si,Al)8O22](OH)2や透角閃石Ca2Mg5(Si4O11)2(OH)2などがある また、イオン半径の小さな金属イオンのみを接着剤とする斜方角閃石には、直閃石(Mg,Fe)7(Si4O11)2(OH)2などがある これらの角閃石は、輝石よりも低温・低圧下で晶出しているためSiO4四面体の連結がさらに進んで、図 4-12(a) に示したような、SiO4六角環を有する高圧cis型の複鎖状チェーンがその骨格を成している
  角閃石の結晶構造は、複鎖状チェーンの内部にSiO4六角環を抱えていることを除いては、輝石の結晶構造とほとんど同じことから、本項での詳細な説明は割愛する しかし、下の図 4-14 にも示すように水酸イオン(OH-)を含んでいることと、次節で説明する図 4-15(b) のごとく、チェーンのかなめである珪素イオン(Si4+)の1/4までは、容易にAl-同形置換が起こり得る点が、輝石とは大きく異なっているのである 角閃石がOH-イオンを含んでいる原因としては、輝石などの晶出後水分濃度が高くなったことも挙げられるが最も大きな理由はその結晶構造にある つまり、4-6節で述べる雲母などにも共通することであるが図 4-14 に表した複鎖状チェーンが“背中(SiO4四面体の頂点)”同士で糊付けされる際、その接着面にSiO4六角環に起因する大きな空洞を生ずるためである そして、角閃石の晶出時にまだ豊富に存在していたMg2+Fe2+などの2価の金属イオンが、接着面に生じた空隙に入る際に周囲のOH-イオンを引き込んで空洞を埋めより完全な八面体空隙を形成するものと思われる
  このように、OH-イオンをも抱き込んで形成された八面体空隙に、比較的イオン半径の小さな2価の金属イオンが入り、複鎖状チェーンを“背中”同士で糊付けされた形(軸断面=面)は、輝石の“鼓状”に較べ、幅広の“小太鼓状”になっているのである つまり、チェーンを“背中”同士で軸方向に接着する面積が広く、八面体空隙数も多くなって強固に糊付けされていることから図 4-14 の側面図に示した{110}面におけるへき開は輝石以上に完全で二つのへき開の交わる角度も約125°と大きくなっているのが角閃石の大きな特徴である

16個のSiO4四面体に対する八面体空隙数=点空隙C:4個,点空隙D:4個,  
     点空隙E:4個,点空隙F:2個 ,(大空隙G:2個,OH-イオン:4個)
図 4-14 角閃石の“小太鼓状”断面(側面図)と単斜角閃石の結晶構造

  単斜角閃石Ca2(Mg,Fe)5(Si4O11)2(OH)2における八面体空隙は、単位格子内の16個のSiO4四面体に対し、単斜輝石と同等の点空隙Cと点空隙Dが各々4個ずつあるが、さらに、OH-イオンを酸素イオンの代わりに取り込んだ点空隙E(4個)と点空隙F(2個)もあり通常はこれらの全てが2価の金属イオンで埋まっている また、角閃石に特有のSiO4六角環が、チェーンの“腹”同士で接着された際に形成する大空隙Gは2個あり通常は空席となっているのである そして、この大空隙Gを上下から挟むようにOH-イオンが片側に2個ずつ計4個取り込まれ、上記の八面体空隙の形成を助けていることは言うまでもない
  単斜角閃石では、比較的大きな空隙CにCa2+が入り、空隙D(あるいはE,F)にMg2+Fe2+が入ることは単斜輝石とよく似ている しかし、普通角閃石の場合は、チェーンの内部でSi4+の1/4もAl-同形置換が起こることがあり、不足する正の電荷は、専ら大空隙Gにイオン半径の大きいNa+などが入って補われるが、それでも不十分な場合は、近傍の空隙Dに3価のAl3+Fe3+イオンが入って電荷を調整することも多い もちろん、普通輝石と同様に空隙CのCa2+Na+で置換された場合も、空隙DやEに3価の金属イオンを取り込むわけであるが、Al-同形置換と重なった場合は、空隙Dに4価のTi4+イオンを取り込んでいる例もかなりある
  そして、複鎖状チェーンの“背中(SiO4四面体の頂点)”同士で形成する小さな空隙D(あるいはE,F)に、より強力な接着剤である3価以上の金属イオンが集中する傾向は、約125°(又は余角の55°)で交わるへき開をほぼ完全なものとし、このへき開面が形成する菱形断面に“洗濯板”の面も加わって、単斜角閃石は六角柱の柱状結晶になり易い また、細い繊維状結晶の集合体は、これらの単斜角閃石はもちろん斜方角閃石によく現れる結晶形でもあり、粉砕によって簡単にほぐれ柔らかい繊維となるためつい最近まで石綿(アスベスト)として建材(断熱材)などに利用されていた しかし、天然のアスベストから出る針状の粉塵が人間の肺に突き刺さり珪肺や肺ガンを引き起こすことから現在では使用が禁止されている

透角閃石(加藤氏提供) 緑閃石(加藤氏提供)

上の2枚は、「鉱物の加藤さん」提供の透角閃石と緑閃石(陽起石)の写真です 透角閃石は単斜晶系に属し、Feを含まず無色透明で六方晶系によく似た六角柱状結晶を形成し易いため単斜輝石の四角や八角の柱状結晶とは区別できますが写真の透角閃石は2面が突き出た菱形柱状結晶です 緑閃石は透角閃石の一種ですが、2%以上のFeを含むため濃い緑色です 鉄分が多いほど微細な繊維状結晶になり易く、どこにでもある黒っぽい石や岩は更に鉄分の多い普通角閃石が主成分になっています

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